第7話 天敵!電磁を纏う毒蛇④
「皆、大丈夫?」
「はい、何とか。しかしあれはなんだ?」
「棒か?いや槍か?」
電撃を受け全身を焼かれながらも辛うじて無事だった3騎に安堵する杏樹。
「言い伝えは本当だったのね・・・・」
「奴らはあれを狙っているのか?」
燃える建物の中から出てきた白銀にも黄金にも輝く全長4mほどの不可思議な物体に機士達も伝承を知る金雀枝杏樹や星川勇騎も目を丸くする。
「見つけたぞ・・・・!あれが聖杯の最期のパーツ!!機士の1人が持ち出し武器として使用して以降行方が分からなくなっていたステム(グラスの持ち手)だ」
コブラクレスタ―の視線を通して3神官は喝采を上げる。
「よし、コブラクレスタ―あれをひきぬけ」
ガルウの指示にコブラクレスタ―はその巨体を引きずり火災をものともせずに首を突っ込み、金属棒の先端を咥えて引き抜きにかかる。マレフィクスの面々はコブラクレスタ―を含め勝利を確信し、油断していた。この場にいない者もまた瀕死の重傷だと勝手に思い込んでいたのが間違いだった。そうでなければ地の底から響く金属音に邪神官の内の誰かが気が付いていただろう。
誰の耳にも明らかに聞こえる、ドリルが大地を削る耳障りな騒音と共にホットスパーがコブラクレスタ―の尻尾を切断しながら飛び出したのをその場にいた全員が度肝を抜かれた。
「馬鹿な?奴はあの電撃を受けて何故あれだけ動けるのだ!?しかもあれではコブラクレスタ―のエネルギーは完全に無くなり、首の不死性も無くなる」
「右腕に何かつけているな。それの効果か?」
プレハの指摘通り、ホットスパーの右腕には普段身に着けていない腕輪が装着されていた。
「あれ、あのやなきしがつけてた」
ガルウの観察眼の通り、地下のトンネルを辿って瀕死のホットスパーを見つけたマリニエールは自身の持つ『退魔の腕輪』を彼に与えて送り出したのだった。この腕輪はあらゆる状態異常を受け付けず、また装着した者の体を癒す効果を持つ機士団の中でも限られた者にしか使用の許されないアーティファクトなのである。
怒り狂ったコブラクレスタ―は乱入者に噛み付こうとするが、彼方から飛んできたコートオブアームズ・クレッセントカッターに下顎を固定され、更にのたうち回った。
「どうです、その腕輪は?」
「チッ、今回ばかりは疑った事を詫びるよ。このままトドメだ!」
「待ってください!ホットスパー、その場から離れて!雷雲が・・・・!?」
悪運は尽きず。上空の黒雲から雷がコブラクレスタ―と聖杯のステムパーツに直撃しコブラクレスタ―はその不死の力を一時的に回復する。
「しまった!ここまで追い詰めて・・・・だが尾の蓄電機能はないから永続的ではない!ホットスパー、出来る限り奴に電気を無駄撃ちさせなさい。そうすれば・・・」
「んな事出来るか!そんなことしたらここら一帯焼野原だ。皆死んじまうんだぞ!」
「我々の役目は敵を倒す事です。我々はその為だけに生きている。協力してくれる原住民もきっと同じ気持ちのはず」
「それは違うわ、マリニエール!確かに私達はあなた達に協力しているけどそれは生きる為、平和の為よ!私達だけじゃない、あなた達と一緒に生きていくこの町を守る為よ!」
「だが、平和になれば、我々の存在意義は無くなる!戦いの為に創られた私に居場所は・・・・ない」
杏樹の言葉に気圧され、マリニエールの言葉はどんどん弱くなり最期は殆ど聞き取れないほどだった。
(お願いします・・・・かつての武人の剣よ・・・・私の大切な人達を守る為に今一度力をお与えください)
両手を合わせて目を閉じた杏樹の祈りに答える様に聖杯のステムが黄金の光を放ち、全ての機士を包みこむ。
「これは・・・・力が溢れてくる!?」
「いけるぞ!これなら」
「マリニエール、お前の苦悩は理解できる。普段俺がだらけているのも戦いになったら死ぬかもしれないと思って全てが茶番に思えるからだ。だが機士は主命を果たすのも仕事。この力は主の思いの力が俺達に宿った物」
「・・・・・今はそれに応える時か。・・・・指揮は任せるぞヴィダリオン」
諦めにも安堵にも似たため息をつくマリニエールに頷くとヴィダリオンは大声を張り上げる。
「全騎、チャージアタック・フォーメーションだ!配置につけ!」
「「「「ヴォ―セアン!!」」」」
ヴィダリオンを先頭に五角形状に並んだそれぞれの愛馬に騎乗した黄金の機士。
ヴィダリオンは剣を抜き
「チャージ・アタック!!」
号令と共に一糸乱れぬ突撃を敢行。その黄金の矢はコブラクレスタ―の電磁波を受け付けずその巨体を貫くとその残骸は渦を巻く黄金の粒子に変わって空へと昇っていく。金の竜巻は黒雲を払い、雲に隠れていた春の陽光が剣王町を照らすのだった。
「クソぅ!!!またやられた!!」
「あれが・・・・聖杯の力か・・・それも完成していない状態でだ」
興味深そうに映像を眺めるプレハと地団太を踏むガルウ。
「計画を変更する。プレハ、ガルウ、私に力を貸してくれ」
ザパトは聖杯のステムパーツ奪取の為の最後の作戦を実行しようとしていた。彼自身これ以上は自分達の主も失敗を許さないだろうと考えたからである。
「何とか勝てたましたね」
「あの力があればもはや無敵だぜ。これで連中も諦めるだろ」
「ああ。だが・・・・」
ヴィダリオンは心配そうに杏樹を見やる。彼女は祈りを終えた直後崩れ落ちる様に倒れてしまい今、勇騎にお姫様抱っこされた状態で焼失を免れた本殿に運ばれている最中だった。
(主の体に負担をかけるのであればあの力は使えない。これ以外のパワーアップ方はあるにはあるが・・・・だが俺は・・・・)
勝利の喜びに浸る面々の中で唯一この世界の「主」を持つヴィダリオン。
更なる戦いの激化を予見しながらもその心には昔からある葛藤が再びざわめき出したのを誰も知る者はいなかった。




