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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
1章 機士の章

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18/90

第5話 ネヴァーモアを超えて①




 ファルコンクレスターの一件からヴィダリオンらに協力する事になった従騎士カローニンとホットスパーこと従騎士パールウェイカー。


剣王神社の境内でしきりにヴィダリオンを挑発しているホットスパーを星川勇騎と金雀枝杏樹はハラハラしながら見守っていた。


「ファルコンクレスターとの戦いぶりをみて怖気づいたか?黒のヴィダリオン」


「いや、わざわざ実体化するのが面倒なだけだ」


心底興味無さそうに神社の本殿奥の鴨井に架けられた制服からヴィダリオンが欠伸混じりに返す。


「貴様・・・・!俺達の決着はまだついていない事を忘れるな。実体化したくないというならいいだろう。実体化せざるを得んようにしてやる!」


「おい!」


カローニンの制止を振り切り杏樹目掛けてレイピア状の紋章剣を突き出そうとした。無論寸止めするつもりでいる。


「グ?ゴオオオオオ!?ム、胸が苦しい!」


胸を押さえて境内を転げ回るホットスパー


「な、何だ?」


「なるほど。ホットスパーお前、ヴィダリオン卿に何と言われてここに来たのだ?」


「そりゃ、黒のヴィダリオンの助けになれと・・・・それがどうしたと言うんだ?」


荒い息をつきながら立ち上がるホットスパー


「杏樹殿、勇騎殿、私とホットスパーの胸にあるこの緑の宝石ですが契約せずとも単独行動できるかわり授けた者、つまり我らの上司から見て違反行為を取ればこのように罰が下るのですよ」


「西遊記の孫悟空の頭の輪っかみたいね」


「という事はここにいる限り奴と決闘できない?」


「そういう事だな」


「おのれ・・・・しかし何もしなければ腕は鈍るばかり・・・そうだ悪党共を成敗すればいいんだ。これならヴィダリオン卿もお許し下さるだろう」


「そうだじゃない。厄介ごとを増やすなよ」


ヴィダリオンの言葉など既に耳に入っていない。こうと決めたら一直線の男ホットスパーことパールウェイカー。彼はベオタスにひらりと跨るとサッと飛び去って行ってしまった。


「やれやれ。では私はここの手伝いをさせてもらいましょう。色々と御厄介になる訳ですからね」


「それは助かるのう。ではちょっと境内を掃いてくれんか、若いの」


カローニンはいつ間にかやってきた杏樹の祖母リエから竹ほうきを渡される。


「はい」


こうして2月の末に剣王町に2つの名物が増えた。1つは剣王神社に騎士のような姿をした男が入ったことともう1つは夜な夜な悪人を成敗するペガサスに乗った騎士である。だが剣王町の最近の話題は彼らの事ではなく続発する謎の行方不明事件についてであった。


この事件自体は2月の終わりから始まり3月の中頃にようやく決着したのだがその真相は以下の通りである。



3月は別れの季節でもある。


勇騎や杏樹の通う剣ヶ峰学園高等部にも卒業式の日が近づいて来た。


この時期の卒業生たる3年生の胸中は様々であろうが野球部主将小高泰明の心の中にある自身の将来と残していく部員達の未来の不安の大きさは学園で一番大きかったと言っても過言ではなかった。


剣ヶ峰学園野球部は小高が主将になるまでは万年地区予選敗退の弱小だった。それが彼が主将となり野球に架けるガッツとその強打でチームを引っ張っていき、創部以来の初の甲子園出場を果たすまでになっていった。だが2回戦で敗退、それも自分のミスでの敗北という結果は小高の心に大きな後悔を残して今現在もそれを引きずっていた。


俺がいなくなったら?


皆頑張ってはいるが自分ほどのバッターもかといって守備やエースと呼べるピッチャーも後輩の中には居ない。


(俺は野球部の全盛期を作り、自ら壊してしまったんだ)


1学年下のマネージャーで恋人の高波彩が思いつめすぎだという言葉も彼には届かなかった。甲子園敗退後の学生生活は小高にとって灰色の惰性の日々でしかなく、周囲に言われるまま勉強し(スカウトなど当然なかった)県外の一応そこそこの偏差値の大学へ受かりはしたものの彼にとってそれはどうでもよかった。


「ハア・・・・・」


夕方の公園のブランコに座り何度目かのため息をつく。目の前の松の木の枝に


巨大なカラスが下りてきてネヴァーモアと鳴いたように聞こえた


「そう。人生は一度きり。ネヴァーモア、二度と帰ってこない俺の青春」


自嘲する小高の隣に彩が腰を下ろす。


「やっぱりここにいた。泰明さん帰りましょう?」


「ああ、彩か。悪いがもう少しここにいるよ。なんだか家に帰るのもだるいんだ」


「なら私も。悔しいのは野球部全員同じです。泰明さんは大学で、私達は野球部でお互いに野球をまた一から頑張りましょう!それが不安と後悔を払う一番の方法ですよ」


「わかっている。頭では分かっているんだ。でも」


『ついて来るがいい。お前の考えを実現させてやろう』


「!」


「どうしたの?」


「聞こえなかったのか?あの声が」


「声?」


枝のカラスが自分の心を見透かしたように見つめている気がしてならない。

その誘いを受ける様に小高が立ち上がったのを見てカラスは空へと羽ばたきどこかへと案内するようにゆっくりと空を飛ぶ。それを追って小高は走り出した。


「待って!」

不吉な予感に襲われ彩も後を追う。2人は剣王町の旧市街の商店街に来ていた。ここは神社の参道へと繋がる道で旧市街で唯一の人の賑わいのある場所である。そこのある細い路地に例のカラスは消えていった。


彩にはただの路地にしか見えないが小高には何か別の物が見えているらしかった。


「時計屋か。粋な計らいだな」


「そんな物どこにも無いですけど?先輩?泰明さん!?」


彩の目の前で小高の姿はすうっと消えて行ってしまった。



これと同様の神隠し事件というべき謎の行方不明者は増える一方で、消えた人間達が姿を現す事は無く、そして消えるに相応しい理由も、そもそもどこに行ってしまったのか関係者達にも皆目見当もつかないこの不気味な事件に人々は恐れおののき少しでも事件から逃れようと神社の家内安全のお守りをこぞって買い求めた。


彩が息せき切って駆け込んだ売店には思わぬ臨時収入にホクホク顔のリエとその孫で彩の中学時代からの友人の、関係者達に真剣な面持ちで話を聞いている杏樹とその幼馴染の勇騎の姿があった。


「時計屋?」


「そう。見えない時計屋。小高さんはそう言っていたわ」


「でも彩達の行ったあの路地は何もない行き止まりのはずだけど。それにさっきの人と消えた場所も違うのよね・・・・」


ただならぬ表情で駆け込んで来た友人を杏樹は社務所の奥へと案内し、勇騎に後を任せて事の一部始終を聞いていた。


「私にもそうだった。でも彼には違った!彼にしか見えない、感じられない世界に行ってしまったんだわ!」


その真剣かつ悲痛な表情から彩を放っておくべきではないと判断した杏樹は制服の上着を巫女服の上から羽織ると勇騎と彼女と共に例の現場へと向かった。




「いよいよ連中が嗅ぎつけてきたぞ。大丈夫なのか?ご自慢のレイブンクレスタ―とやらは」


「心配ない。人類共を混乱の渦へと叩き込む事と戦闘力を両立させた我がレイブンクレスタ―に死角はない」


旧市街の廃屋の2階で邪神官ザパトはいつも以上に自信をもって同僚の邪神官プレハに断言する。


「あのとけいやのいくうかんってなんだ?」


邪神官ガルウの質問にザパトは種明かしをする。


「あれは各人間共の心の中にある強烈な記憶を再現した特殊空間への入口だ。レイブンクレスタ―はそこへ人間共を誘い込む力を与えてある」


「フム。前回の私のファルコンクレスターと同様の暗黒の滴の量が溜まっているな。人間の後悔の念とやらはそれだけ大きな負の感情なのだな」



「そうだ。そしてそれは例の機士共の異世界生成術でもたどり着けん。そしてその後悔を払拭しても異空間からは脱出できん。現実世界に帰りたいと強く願わない限りはな」


「それは無いと言いたいのか?」


「そうだとも。プレハ、私は人間というものをそしてあの機士共を研究し尽くした。後悔というのは裏返せばそいつが一番自分が輝かしい栄光の入り口かそれその物だったと思い込んでいる代物さ。そんな快感を無限に味わえるなら元の世界に帰る必要性が何処にあるというのかね?」


「なるほどな。戦闘力に関してはこれから見せてもらうとしよう」


「良かろう。行けレイブンクレスタ―」


「やはり何もないな」


(ヴィダリオンは何か感じない?)


(ZZZ・・・・ハッいえ特には!?しかし今と消失事件当時で何か違う事があればそれが何らかの鍵を握っているのでは?)


「どうしたの?独り言を言って?最近の杏樹多いよね独り言」


前回のファルコンクレスターの事件でクラスメイトに口止めをしたため別のクラスの彩は彼女と黒のヴィダリオンとの関係を知らない。


「あ!?ああちょっと考えごとをしてただけ。今と事件直前に何か違う事は無かったかなって」


「そんな事・・・・あ、あれだわあのカラス!あれを見て急に泰明さんが変な言動をして」


路地裏の塀に止まったカラスは一瞬にして人間大の鳥人となる


「ああ・・・・」

怪物の姿を見た彩は気絶。レイブンクレスタ―はそれを好機と見て左腕に装備した時計を模した盾から長針型の剣を引き抜き3人へ襲い掛かる。


「勇騎君、彩をお願い!アコレードヴィダリオン!」


「任せとけ!」


杏樹の制服の校章が光を放ちその中から黒い甲冑を着た偉丈夫が現れると左肩のアイロン型の盾をかざしてレイブンクレスタ―の前に立ち塞がる。


「主らにはかすり傷一つ付けさせん!」


だが


「グオっ!?一体どうなっているんだ?」


レイブンクレスタ―の斬撃は何の技巧もスピードもない振り下ろし。ヴィダリオンはどころか不意打ちでもなければ勇騎や杏樹でさえ躱せる、その程度の物だ。その斬撃をヴィダリオンは脳天に受けたのだ。


「おい、まだ寝ぼけてるのかよ。ちゃんとやれ」


「やっている!ならば!!」


盾に描かれた剣を実体化させ、切りかかるが当たらない。どころか自分より遅いタイミングで振った敵の剣が胴を斬り、火花が散る。


「グ・・・!?」


「また・・・・ヴィダリオン、敵をよく観察して!何か仕掛けがあるわ」


「そうでしょうが・・・・」


三度振るわれる剣をあえて棒立ちで受ける事でカラクリを見出そうするヴィダリオン


「やらせるか!」


空から急降下してきたホットスパーことパールウェイカーがカトラス状の剣を振り下ろし怪物の剣を防ぐ。新手の登場に大きく後ろに飛び下がるレイブンクレスタ―。


「え・・・?」


「ム?」


「おい、だらしないぞ。こんな素人臭い奴にいいようにやられるなんてな」


「ウウム・・・気を付けろホットスパー。奴は何かの呪いを使うらしい」


「フン、言うに事欠いて・・・・これで終わりだ!コートオブアームズ・スターシールド!そしてシールドチェンジ!」


剣をしまうとホットスパーはスターシールドを召喚槍に変形させて突っ込む。だが


「何っ?バカな!?」


いつの間にかスターシールドを叩き落されていた。


「ブブブ・・・お前達には俺は倒せん。創造主様がそう御作り下さったのだ」


不敵に笑うレイブンクレスタ―に距離を取り剣を構えなおす2騎


「では3人がかりではどうかな?」


カローニンの声が路地に響き渡った。

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