第8話 ヴィダリオン正機士叙任⑤(1章完)
ディバインウェイブによって形成された、光の差さない群青色の空の下どこまでも続く起伏1つない平原。この異空間に転移した白い全身甲冑を纏った機士ヴィダリオンと3匹3色の単眼の黒い魔犬が対峙していた。
『正機士になったとて我らには勝てぬ!』
青い単眼のハウンドクレスタ―の号令で3匹は合体、10m程の大きさとなった。神話の地獄の番犬ケルベロスさながらのその姿は見る者全てに根源的な恐怖心を引き起こす醜怪な姿をしている。
『死ねぇ!』
赤い単眼の首が口から火球を放つ。新たな姿のヴィダリオンは鎧の重さを感じさせない動きで軽々と炎を横に避ける。彼の体に刻まれた浅浮彫は鎧の強度を損なわずに軽量化と優美さを兼ね備えているのだ。
『首は』
『3つあるぞ!』
黄と青の眼もそれぞれに口から火球を連射する。だがヴィダリオンは小ジャンプを前後左右に繰り返し降り注ぐ炎の雨を全て躱した。最後の火球をかわして着地した瞬間、白機士を牙だらけの大口を開けた赤眼の首が眼前に迫り彼を捉えるとヴィダリオンを噛み砕かんと顎に力を込める。
「無駄だ!」
ヴィダリオンは両の手に力を込めて上顎の犬歯を掴むとその膂力で上からかかる、死をもたらす圧力を跳ねのける。
「く、くちが・・・・!」
やがて魔犬の口の中で中腰になったヴィダリオンは犬歯を砕くと同時に跳躍、下顎の犬歯も蹴り砕いて大地に降り立った。
『グオオオッ、おれのはが!』
『ガルウ!?ウっあの光は!?』
黄眼に宿るプレハの意識は白機士が天を裂かんばかりの巨大な銀色のエネルギーを纏った紋章剣を頭上に高々と掲げ必殺の構えをとっている事に気が付く。
「正機士の力と技の極致を受けよ!紋章剣奥義・全身全霊終の太刀!!ヴォ―セアン!!!」
振り下ろされた光の剣は文字通り合体ハウンドクレスタ―を両断。更に剣身からあふれ出る光の奔流が邪悪なる細胞を消し去っていく。
『馬鹿め!夜空の闇が星々の光にかき消されんように我らの神は不滅だ。そしてその眷属たる我々もな!その事を・・・・す・・・・ぐに・・・・・おもいしr』
「ならば俺は、俺達は星の光を、全ての命の光を闇から、お前達から守り抜く。何度でもいつまでも」
不気味な予言を残して光の奔流の中に消え去った邪神官らにヴィダリオンは空を見上げて自身の使命を呟く。その言葉に呼応するかのように群青の空は太陽の光を反射し青く輝く現実の空へと変わっていく。ヴィダリオンは従騎士達の倒れている旧市街の広場に立っていた。
「正機士叙任は無事成功したようだな」
「ああ。不本意ながらな」
ホットスパーことパールウェイカーの軽口に心底苦苦しい口調でヴィダリオンは返す。
全てが終わった、和やかな雰囲気は突如殺気と悪意に覆い隠される。5人の機士はそれを剣王町のどこかと雲一つない空から来るように感じられた。
「空が・・・・!」
たわんでいた。何か重い物を入れた袋の底のように空がグニャリと一部分が落ち込んでいた。底から亀裂が入り赤い爪が次いで赤い体毛に彩られた3つの猟犬の顔が現れると袋を破るように空を引き裂いて合体ハウンドクレスタ―強化体が姿を現した。
『我らは不滅と言ったはず。そして邪神官としての力を全て注ぎ込んだこの姿をとった以上は貴様達を1人残らず鉄屑に変えてくれるわ!』
3つの首が吠える。その衝撃波に従騎士らは空高く吹き飛ばされる。
「皆!グワッ!?」
先程とは比べ物にならない力の蹴りがヴィダリオンを跳ね飛ばし、地獄の魔犬は地面に叩きつけられた仇敵を踏みつける。アスファルトが砕け陥没し、深い穴の中にヴィダリオンは叩き落された。
『やった!』
『待て。他の奴らがヴィダリオンと合流している。まだ何かして来るぞ』
『ならば好都合。合流したところを纏めて葬り去るのみ!』
吹き飛ばされた4人の従騎士はコートオブアームズ・スターシールドを槍状に変形回転させて地中を掘り進むホットスパーを先頭に地下に落とされたヴィダリオンの許へと駆けつけていた。
「生きているな。あの化け物を退治するには合体しかないぜ」
「しかし、ホットスパー・・・・もし敗れれば俺だけでなく皆死ぬことになる・・・!俺は自分だけならまだしも仲間の命を俺の為に散らせるのは嫌なんだよ」
「だが俺達従騎士では奴には勝てない。全員一緒に死ぬか個別に倒されるかの違いだ。ならば少しでも可能性のある方に賭けるべきだ」
メガイロの言葉にカローニンも
「そうです。例え合体しても個別に意識が失われるわけではない。こうなる事は承知の上であなたに正機士叙任を勧めたのは私達の意思でもある。それを無下にしないでもらいたいですね」
「・・・・・わかった。マリニエールもそれでいいな?」
「勿論。どの道時間もないみたいですしね」
マリニエールの言う通りだった。彼らの頭上は赤く染まり高熱が吹き付ける。
機士達は円陣を組む。
「よし。全騎コートオブアームズ展開!」
「「「「応」」」」
「抜刀!」
それぞれの紋章剣を掲げ円の中心で切っ先を合わせるとヴィダリオンは号令を下す。
「全騎合体開始!」
「「「「ヴォ―セアン!」」」」
穴から響く聖戒機士団の鬨の声と火球が着弾するのは同時だった。巨大な火柱が上がりハウンドクレスタ―の赤い眼を持つ首は勝利を雄叫びを上げる。
「ム?待て・・・何か来るぞ」
「あれはなんだ!?ヴィダリオン?だが胸部はメガイロとかいう奴のだが」
「合体したというのか!?」
「そうだ!俺は重装合体ヴィダリオン!!」
火柱の中から現れたのは全長10mの機士。頭部と両肩そして二の腕がヴィダリオン、両前腕がホットスパー、胸部が伸長し頭部が胸の中央に配置されたメガイロ、両足がマリニエール、背部はコートオブアームズ・チェンジマートレットとなったカローニンがレイブルブースターと合体し装着されている。
「がったいしてもおれたちよりチビのくせして!たたきつぶしてやる!!」
合体ハウンドクレスタ―強化体は重装ヴィダリオンを踏み潰そうとするが重装ヴィダリオンは背部の翼を展開しブースターを点火、敵の足裏を掴んで上昇し投げ落とす。
『凄えパワーだ!』
『スターシールドを構えろホットスパー、火球が来るぞ』
マリニエールの言葉が終わらない内にいくつもの火球が重装ヴィダリオンへ殺到する。スターシールドが弾いた火球の1つが旧市街の工事現場に着弾する。
「しまった!?」
『いや、人は周囲にいない。不幸中の幸いですね』
『だが長期戦は町の被害を拡大しかねない』
「ああ、一気に決着をつけるぞ!紋章槍起動!!」
ヴィダリオンの指令でカローニン以外の4騎の紋章剣がメガイロの大剣を中心に連結、最後にカローニンの短剣が切っ先に装着され巨大な騎槍を形成する。
「オーバーチャージ!!」
切っ先から放たれた1条の光が合体ハウンドクレスタ―強化体へ命中。光の竜巻を巻き起こして敵を拘束竜巻は敵とヴィダリオンを繋ぐと同時に敵の核の位置を重ヴィダリオンへ送る。
「紋章槍奥義・疾風怒濤!!」
背部のブースターと翼で最大加速、竜巻の中を敵の核目掛けて突撃する。
「「「「「ヴォーセアン!!!」」」」」
「馬鹿な!!こんな事が・・・我らの力が消えていくゥウウウゥ・・・・!?」
竜巻を破って槍を掲げる重装ヴィダリオンの背後で黒い炎を包みこんだ光の竜巻が爆発する。
「すげえ。強くなった上に合体までするなんて!」
「これで終わったのね」
「いいえ。まだ邪神官共の言う支配者とやらが出てきていません。そいつがいる限りはこの次元はまだ安全ではないでしょう」
星川勇騎と金雀枝杏樹の前に降り立ち、合体を解いたヴィダリオンはまだ戦いは終わっていない事を告げる。
「そんな・・・」
「大丈夫だって!皆で力を合わせればどんな奴が来たって平気さ」
「楽観的だな」
「しかし今は勝利を喜ぶべきですかね。さて上司殿」
カローニン以下従騎士4人が一斉に金属板をヴィダリオンへ渡す。それを見たヴィダリオンは唸り声を漏らす。
「なにこれ?」
「・・・・請求書だ。正機士は部下の従騎士の行動の責任と生活の面倒を見なければならないのだ・・・・」
「そゆこと。『機士たるもの物惜しみしてはならず』いやあいい言葉だな!!ヴィダリオン殿」
ホットスパーがヴィダリオンの肩をポンポンと叩き、上機嫌に去って行く。それを契機に1人、また1人と従騎士達はヴィダリオンの許を去って行く。
「世知辛いんだな、機士って」
「あはは・・・・正機士を嫌がっていた理由ってなんかヴィダリオンらしい理由かも」
「だから・・・・だから正機士になんてなりたくなかったんだァァァー!!」
悲痛な叫びが平和を取り戻した剣王町の空に響き渡るのだった。




