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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
1章 機士の章

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第8話 ヴィダリオン正機士叙任④




 剣王町旧市街に突如現れた三つ首の魔犬へ対処すべくカローニン・ホットスパー・メガイロ・マリニエールは遠巻きに敵を囲む。と言っても攻撃は魔犬の眼からの光を避けながらという、攻撃役1人とかく乱役3人を交代で行うという消極的なものにならざるを得ない。


「駄目か。合体で体毛がゴムの様に攻撃を弾く様だ」


メガイロがコートオブアームズ・アニューレットカノンを怪物の首筋に打ち込むが相手は余裕をアピールするように喉をゴロゴロ言わせて首を振るだけだった。


「ならばこれはどうだ!?」


ペガサス型機動鋼馬ベオタスに跨り空を駆けるホットスパーがコートオブアームズ・スターシールドを槍状に変形、魔犬の1つしかない尾を狙って突撃する。だがそれも魔犬の毛に滑りいなされてしまう。合体ハウンドクレスタ―は逆に尻尾をピンと伸ばしうるさい羽虫を叩き落そうと振り下ろす。


「デカ物が!遅いぜ」


ホットスパーは手綱と拍車でベオタスを巧みに操り大ぶりな尻尾攻撃を躱すがその先に魔犬の赤い単眼が待ち構えていた。


(いちかばちかだ!)


ホットスパーはとっさに左手で紋章剣を抜き顔の前で構える。この方法は光を見ないそしてあわよくば光を相手に反射できるかもしれぬという淡い期待を込めた、事前に決めた対策だった。それは確かにホットスパーには有効だった。彼の剣は赤い光を防ぎ主人を守り通した。


だがベオタスは違う。モロに「行動停止」の赤い光を受けて機能停止、墜落していく。その機を逃すハウンドクレスタ―ではない。青い単眼を持つ首がホットスパーに向くと口から赤い火炎弾を放つ。


「この程度の高さで死ぬなよ、ベオタス!」


一向に動こうとしないベオタスを炎から守るべくとんでもないやり方、すなわち馬を蹴飛ばし彼は飛び上がった。ホットスパーの愛馬への信頼がなせる荒業である。火炎弾は彼と馬の間をすり抜け、地面に着弾する。だが彼には飛行能力はない。


(だよなあ。ここまでか)


ホットスパーは自分に向けてを黄色の単眼を持つ首が第二撃の火炎弾口内に形成するのを見つつ呟いた。


その体が衝撃と共にコートオブアームズ・チェンジマートレットとなったカローニンに吊り上げられるのと魔犬の口が長い鎖で締め上げられるのはどうじだった。



「!?カローニン、助かったぜ。あれは?」


「どうやらマリニエールの特技はクレッセントカッターだけではないようですね」


敵の股下に陣取ったマリニエールの紋章剣は鉄片を繋いだ鞭にもなる蛇腹剣である。彼は剣を実体化させると剣身を鞭状に展開し黄眼の口の巻き付けたのだった。


『小癪な!』


青眼が火炎弾を吐き鎖を断ち切ると赤眼が腹をのぞき込む。


『すばしこいやつ。もういない』


『待て。このエネルギー反応は・・・・!そうかこいつらは全員囮だ。本命はヴィダリオンだ』


このハウンドクレスタ―の思考で止まった動きをメガイロは反撃の好機とみた彼はアニューレットカノンを怪物の眼その物に向けて発射する。自身に被害が及ぶ危険な賭けではあったが彼は敵の最大の攻撃手段が往々にして最大の弱点になり得ることを長年の戦いで経験していた。


だが砲弾が命中寸前巨大な合体ハウンドクレスタ―の姿が掻き消える。


「しまった!奴らヴィダリオンの方へ行ったぞ!」


従機士達は黒い大きな靄を追って走る。彼らは急ぎ過ぎるあまり靄が途中で2つに分かれたのに気が付かなかった。

旧市街の神社へ続く参道は本来ならその両側に所狭しと店屋が並んでいる。だがそれらも今はハウンドクレスタ―の影響で勤労意欲を失った人々によってシャッターが下りていた。その参道広場で待ち構えていた赤眼のハウンドクレスタ―は角を曲がってきた機士達へ赤い光を浴びせる。


「グ・・・・体が」


「う…ご‥・・・か・・ん」


『ひっかかったひっかかった。おまえたちのしまつはあとだ』


そういうとガルウの意識をコピーしたハウンドクレスタ―は残り2匹へと合流すべく駆けだした。



同時刻


「ここは・・・・?」

金雀枝杏樹は様々な色が入り乱れる万華鏡のような世界にいた。その世界の中心に剣王神社の奥殿から現れた謎の光る柱とも棒ともとれる物体があった。


『私を守る宿命の巫女よ。私を邪神官にも機士団にも渡してはならない。それをお前の機士へ伝えるのだ』


声はその棒から聞こえてくるようだ。杏樹の本能はその声の主が超常の力を持つ別次元の存在であることを告げる。


「何故です?ヴィダリオンは、機士達は皆を守る為に戦っています。それにあなたも彼らに力を与えたのではないですか?」


『彼らは末端にすぎない。彼らの長すなわち機士団長は私の力で全ての次元を制覇する野望に燃えている。それは邪神官共の崇める暗黒神の目的と形が違えど同じ物なのだ。末端の者は団長に絶対の服従を義務付けられている。そしてそれに反逆する事をしない。私は目的の為に遠い次元から機士達の中から団長の騎士団の命令に疑問や反発を持つ者を生み出すよう干渉してきた。彼らもその一員なのだ。力を求め過ぎず、時がくれば自身の力を捨てる事のできる者。私の、聖杯の真の守護者とはそのような者だ。最初の者は私を3つに分解し、その一つをここに安置したのだ』


「聖杯・・・の機士・・・それが伝説の武人の正体・・・でも私は・・・・」


『案ずるな。私が教える。叙任を、真のアコレードをヴィダリオンと結ぶのだ。その資格がお前達にはある。私を守る資格が』


その言葉と共に杏樹は自分の体が上昇しているのに気が付いた。


自分の意識が目覚めようとしているのだ。夢を夢と認識するような奇妙な感覚に杏樹は身を任せる事にした。



「おお、気が付いたか、杏樹!?良かった。もう目を覚まさないんじゃないかと思った・・・」


「勇騎君・・・ヴィダリオン、他の皆は?」


「私の正機士叙任に全てを託して往きました」


杏樹は振り返り、三ツ首の魔犬がそれぞれの咆哮に向けて牙を剥き、また火球を口から吐いているのを見る。


「ヴィダリオン」


「はっ」


空気が変わった。それは鈍感な星川勇騎でも分かる程の変化だった。


杏樹は跪き、ヴィダリオンから両手で差し出された剣を受け取ると右手で顔の前に剣を構える。


「戦場、それも急場という事での略式となるが、汝ヴィダリオンを正機士へ任ずる。汝正機士の責務を全うする意思ありや?」


「ハッ」


杏樹は剣をヴィダリオンの右肩に置き尋ねる。


「正機士の責務とは聖杯、主、そして鋼の血で結ばれし兄弟姉妹に忠勇を尽くすことなり。汝その意志ありや?」


(違う。これは普通の叙任ではない。聖杯?機士団への忠節はどこにいった?)


違和感を覚えながらも主たる杏樹の発する絶対的な威厳と高貴さは偽りの物ではない、と感じる。


(ならばはぐれ者の俺に相応しい叙任式じゃないか)


「ハッ」


迷いのない返答。それに満足げな笑みを浮かべる杏樹は彼の左の肩に剣を置き、再度尋ねる。


「世界が崩れようとその使命全うする勇気ありや?」


(哲学的過ぎる・・・こんな難しいのかよ叙任式って)


勇騎の頭はパンク状態だったが当のヴィダリオンも似たようなものだった。


「・・・・・私にはその意味は理解しかねます。ですが世界を守るのが機士の使命。世界が崩れるのを食い止める事こそ我が忠勇の証であります」


「よろしい。では汝ヴィダリオンを正機士と認める」


杏樹がヴィダリオンの兜の正中に剣を置くと剣が輝きを放ち、ヴィダリオンの体を包んでいく。


『そうはさせん!』


杏樹の背後に青と黄の単眼のハウンドクレスタ―が現れ光の球に飛び掛かる。


『何ッ!?』


『電磁牙と爪がボロボロに・・・!』


確かに感触はあった。だがそれは予想しない防御力を得た白い鎧を纏ったヴィダリオンに完全に防がれてしまった。


「ヴィダリオンの姿が変わっている?」


勇騎の言う通りだった。全身は白色となり、兜はバケツ状から球型に変わり頭頂部に丸いトサカ状のパーツが付いており、顔は双眼の面頬と顎当の2つのパーツが付いている。全身でまず目を引くのが巨大な肩当と肘当で肘当は盾替わりとなる。これら全身幾何学模様の浮彫が施されており、これは単なる装飾ではなく薄い装甲でも強度を上げる仕組みとなっているのだ。


「くっ、だが精神の方はどうかな?」


2体のハウンドクレスタ―は単眼から光を放つ。


「無駄だ。白色は何物にも染まらぬ色!お前達の光に汚されはせぬ!」


「ならば・・・・プレハ、ガルウ、後ろの人間を狙うぞ!」


「させん!ディバインウェイブ!!」


ヴィダリオンのマントから金の光が波打ちハウンドクレスタ―らとヴィダリオンが異空間へ消える。


「さあ、決着をつけてやる。正機士の力とくと見よ!」

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