第5話 ネヴァーモアを超えて③
3機士が進化したレイブンクレスタ―と戦いを繰り広げるのと同時期
星川勇騎も囚われた異空間で必死に自分の先輩である小高泰明へ呼びかけていた。
「先輩、小高先輩、聞こえていますか?小高先輩!?」
小高は視線は目の前のピッチャーの動きに釘付けになったままだ。もはや何度目かもわからない、剣ヶ峰学園の敗北を伝える無慈悲なゲームセットの宣言が審判から伝えられる度に小高の世界は暗転し、あの日の運命を変えるべく彼の意思で再びあの運命の瞬間へと切り替わる。
「先輩・・・・・そうだよな、俺たち以上に悔しいのは先輩だものな・・・・」
試合に集中し、自身の世界に入り込んでいる小高に勇騎は独り言のように語り掛ける。
「だけど、高波も言ってたけどさ、誰も期待してなかったんだよな。それでも先輩はひたむきに頑張ってきてさ、俺達町の皆はその尻馬に乗って騒いでただけなんだよな。ごめんよ先輩。だからそんな苦しい記憶じゃなくてもっといい野球の記憶でさ、先輩のプレーを先輩の努力を見せて下さい!あるはずでしょ!甲子園決めた時の県大会の記憶とか!先輩は意味ないって思うかもしれないけど俺、野球詳しくなくても応援に行こうって思ったのは先輩の練習見てからだし、あんときのホームランには勇気づけられたからさ!」
「・・・・・県大会決勝・・・・」
小高の目から濁った水のような物が取り除かれ、同時に世界が再構成されていく。
「ム・・・何が起こっているのだ!?」
「これは・・・・しまった!こんな事が!?」
邪神官達は小高の精神的変化に狼狽える。その間にも小高の精神に差し込んだ小さな光が大きな変化を彼自身にもたらしていた。
「そうだ。いつの間にか俺は自分だけが苦しんでいると思っていたんだ。でも違う。俺の努力は皆が手伝ってくれたおかげなんだ。だからそれに応えようって思ってずっとやって来たんだ。あの時のホームランも、そうだ」
「先輩・・・・」
「もう一度、町の皆の為に!!」
県大会決勝を再現した小高の世界で彼は再び満塁逆転ホームランを放つ。
そのボールの奇跡は虹になり異空間に穴を開けていく。
「流石だぜ先輩!皆先輩の開けてくれたあの穴から脱出だ。皆で元の世界に帰ろうぜ!」
次々に脱出する『人質』を見てガルウがとんでもない提案をする
「おい、あいつらころさないのか」
「今そんな事をしても逆効果だ。今回は素直にこちらの負けを認めざるを得まい。滴もかなり溜まったしな」
全身を震わせながらザパトはガルウの提案を却下した。
「そうだな。次の作戦準備にかかるとしよう」
もはやレイブンクレスタ―に何の興味も無くなったプレハは次の作戦の為に作り上げていた図像獣の最終調整に入るべく2階へと上がっていく。
空が割れて、異空間へと閉じ込めた人々が飛び出してくる。絶対にありえない光景を見せられたレイブンクレスタ―は驚愕と動揺で鎌を振るう手を止めてしまった。
「今だ!」
ホットスパーことパールウェイカーは右腕に縋りつく。
「そんな事をしようが・・・・ウッ、放せこの獣が!?」
怪物の反対側の腕にガッチリと固定される。機動鋼馬ヴァレルに跨ったカローニンが愛馬の胴を覆う追加装甲を展開し本体と相好を繋ぐアームで挟み込んだのだ。
こうなってしまえばいくら時を止めた所で振り払う事は出来ない。もがき続けるレイブンクレスタ―の胴に短剣の素早い一閃が突き刺さる。
「グっ、これではもう時間停止能力が使えない・・・!?」
「ヴィダリオン、止めだ!」
「応!紋章剣奥義・全身全霊一つの太刀!ヴォ―セアン!!!」
ヴィダリオンは剣を高々と掲げ、必殺剣を構える。猛然と飛び掛かり、レイブンクレスタ―目掛けて振り下ろされたヴィダリオンの剣が怪物を正中線から縦に真っ二つに斬り下げる。怪物の断末魔と爆炎を背に受けてヴィダリオンは剣を仕舞った。
「はあ~今回も大変な目にあった」
「でも勇騎君のおかげでまた前向きにがんばろうって小高先輩言ってくれたじゃない。お手柄よ」
「そう。図像獣対策もな。少しは認めてやる」
「え・・・?」
ヴィダリオンの称賛に耳を疑う勇騎
「少しだけだ。調子に乗るなよ」
「だが、我々も油断があった事は事実。ユウキ殿、これからも何か気づいた時はどんどん言って下さい」
「そうか?そりゃ照れるな」
「勇騎君、助けてくれたのは嬉しかったけどもうあんな無茶は止めてね。私も自分の身を守れるくらいにはならないとって今回そう思ったから」
「杏樹・・・・」
「敵は益々強くなる。どうだ2人とも?俺達の特訓を受けるか?」
「いや、いきなりは勘弁。ちょっとずつやっていくよ、ホットスパー」
(そうさ、皆の力を合わせればきっと守っていけるさ。この町を)
西の空に沈む夕日が勇騎の決意を祝福するかのように燃えていた。
事件から1週間後
剣ヶ峰学園高等部の卒業式は無事に行われた。
正直な所、勇騎は去年自分達の中学時代の卒業式でさえ何の感慨もわかなかった。
だが今回は違う。学年が上がる事や卒業生を送り出す事の意味をそれなりに理解しているつもりだ。
壇上で答辞を読む小高と目が合った気がした。
(俺も先輩みたいに誇りを持って学生生活を送ってかなきゃな)
だが戦いは続いていく。邪教武僧団マレフィクスの新たな作戦は水面下で既に動いていた。




