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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
1章 機士の章

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第3話 飛べない天使は愛の使者②




 「おまえでもいい、おれにちょこくれー!」


アジトから飛び出した邪神官ガルウは赤い髪のモヒカン頭のヤンキー風人間体に変身した後新市街の商店街やデパート付近の道で片っ端から女性に声を掛けチョコをねだっていた。


結果は全滅。


ある女性には悲鳴を上げられて逃げられ、別の女性にはバッグを振りまわされて撃退された。


根本的にガルウはバレンタインの何たるかを知らなかった。ただ彼はこの日をタダでチョコレートを食べられる日だとしか思っていなかったのだ。彼の単純な頭脳は貰えなかったのは時間が悪かったのだと結論を出した。彼の見た人間とは昼や夜家の中で複数人あるいは一人で食事をする習慣がある事を知っていた。


2月13日夜、剣王町の各地で不審人物が家屋のドアや窓ガラスを破壊して侵入し、チョコをねだるという事件が頻発した。幸い怪我人はおらず、その不審者は抵抗されると泣きながら出て行くのでかえって不憫に思った者もいたという。



「ねえ、チョコ泥棒だって!」


「杏樹、そっちは大丈夫か?」


「こっちには来てないみたいだけど、ずっとサイレンの音が鳴りっぱなし」


「こっちもだ。なんかあったら連絡するから。気を付けろよ」


「そっちもね」


スマホの通話を切って勇騎は外を見る。窓の外はサイレンの音と赤い光がひっきりなしに流れている。


「まさかな。こんなアホな事をクレスタ―がするわけないよな?」



剣王町の西側に隣町との境となる鍔広川という川がある。真夜中のこの河原にガルウは1人腰を下ろし、声を押し殺して泣いていた。鳴き声は徐々に大きく、そしてうめき声に変わり、うめき声から怒りの咆哮へと変わっていく。


「ぶっ壊してやる。バレンタインのなにもかも」


逆恨み以外の何物でもないのだがガルウの赤い瞳には危険な光が宿っていた。そして一声遠吠えのような咆哮を上げると東の新市街に向かって歩き出した。




2月14日


「出来た!ふふ、勇騎君もヴィダリオンも受け取ってくれるかな?喜んでくれるかな?」


日曜日。両親は朝早くから出かけてしまい、杏樹も朝早くから起きてチョコの準備をして、それらを入れる為に買った2つの天使型の箱を見やる。


お揃いと知ったら2人とも渋い顔をするだろうな、と容易に想像が出来る。それでも同じにしたのは同じ目的の為に共に戦うチームとしての意味合いもあった。


(渡す時に説明しよう。きっと納得してくれるよね?)


リビングのテーブルの上で勇騎に渡す分をラッピングし終えて、ヴィダリオンの分の箱にチョコレートを入れ始めた時だった。ガシャンと窓ガラスが割れる音と共に赤い楔型の宝石の様な物がラッピングの終わったチョコの箱に突き刺さる。


「な!?こんなイタズラするのは誰!?」


外を見るが怪しい人間はいない。既に逃げた後の様だった。


「え?」


赤い光に振り返ると楔型の宝石が輝きながら天使の箱に吸い込まれていき、人間大に巨大化した。光の消えた後には天使を模した図像獣シープクレスタ―が立っていた。


「嘘・・・チョコレートの箱が図像獣になっちゃった!?」


その時ドアを開けてお呼ばれされた勇騎と光となったヴィダリオンが彼女の許に駆け寄った。勇騎は杏樹の家の窓ガラスが割られている事に気が付いていてもたってもいられず駆け込んだのだ。ヴィダリオンの方も相変わらず寝ていたが図像獣の気配をよりによって主人の近くに感知した為実体化したのだった。


「大丈夫か、杏樹!?」


「図像獣め。我が主の家にやってくるとは不届き千万!」


ヴィダリオンは2人の前に体を大の字にシープクレスタ―の前にして立ちはだかる。


天使の羽と羊毛の代わりにピンクのリボンを全身に巻き付けたシープクレスタ―はキャッと飛び上がるとヴィダリオン目掛けて突進する。


「速い!?」


距離が近いためディバインウェイブを起こす暇がないと判断したヴィダリオンは体で受け止めて庭に叩きだすつもりで身構える。


だが衝撃は来なかった。


「ウ・・・・ム!?」


シープクレスタ―はヴィダリオンに抱き着いていた。


「2人とも下がって!もしかしたら自爆するつもりかもしれません!」


ヴィダリオンは2人を下がらせる一方で庭に飛び出した。


「やっと会えた。運命の殿方」


シープクレスタ―は若い女の甘えるような声で囁いた。


「「な、何だってー!!」」


驚愕する勇騎と杏樹。対して衝撃の告白を受けたヴィダリオンはシープクレスタ―を引き剥がすと後ずさる。


「わが身は生涯不犯を誓った身!ましてや図像獣などと添い遂げるなどあり得ん!」


「そんな・・・その女と一緒にいますのに?」


「この方は我が主。別だ」


近づいてこようとするシープクレスタ―に盾に描かれた紋章を実体化させた剣を突きつける。


「とにかくそれ以上近づくな。全身の装甲が粟立つのと斬るのに絶妙な位置だからな。お前の運命とやらは俺に斬られる、ただそれだけだ」


「そ・・・そんな・・・・私はただ運命の、愛した人と一緒になりたいだけなのに」


「いかにもな哀れを誘う声を出して油断させようとしても無駄だ。他の仲間はどこにいる?そして何を企んでいる?本当に俺を愛しているというのなら本当の事を言え」



「ねえ、あれどう思う、勇騎君?私、あのクレスタ―が私のチョコレートの箱だって事を抜きにしても嘘をついているとは思えないわ」


「ウーン、そうだな。確かにやり方がなんか変だとは思うけどヴィダリオンのいう事も一理あるとは思うけどな。ってかあれ、チョコのクレスタ―なのか?ヴィダリオンにあげるやつ?」


「ううん、勇騎君の」


途端勇騎の態度が変わり


「ヴィダリオン、俺のチョコの仇を取ってくれ!一思いにバッサリと!!食べ物の恨みは怖い事を異世界の奴らに教えてやれ!!」


「ちょっと、どうしてそこで食い意地を優先するの!?ヴィダリオン、待って!」


後ろから相反する指令が出てきたものの、ヴィダリオンが優先するのはやはり主たる杏樹の命令だった。


「主の思い入れは分かります。しかし、奴は敵です。後詰が考えられる以上戦闘に時間をかける訳にも・・・・」


無抵抗のシープクレスタ―への斬撃を思いとどまったヴィダリオンは剣を振りかぶったまま振り向かずに杏樹へ反論する。彼はこういう場合は主を諫めるのも従者の務めと信じているのだ。


「シープクレスタ―だったかしら?あなたの望みは?つまりヴィダリオンとどうなりたいの?」


「愛する人とどうなりたいか、あなたに分からない訳はないでしょう?無論言ってもイイですけど」


「え・・・つまりあんなことやこんな事をってすんません・・・」


勇騎はヴィダリオンと杏樹からのゴミを見るような視線を感じ小さくなる。


「先ほども言ったが俺は不犯を誓っている身だ。お前の望みは叶えてやれん。他を当たれ」


「でもそこの男女との間にある繋がりは何?私には見える。3人の間にある不可思議なつながりが」


「そうだな。共に戦う仲間の絆、主とは精神的な愛と言い換えてもいい。この男はそのおまけみたいなものだが」


「相変わらず容赦ないっすね」


「精神的な繋がり・・・・・絆」


シープクレスタ―は体をわなわなと震わせると


「分かりました。精神的な繋がりがあるなら御傍にいてもいいのですよね?ワタクシ、学んで参ります。ですからきっとお待ちになってくださいね」


そう言うと大ジャンプし庭と塀を超えて町の方へと走っていってしまった。



「アイツ、ポジティブなのか思いこみが激しいのか」


「後を追いましょう。奴は所詮図像獣。人間の複雑な感情を理解できるわけがない」


「あら、心配?」


「いいえ。奴を斬る理由を奴自身にも納得させる為です」


そう言ってバッとマントを大きくはためかせるとヴィダリオンは庭へ出ると腰の馬の装飾から機動鋼馬マスルガを呼び出す。


「お乗りください。奴の真意がどうあれ混乱は必至。それを止めるのが我らの役目です」


杏樹と勇騎は頷くとマスルガへ騎乗する。3人を乗せたマスルガは一路繁華街へと駆けていく。




先程のシープクレスタ―とヴィダリオンらのやり取りをアジトの床に描かれた魔法陣で見ていたザパトは頭を抱えていた。


「一体これはどういうことだ?図像獣が敵と(よしみ)を通じるなどとは!?」


「しかも高い知能を有している。興味深いな」


プレハはこんな状況でも科学者としての気性が先立つようだったが


「言っている場合か。みすみす敵にこちらの情報を渡す事にもなりかねん。あのクレスタ―とガルウは魔力で繋がっているのだからな」


「おれのじゃくてんがわかる?」


「そういう事だ。何も考えずに手当たり次第に選ぶからこうなる。ガルウ、この始末はどうつけるつもりだ?」


「アイツ殺す。あたらしいクレスタ―でばんかいする」


「今度はうまくやれよ」


「わかってる」


そう言うとヤンキー風の人間体になったガルウもやはり繁華街へと歩いていく。彼はそこにある歩行者天国に人だかりができており、それが何か興味を引かれて寄って見た。そこではある店が路上でチョコの実演販売を行っていた。業務用の鍋とコンロで色とりどりのチョコを溶かし、いろいろな型に流し込む単純なものだがそれを職人がかなり難度の高いアクロバティックな演技でやるものだから注目はいやが応にも浴びる。


「いいぞ、いいぞ。これだ」


ガルウも拍手をしながらパフォーマンスを眺めていたカップルの男のシャツの背に悪魔の絵が描いてあるのを見るとその部分を破り取り、プレハに貰った赤い石を埋め込むとそれは赤い楔型の宝石となる。


「後は・・・コイツだ!」


文句を言う男に目もくれず、投げられた宝石は業務用コンロへ突き刺さる。


一瞬の光の後悪魔とコンロの特性をもった図像獣ゴートクレスタ―が誕生する。


怪物の出現に繁華街は騒然となり人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。


「やれ、ゴートクレスタ―!バレンタインをメチャクチャにしろ!!」


「ゴー!」


デパートに飛び込んだゴートクレスタ―の合図と共に頭の2本角の先にあるツマミが回転し、最高温度10万℃の炎がコンロのバーナー部を模した口と両手から放射され、デパートのフロアの販売用のチョコレートの品々を焼き尽くす。その対象は人間が買った物も当然含まれており


「チョコを置け!さもないとお前ごと焼き尽くすぞ!!」


「ひいいいいい!!」


命とチョコどちらが大事か言うまでもない。人々はチョコを置いて一目散に逃げていく。


置き去りにされたチョコは当然炎の餌食となるのだった。


「ハハハハハ!やれ、やれゴートクレスタ―!!そうだった。おまえの役目それだけじゃない。裏切り者のしまつ。それもやれ。あいつちかくにいる」


「お任せを」


ゴートクレスタ―は外へ飛び出していった。

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