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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
1章 機士の章

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第4話 脅威のバイオクレスタ―・地球氷河期計画③



世界初の太陽光と風力発電のみで動く電動ジェット旅客機セレスティアブリス。


その電動ジェット機が変化したファルコンクレスタ―は邪教武僧集団マレフィクスの新兵器バイオクレスタ―だった。バイオクレスタ―は従来のクレスタ―と違い成長し、より高度な知能を持っているのだ。


そのファルコンクレスタ―は今自身の翼の羽毛一つ一つを地上へと落下させていく。羽毛は落下途中でファルコンクレスターそっくりの姿となり世界各地を音速で飛び回る。その翼から発生させる冷凍衝撃波でこのファルコンクレスターベビーというべき存在は地上のあらゆる物を氷漬けにしてしまうのだった。剣王町を凍らせたのもそのベビーの1羽だったのだ。ベビーといっても翼開帳(翼の端から端までの長さ)2.5mという巨体なのだが。


「これがファルコンクレスターの新たな力だ。自身はその巨体で小回りが利かないがそれをこのベビー達でカバーするという訳だ。そしてこのベビー達が世界各地へ暗黒世界と化した地上に相応しい氷の世界を、死のオブジェクトに塗れた世界を作り上げるのだ」


「すばらしい。我らが主もこれにはお喜びだろう。プレハよ、よくやってくれた」


「プレハすごい!」


ファルコンクレスター内部の大型モニターで地上の様子を見ていた3神官は勝ち誇った笑みを浮かべる。対照的に人質として捕らえられた乗客たちは皆絶望的な表情をしていた。機内(体内と言うべきか)はこれ以上ない程に快適な空間なのが尚更彼らを苦しめる。


「もういいだろう!これ以上人々を苦しめて何になるのだ?」


「ところがそれが我らの望みなのですよ。人々が苦しめば苦しむほどそれを救う為にアレが目覚める。絶望が濃ければまた希望も相応に輝く。その希望を」


邪神官ザパトは高麦会長の目の前に拳を突き出すとそれを握りしめる。


「我らが奪う」


「一体何を言っているのかね?君達のいう事が私にはさっぱり分からない。アレとは何を指しているのだね?」


「フ・・・それはこれから分かる」


「ああっ!?またやられた!!チクショウ、あのちょこまか小僧と機士め!」


ザパトが振り返るとモニターの前でガルウが地団太を踏んでいた。



「よーし、うまく引っかかってくれたが、ハクショ、後何体いるんだ?」


フレイムボンバーに惹かれた隙をつかれてヴィダリオンの紋章剣に切り裂かれたファルコンクレスターベビーの爆発を背に受けて星川勇騎と金雀枝杏樹は機動鋼馬マスルガに乗って剣王町を駆けまわっていた。


目的は勿論町を守る為、ヴィダリオンの攻撃の隙を作る為である。


「平気か、杏樹?」


「私は大丈夫。でもこれも敵は見ているわよね?どれだけ有効かしら?」


「出来る限りさ。今の所杏樹の考えた通り、あの小さい奴らは生まれたての赤ちゃんだから何にでも興味を示して食いついてきている」


「TV中継であの鳥たちの誕生の瞬間を見たのとバイオって名称から思いついたんだけどね」


「しかし推測は当たりました。流石は主」


「あなたの力と勇騎君の手綱さばきがあってできる事よ」


「それはその速度だからです。私と並走する程度の速さではマスルガを乗りこなしているとはとても言えない。筋がいいのは認めますが」


「おお、初めて褒められた」


「勇騎君、前!!」


「左右もだ!」


とある十字路に差し掛かった一行にその四方向から兄弟の仇を討たんと迫る4羽のファルコンクレスターベビーが迫る。


「う、うわっ」


手綱を強引に引っ張った事でマスルガは馬首をのけ反らせて立ち止まってしまう。


「2人とも伏せて!紋章剣・竜巻返し!!」


ヴィダリオンは剣を抜き放ち頭上で回転、それによって発生した竜巻で4羽を拘束。振り下ろされた斬撃に纏めて切り裂かれる。


「もう、すぐに調子に乗るんだから」


「あ、ああ。悪かった杏樹。助かったよヴィダリオン」


「いかん!マスルガ、駆けろ!!」


声と同時にヴィダリオンは飛びのき、マスルガも一足飛びに30mも跳躍する。


轟音と共に彼らがさっきまで立っていた場所に巨大な3本のツララが刺さっていた。その大きさは周囲の家などよりも数倍の大きさだった。


「なんだ?」


「もしかして親の攻撃・・・」


「でしょうね。そしてその対抗手段はない。逃げる以外には」


「逃げるって何処へ?」


「主、勝手をお許し下さい」


ヴィダリオンはマスルガに飛び乗ると有無を言わさずマスルガを走らせる。


「ヴィダリオン、あなたまさか」


「はい。次元が開く時が来ました。じきに仲間が来るでしょうから、私の装備を持ってきてもらいます」


「それなら勝てるのか?」


「分からん。だが今のままよりはマシだ」


落下してくるツララをジグザグに走る事で避けながらマスルガは剣王神社への道をひた走る。


(チッ、もう次元が繋がってやがる。それにマズイ奴が1人来やがった。フィッツガルト監督官が直々に?今更俺を更迭する気か?)


ヴィダリオンのセンサーは3人の同胞がデウスウルトから次元を超えてやって来たのを感知する。その中には剣ではなく舌で出世した『腰巾着』とあだ名される監督官フィッツガルトがいる事を知りヴィダリオンは心の中で舌打ちする。その嫌味な性格は従騎士達からは煙たがられていたし、それによって自分を知る者がいないという一種の前向きな孤独と平穏が破られるのが嫌だった。だがこの状況ではいないよりマシなのだ。




デウスウルトの聖械機士団本部の中庭


「何故私が辺境の次元に前線基地を建てに行かなければならないんだ・・・・そもそも我らの創造主のいる次元に今更何があるというのだ?しかも勇者ヴィダリオンはこれず、代わりにあのホットスパーを寄こす始末だ」


地球がファルコンクレスターの脅威に晒される頃、監督官フィッツガルトは自身の従者にして黒のヴィダリオンの友人でもあるカローニンに聞こえないほどの小声でブツクサ文句を言っていた。


昔の世代はともかく今の世代であるフィッツガルトだけでなく聖械機士団の大半の団員が地球という次元を探すという『団の悲願』とやらに懐疑的だった。これに血道を上げているのは現在は団長であるザルツァフォンだけで、それも歴代の団長だけに伝えられるという口伝という曖昧な代物を信じているのだ。当然それが何であるかはフィッツガルトは知らないし大して興味も無かった。ただ生きる為には団長の命令に従う他はないからそうしているだけで、何か適当な理由があればすぐにでも帰りたい。それが本音だった。


「しかし、黒のヴィダリオンは相当慌てて行ったようですね。コートオブアームズを忘れて行くなんて」


「フン、辺境という事で舐めているのだ。だから報告一つよこさん。これを渡しておこう、カローニン。現地ではお前に動いてもらうからな」


そう言うとフィッツガルトは懐からエメラルドグリーンの宝石を渡す。それは中を覗くと槍に2本の剣が交差している団の紋章が見えるという特殊な加工が施されており、従騎士以下の者が自由に動けるようになる装置だった。


「ありがとうございます」


青みがかった灰色の従騎士カローニンは恭しくそれを受け取る。それを胸の中央に当てると宝石は融合し、胸甲と一体化した。そこに荒々しい足音が響くとフィッツガルトは今度は周囲にも聞こえるほどの舌打ちをする。


「従騎士パールウェイカー!そなたには品位というものは無いのか!?」


「いいえ。我が家が伝統ある名家というのはただの偶然に過ぎません。私にあるのはあの黒のヴィダリオンと士官学校時代の決着をつけるという事のみ」


「ヴィダリオン卿は私を助けるためにお前を派遣したのだぞ。それを忘れるな」


(偶然だと?その偶然を最大限に利用して何を言うか)


フィッツガルトはパールウェイカーの袖にエングレービングの施された赤灰色の鎧と彼の機動鋼馬ベオタスを見て不機嫌になる。ベオタスはフィッツガルトやカローニン程度では到底手に入れられないほどの高価な駿馬なのだ。


「相変わらずだな。短気者のお前がどれだけ成長したか見せてもらおう」


「カローニンか。すぐにわかるさ」


パールウェイカーは左肩の盾を叩きながら挑戦的な口調で返す。


ホットスパー(短気者)のあだ名の通り彼を本名で呼ぶものは殆どいない。彼は士官学校で禁止されている決闘を再三に行い、遂に退学処分。実家を追放されて放浪している時にその血気さを買った勇者ヴィダリオンの従者となり数々の戦場を駆けてきた。そんなわけで若い従騎士連中の中では最も実戦経験豊富な彼を寄こすというのはそのすぐに頭に血が上る人格面さえ除けば適任といえた。


「無駄口を叩くな。そろそろ次元が開く。穴を抜けたら1か月前奴が降下した位置に出るぞ」


それぞれの機動鋼馬に跨った3騎の前に夜の闇のような黒々とした穴が開く。次元の入口である。そこにフィッツガルトを先頭にしてその斜め後ろ左右にカローニンとホットスパーが続く。暗い穴を抜けた3騎は赤い流星となって剣王神社の上空へとやってきた。


「3つの赤い流星!?もしかして?」


「そうです。私の仲間2人と上役1人が来ます。私が主達と出会ったあの場所で合流します」


3人を乗せたマスルガが神社の鎮守の木に到着したのと3つの流星が地面に降り立ったのはほぼ同時だった。マスルガから下馬したヴィダリオンが跪くのを待っていたように流星の光が消えて、3騎の馬に乗った機士が現れる。


「ようこそ監督官フィッツガルト、それにカローニンと・・・・ホットスパーか?まだ生きていたのか?」


威厳を保つように咳払いしたフィッツガルトが重々しく言い放つ


「従騎士ヴィダリオン、報告を1つも寄こさぬとはどういう訳か?そして直ちに現状を報告せよ」


「ハ、マニフィクス共は新型図像獣を開発。その新型を以て現在この世界全体の空を覆いつくさんと画策しています。そして今はその図像獣の眷属と交戦中であります」


「よろしい。では従騎士諸君は直ちに空の化け物を撃滅。私はこの下に見える建物を機士団の前線基地として接収しそこで情報収集を行う。直ちに掛かれ」


「ちょっと待ってください」


「そうだぜ。いきなり来てそんな言い方はないだろ」


有無を言わさぬ物言いに勇騎と杏樹が待ったをかける。


「ム、この世界の住人か。名高き聖械機士団に協力するのは大変な名誉だぞ。それを・・・」


「あの建物は私の主の実家です。それもこの地の重要な建物でもあるのです」


「ならば尚更好都合ではないか」


「おい」


ホットスパーが何か言いかけたがカローニンがそれよりも早口でまくし立てる。


「監督官、先にその新型図像獣を倒すのが先決では?あれが空にいては今後の我らの行動も奴らに筒抜けも同然。ここは一休みする場を借りるだけにしてはいかがでしょう」


「・・・・・そうだな。カローニン、お前の意見を容れるとしよう。では図像獣は任せるぞ」


渋々神社に馬を向けて馬を勧めるフィッツガルトを見送ると従騎士達はため息をついて馬を降りて作戦会議の為に腰を下ろした。

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