第4話 脅威のバイオクレスタ―・地球氷河期計画②
『ブンゲンチャンネルをご視聴の皆様、お待たせしました~本日は今話題のエコ旅客機、セレスティアブリスの内部を大鷲航空の許可のもと独占公開で~す』
分限広人のブンゲンチャンネルの登録者はお世辞にも多いとは言えない、マイナーチャンネルである。だからこそこの機会に登録者を爆上げしたいと思っていた。
『みて下さい、この広々としたシート、この間隔の広さ。う~ん、フカフカ。セレスティアブリス、天上の至福の名の通りですね。まさに高級ホテルや別荘にいる感覚です』
「あいつめ、ナチュラルに嫌味な金持ちポーズで座りやがって。こんなんじゃ登録者なんて伸びる訳ないだろ。お前じゃなくて機内を映せよ」
「そういう事言わないの。折角見せてくれてるんだから」
勇騎と杏樹は昼食後、スマホでブンゲンチャンネルを見ながら悪態をつく。同じことを思っている視聴者からのコメントがいくつも書き込まれていく。
『ああ、内装ね。内装はこんな感じです。どうです、宮殿みたいでしょ?色々新技術の塊でそれの関係で大型化しているから普通のジェット機の半分くらいしか人が乗れないんですよね。その分サービスで勝負ってところ。本領発揮はこれからですよ、皆さん。動くところ瞬間をぜひ見ていって下さい』
やがてゲスト全てが搭乗し、セレスティアブリスは離陸の為に滑走路を走りだす。その動きは滑らかで殆ど無音といってもいいくらいの静かさだった。
『音が聞こえますでしょうか?編集とかまるでしてないんですけどね、まるで白鳥が湖を優雅に泳いでいる、そんな感じです。いやア揺れもないし、轟音もない。こんな完璧な発進は今まで見た事ありませんよ。おや?・・・・は!?』
ブンゲンチャンネルのカメラは前方のドア、すなわちその先に操縦室とか機内スタッフの待機室があるドアへとそのレンズを向けた。そこからCAと機長や副機長のネームプレートを付けたスタッフが続々と客室へと入ってくると一列に並ぶ。その後からやや時間を置いて黒いフードとマントを付けた全身黒づくめの3人の人物が入ってくる。この3人の内の先頭にいた黄色の瞳の人物がお辞儀をすると若い女の声で恐るべき宣言を高らかに上げる
「本日はわがバイオクレスタ―第一号の誕生の為にお集まり頂きどうもありがとう。この人類の英知の結晶というべき鉄の鳥は間もなく人類を滅ぼす悪魔へと変わる。その瞬間をぜひご覧いただきたい」
機内は騒然となる。機長や副機長がここにいるのに誰がこの飛行機を動かしているのか?そして自分達はどうなるのか?バカげたことはやめろという声が機内のあちこちから上がるが3人の不審人物達はただ笑って受け流すのみだった。
「では論より証拠をお見せしましょう。モニターの映像が信じられないというのなら外を見てみるのだな」
客室正面のモニターにはセレスティアブリスの白銀の姿が黒みがかった茶色の巨大なワシだかタカのような巨大な鳥へと変化していく様が映し出されていた。
『ひえっ、これはマジックやフェイク画像じゃありません!?見て下さい!?』
ブンゲンチャンネルのカメラも窓からジェット機の金属の滑らかな翼が羽毛の生えた鳥の翼へと変化していく様を中継するが途中で配信は切れる。変身により内部の電波が一切遮断されたのだ。
「ハハハハハ、フッハハハハハ!見よ!!これがバイオクレスタ―・ファルコンクレスタ―の誕生の瞬間だ!諸君らはこれより人質兼この世が地獄となる様を眺める特等席の観客として我らにお付き合い頂こう」
邪神官プレハの宣言を合図にファルコンクレスタ―は甲高い声で一声鳴くと大空へと飛び立っていった。
最新鋭ジェット機が怪物へと姿を変えるその様子を唖然として眺める周囲の人々。TVと配信でその混乱を見ていた勇騎と杏樹は即座に分限や一緒に行っている新井陸や他のクラスメイトへ電話を入れるが圏外だった。
「クソッ、ダメだ繋がらねえ。杏樹、そっちはどうだ?」
「ダメ。こっちも誰も繋がらない」
2人は縋るように杏樹の制服を見上げる。
「さあ、連中の意図はわかりかねます。そもそもバイオクレスタ―なる物も今日初めて耳にするので」
「連中の新兵器ってことか?あんなでっかいので何するつもりだ?」
「分からんと言っているだろう。アレの元になった飛行機とかいうのは人を乗せて運ぶ以外に何か用途があるか?そこから連中の目的がわかるかもしれん」
「人や物を運ぶ以外に旅客機は使われないわ。でももし戦いに使うとするなら・・・・・まさか爆撃!?」
「空から爆弾落して攻撃してくるってのか?ヴィダリオン、お前飛べるか?」
「今の状態では無理だ」
あっさり返すヴィダリオンに勇騎は項垂れる。
「そうだよな。そんなうまい話はないよな。クソッ、見てることしか出来ないのか!?」
歯噛みしながら勇騎はTV中継を見る。速報で各TV局はヘリでファルコンクレスタ―を追ってその様子を中継していた。周りにいる羽虫のような音を立てるヘリを全く気にせずファルコンクレスタ―はどんどん上昇していく。
「ひたすら上に上昇している?一体何をするつもりなのかしら?」
「わからねえ。でもあの角度じゃ中の人達は大変な事になってないか?ん?」
「どうしたの?」
「いや、気のせいかさっきよりあのクレスタ―でかくなってないか?」
『ユウキの言う通りだ。あのクレスタ―はかなりの勢いで巨大化している。太陽光を吸収してな。俺には分かる』
「巨大化ってどれくらいまで大きくなるの?」
『それは分かりません。しかし今の奴は大きくなることが目的である事は間違いありません。だから太陽の近くへと近づいているのでしょう』
「そうか。セレスティアブリスは太陽光発電でエネルギーを賄うからそれで狙われたのか」
勇騎の考えは当たっていた。彼の説明を今まさにセレスティアブリスいや、ファルコンクレスタ―内部でプレハがしていたのだった。だが殆ど垂直に近い機内で吸盤でもついているかの様に平然とする彼女の説明を聞いている者は殆どいない。何故なら急角度・急速度で上昇し続けるファルコンクレスタ―の起こすG(衝撃)に耐えなければならないというもっと早急な緊急事項があるからだった。
「ファルコンクレスタ―は元の旅客機の特性である太陽光発電を利用し外の太陽熱を吸収して無限に大きくなる。それこそこの世界全てを覆いつくすほどに。そうなれば地上世界は太陽の届かぬ極寒の世界となって直に滅びる事になる。その様を諸君にはぜひとも見て頂きたい」
やがて機内は水平となり、乗客はほっと一息ついたのもつかの間今度は新たな事態に開いた口が塞がらない。自分達の前後左右が搭乗した時よりも広がっていたからだ。
当たり前の話ではある。少し考えれば外見が大きくなっているのだから内部だって同じように拡張されてしかるべきなのだ。だが現実問題としてその当時者としてその場面に居合わせるという事はその考える時間を与えてはくれないのだ。
「君達は一体私達をどうするつもりかね?」
「特に何も。座って大人しくして下さればそれで構いません」
高麦会長は流石に冷静だった。だが目の前にいる3人の黒づくめ達の意図は人生経験豊富な彼でも測りかねる相手だった。
「本当に世界を凍らせるとしてそれで何か君達の得になるのか?」
「当然。世界が混乱すればするほどに我らが主はお喜びになる。そして主の望みが達成される事となるのだ」
「馬鹿な!現代にこんな邪教が生き残っているとは!?それもこの日本のわが社が標的にされようとは・・・・」
高麦会長は彼女の『しゅ』という言葉に宗教的匂いを感じ取り、同時に彼らがこちらの話の通じない世界観を持つテロリストだと断じて絶望のため息共に顔を覆う。かなりの時間が経っても一向に改善しない絶望的な状況の中会長はある提案をした。
「君達、この内部はどう変わっているのか判るかね?そろそろ昼時だと思う。食糧庫が無事ならぜひお客様にスタッフ共々食事を提供したいのだが?」
「いいでしょう。内部は何も変わっていませんよ。大きくなった以外はね。食事もこの機の目玉の一つでしたからね。空の様子を見ながら食べる食事は格別でしょうからね」
プレハはあっさりと了承した。それを感嘆の眼差しで見つめるザパトと機内を無邪気に探索していたガルウが帰ってきた。
「素晴らしい。申し分ない速度で成長しているな。後3日もあればこの世界全土を覆いつくせると計算したが。だが連中が黙って見ているとも思えない。ファルコンクレスタ―に防御装備はあるのか?」
「抜かりはない。連中の食後に面白い物を見せてやるつもりだ。ガルウ、どうだ初の飛行機の探検は?」
「おもしろい。でもこいつらが絶望してるとこもっとおもしろい」
「もっともっと面白くなるぞ」
プレハは窓の外の海面を見ると満足そうに頷いて、巨大化した機内で食事を配るのに四苦八苦する機内スタッフ達を見て邪悪な笑みを浮かべる。
ファルコンクレスタ―が飛び立って5時間。普通ならそろそろ夕方になろうかという時間帯だった。だがこの日は違う。数時間前から夜中の様に暗いのだ。にわか雨でも降るのかと洗濯物を取り込みに外に出た勇騎は空を見て絶句した。何か黒いモノに空一面が覆われていたのだ。
「なんじゃありゃあ!?」
『恐らく成長したバイオクレスタ―だろう』
家の中からヴィダリオンの至極冷静な返事が返ってくる。
勇騎は家の中に駆け込むと切っていたTVを再び点けた。
TVのワイドショーでは衛星写真に写るファルコンクレスタ―は既に日本列島を覆いつくす程の大きさに巨大化し、さらに刻一刻とリアルタイムに成長していく様とどこまでこの怪物が大きくなるのか、今後の生活にどんな影響があるかという内容を専門家達が解説していた。
『空に浮かんでいるだけで混乱を巻き起こすクレスタ―か。厄介だな』
「何とかならないのかよ。あのマスルガだっけ?機械の馬に乗って空を飛ぶとか」
「無理だ。マスルガの跳べる範囲を超えているし、よしんば馬上で俺が跳び跳ねてもあの高度には届かん」
「中にいる皆は無事かしら?」
「動画もきれちまったからなあ。TV中継見る限り変身した後でも一部の窓の様子から見た感じだと中は変わってないみたいだから皆無事みたいだけど」
「良かった。でも夜はどうするのかしら?今の地上のここよりもずっと上空は寒いはずだわ。皆が凍えてしまう前に何とか対策を考えないと」
「対策っていってもなあ。まさか飛行機を借りる訳にもいかないし」
再び外へ出ようとした勇騎は窓の外の空に何かが通りすぎるのを見て立ち止まる。
ゴウッという衝撃波を後に引きながら猛スピードで去って行った何かは東の空へと飛んでいく。それ以上に目を引くのはその何かが通過した後の地面や家々や塀、洗濯物を干す物干し竿という外にある物全てが凍り付いていたのだ。
「やばいぞこれは!?」
勇騎は新たな脅威と寒さに身を震わせながら窓の外をただ眺めるしかなかった。




