第3話 飛べない天使は愛の使者③
外へ飛び出したゴートクレスタ―はその使命である裏切者シープクレスタ―を抹殺すべく彼女の許へ向かう途中、別のデパートに押し入り火炎でチョコを焼き尽くす。
これより少し前
自身を狙う刺客がいるとも知らないシープクレスタ―は同じ繁華街のちょうど反対側で手放した風船が木に引っかかって泣いている女の子の為に奮闘している最中だった。最初は羽をばたつかせながらピョンピョン跳んでいたのだが手が届かずやむなく木に登る為その短い手足を懸命に動かしている。
ヴィダリオン、星川勇騎、金雀枝杏樹はその様子を少し離れたビルの影から見ていた。
「そう言えば、なんで俺あてのチョコなのに俺じゃなくてヴィダリオンに惚れたんだろ?」
「フーン、勇騎君はああいうのが好み?」
「違うっての」
「図像獣は機械だからな。だから同じ機械である私に思うところがあったのだろう」
「そうか。やっぱりヴィダリオンは俺達人間とは違うんだな」
「何だ、知らなかったのか?聖械機士団と言えばどこでも有名だと思っていたのだが」
「それよりも、あなたさっき私が呼んでないのに来たわよね。あれは?」
「う・・・・実は契約そのものが完全ではないのでああいう事もできると・・・」
杏樹からの追及の視線にヴィダリオンが気まずそうに視線を逸らす。
「あ~やっぱ見ちゃいられねえや。ちょっと手伝ってくる。多分あれは無理だな。翼部分が引っかかって前に進めないよ」
そう言うと勇騎は物陰から飛び出すと女の子に見つからない様に進むと器用な手つきでスルスルと木に登り枝から風船を外すとシープクレスタ―に渡す。
「ほらよ」
「‥‥自分で渡したら?」
「何言ってんだ。俺はお前に出来ない事をやっただけだ。これはお前が始めた事なんだからお前が渡すのが筋だろ?この枝と葉っぱで丁度俺の姿は見えないから」
「でもどう言えば・・・」
「そこはホラ、天使パワーってことでいいだろうが」
「天使パワー?そう言えばあの子もそんな事を言っていたわね」
「ほれ早く行け」
「礼は言わないわ。怪しまれるから」
そう言うとシープクレスタ―は風船を持って木から降りると女の子に渡す。
「わあ!ありがとう天使さん」
(これが信頼や絆というのかしら?もっと確かめなければ)
手を振って去って行く女の子に無意識に手を振りながら自分の感情に戸惑うシープクレスタ―はその場を後にして繁華街を進んでいく。
「で?認めてやってもいいんじゃないか、ヴィダリオン」
「甘いなユウキ。連中は狡猾だ。これくらいの偽装はやってのける。我らの敵とはそういう奴らなのだ」
ヴィダリオンはシープクレスタ―の後を追う。それに勇騎と杏樹も続く。
繫華街の北側から中心地である偃月地区への道中には比較的長いスロープ付き階段がある。階段を上るシープクレスタ―はそのスロープをベビーカーを押して上っていく若い夫婦とすれ違う。
(私もあの方とあんな風になれたら)
「ゥ・・・」
「どうしたの?」
「いや急に寒気が・・・ご心配なく主」
シープクレスタ―はその家族に自分とヴィダリオンの将来を妄想し、それが伝わったのかヴィダリオンが怖気を震わせて立ち止まると階段の物陰に引っ込む。
だが平和な光景は悲鳴1つで容易に壊れる。後ろからスケートボードでスロープを下っていた若者がこの夫婦と追突しそうになり、互いに体を逸らすが若者の体がベビーカーに接触、夫婦の手から離れたベビーカーはスロープを斜めに滑り落ち、階段にぶつかってはね上がった。
誰もが赤ちゃんごと横転するものと思っていたベビーカーを地面に激突寸前、どこからか現れたピンクのリボンが受け止める。それはシープクレスタ―の体毛だった。
「ああ、ありがとうございます」
「本当にありがとうございます」
リボンを巧みに操ってベビーカーを両親の目の前に置いたシープクレスタ―に夫婦はお礼と感謝の言葉を掛ける。
「いえ。お気になさらず」
シープクレスタ―はベビーカーの中で笑っている、赤ちゃんに微笑むと足早に去って行く。
「奴めあんな能力があったとは」
「そこじゃないだろ、感心するのは」
「急ぎましょう。階段上ったら一番賑やかな偃月地区だから見失うわ」
繫華街の偃月地区は今まさにゴートクレスタ―の巻き起こした混乱の最中だった。それを知らないシープクレスタ―は逃げ惑う人々に困惑しながらもその原因を探ろうと辺りを見回す。そこに繁華街の大通りを混乱からいち早く抜け出るためだろう、猛スピードで飛ばす自動車が逃げ惑う人々の中へ突っ込んで来た。更なる脅威の登場に辺り一帯は更なる悲鳴と怒号が飛び交う。
(助けなければ!)
シープクレスタ―はリボンを伸ばして自動車を搦めとり、その暴走を止めようとするが咄嗟の事でもあり、逆に引きずられていく。
(もうダメ・・・・!)
諦めかけ、目を閉じたその時グン、と衝撃が走り、伸び切っていたリボンが緩む。
「間一髪だったな」
「ヴィダリオン様!初めての共同作業嬉しいです!」
「勘違いするな。俺は主の命令に従っただけだ。犠牲者を出すな、とな」
ヴィダリオンはぶっきらぼうに言うと中を確認し、運転手が気絶しているのを確認すると近くのデパート付近の路肩に車を寄せる。後ろからの勇騎と杏樹の人々の避難誘導を促す声を聞きながら
「ところで、この騒ぎに何か心当たりはあるか?実は微弱だがお前とは違うクレスタ―の反応を感知しているのだが」
「多分近くにいるでしょう。でも正確な位置までは」
分からない、と言いかけた所でデパートの1階が炎に包まれる。
「見つけたゴウ、裏切り者め!死ね!!」
「いかん!」
ゴートクレスタ―がシープクレスタ―を抹殺すべく放った10万℃の炎をヴィダリオンがその身を挺して防ぐ。
「ヴィダリオン様!なぜ?」
「敵を守るとは馬鹿だゴウ! 」
「違うな。彼女は俺達の仲間だ。人を守るのに姿形、出自は関係ないのだ。それが貴様との違いだ!」
そしてシープクレスタ―を振り返り
「建物の中にまだ人がいるだろう。お前の機械の体なら難なく探せるはず。頼む。ここは俺に任せろ」
「はい!」
「行かせるか」
「やらせん!」
ゴートクレスタ―に飛び掛かったヴィダリオン。だがゴートクレスタ―の力は思いのほか強く投げ飛ばされる。
「やるな!だがディバインウェイブ!」
「ヒエッ!?・・・・・・何も起きてないぞ?ええと、そうだ!俺の炎はお前達の動力源エスカッシャン・ハートのエネルギーを阻害するのだとか言っていたな」
「何だと!?ウッ・・・力が・・入らん・・」
膝をつくヴィダリオンをいたぶるようにゴートクレスタ―の蹴りがヒットし、吹き飛ばす。
「誰か残っている人はいませんか~?」
シープクレスタ―は炎に包まれたデパート内を探索する。ヒッという声と続けてバタバタという足音を追ってみると親とはぐれたのだろう、小さな男の子が自分を見て逃げていく。
「待って!」
追いかけるが足音は止まない。男の子は火と煙、そして不審な影から逃げる様に階段を上っていくが遂にその行く手を炎に遮られてしまう。
「く、くるなあ!」
「大丈夫。あなたは私が守るから」
「そんなこと言って、もう助からないよ!この火の中どうするんだよ!?」
「あるわ。さあ掴まって。目を閉じて」
シープクレスタ―は男の子を抱き上げると男の子を守るように抱きしめると窓の外へと飛びリボンを適当な場所に結ぼうとするがリボンがうまく動かなかった。
(しまった!あの炎の影響で!?どうしたら?)
最後の悪あがきとばかりに飛ぶ事の出来ない、飾りの羽を動かす。それは炎が生み出した上昇気流で僅かばかりだが揚力を与え落下速度を減衰させた。
(ああ、私も遂に飛べた)
胸にこみあげてくる達成感を抱きながらシープクレスタ―は地面に叩きつけられる。
「天使さん!?大丈夫?」
「平気。だって私は天使だから。さあ逃げなさい」
シープクレスタ―は男の子と嬲られるヴィダリオンを交互に見ながら言った。
「うん、きっとまた会おうね」
去って行く男の子がビルの影に消えると同時にヴィダリオンへ駆け寄る。
「止めだ!!」
ゴートクレスタ―の炎がヴィダリオンを襲う。そこにシープクレスタ―が割って入り炎をまともに食らってしまう。
「シープクレスタ―!?」
「ム、やった!裏切り者の最期だゴウ!!」
「お前、なぜ?」
「私は天使・・・・敵であるあなたを愛・・・・してしまった天使・・・」
その言葉を最後に事切れたシープクレスタ―は光となって消えていく。
「シープクレスタ―・・・・お前の仇は俺が取る!!」
ヴィダリオンは立ち上がると盾の剣の紋章を実体化させ頭上に掲げる。
「馬鹿め!その体で何ができる。もう一度10万℃の炎をくらえ!」
ゴートクレスタ―の腕と口から最大火力の炎が噴き出すがそれは突如巻き起こった桃色の突風にかき消される。
「な、何が起こってるゴウ?」
「見て、勇騎君!ヴィダリオンの後ろに!」
「ああ、あいつが助けてくれているんだ!」
「悪鬼の貴様には見えぬらしいな。俺を守る天使の羽ばたきが!!」
「天使!?どこに?」
(シープクレスタ―、力を借りるぞ)
「紋章剣奥義!疾風竜巻返し!!」
剣を大きく下に円を描くように振り下ろし、振り上げ怪物を逆袈裟に切り上げる。
断末魔の叫びを上げてゴートクレスタ―は爆発四散した。
「仇はとった。安らかに眠れ。異世界の天使よ」
剣王神社の片隅にこの場に似つかわしくない木製の十字架がある。その上部にはいつも真新しいピンクのリボンがいつも掛けられている。それはここに住む人々を救った飛べない天使への感謝と鎮魂の印なのだった。




