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後悔しても遅いのですよ

作者: 8


ヒソヒソ

「あら珍しい。あれが第三王女様ね。」

「噂通り真っ黒な瞳と髪ね。国王様と王妃様と全然似てないわ。」

「だから偽物姫、呪われ姫なんて言われてるのよ」


ステラ王国第三王女、ソレーユ=ド=ステラ

金髪碧眼の国王と銀髪に琥珀色の瞳を持つ王妃の間に生まれた異端児。それが私だ。

しかも静養地で出産をした直後に誘拐された為に血筋まで疑われる始末。

だが王家特有の光魔法の測定と犯人を追跡した騎士の証言により血筋は証明された。

それでも世間の目、家族であるはずの人達からの視線はひどく幼い頃から離宮暮らし。

おかげで魔法の研究ができてよかったけど。

実は私には黒魔法と光魔法、2つの属性が存在していたのだ。

昔はそれが反発しあっていたため、外側(外見)は黒魔法、内側(身体の中)は光魔法に満ちていた。

けれど今となっては両方をコントロール出来るようになっている。


「だ、第三王女様!?なぜここに!?」

「あら、私が来てはいけなかったかしら?」

「只今国王陛下はお取り込み中です!」

「知ってるわ。だから来たのよ。」

バタンッ

「…」

「何事だ!?今は大事なっ…ソレーユ…何をしに」

「ステラ王国第三王女ソレーユ=ド=ステラ、アレス帝国皇帝陛下にご挨拶にあがりました。」

「ほぅ。ステラ国王よ、そなたの子は既にここにいる5人なのではなかったか?」

「そいt…ゴホンッ…第三王女は礼儀がなっておらず人前に出すには少々問題があるのです。」

「そうか?挨拶の姿勢も仕草も誰よりも品があるように思えたがな。」

「そっ…うでしょうか。」

「おっと挨拶がまだだったな。ヘリオス=フォン=アレスだ。さて第三王女よ、何か理由があって我に会いにきたのだろう?」

「はい!皇帝陛下、私と結婚してください!」

「「・・・・・」」

「あら?皆んな固まってどうしたのかしら?」

「プッ…ハハハハハッ…アハハッ」

「え?何かおかしなこと言いまして?」

「何を考えてるんだお前はっ!?」

「いきなり出てきて結婚?ついにイカれたのか?」

「一体なんてことを。王家の恥だわ。」

「速やかに離宮に戻りなさい。」

「あんたが姉だなんて最悪だ。」


お兄様やお姉様、弟にまでこんな扱いをされる始末。昔からだから慣れたもんだけど。


「はぁ。もういい。第三王女よ離宮にもどれ。」

「あら、それは出来ません。まだ皇帝陛下の答えを聞いていませんもの!」

「国王の命令が聞けないの?今すぐここから出ていきなさい!」

「嫌です!」


ブワァッ

黒魔法で私達の周りに壁を作る

みんな初めて見る魔法に困惑してるみたいね。


「…ステラ王家は光魔法の一族のはずだが?」

「はい。ですが私には黒魔法、光魔法の2つの属性が備わっていたのです。」

「…どうやら皆知らなかったようだな。」

「この国は私のことを疎ましく思っているので。誰も私に興味なんてないんです。」

「そうか。」

「この国を出るために協力していただけませんか?偽装結婚で構いません。私を連れ出してくれるなら帝国の利益になれるよう頑張ります。」

「それは頼もしい。だが、偽装結婚はしない。」

「っ…そう…ですか。」

「我はそなたに興味がわいた。だから正式に結婚を申し込もう。」

「っ!これからよろしくお願いいたします!」

「というわけだ。国王よこの娘、我が貰い受けるぞ。異論は認めん。」

「…はい。」

「では、帝国へ行こうか。我が花嫁よ。」

「はい!」


パッと壁を消すと何か言いたげな顔でこちらを見ている家族達。今更何を話すというのか。


「本当の姿を見せてやったらどうだ?」

「さすが"天帝の瞳"をお待ちですね。」


"天帝の瞳"は帝国の皇族の中でも皇帝に相応しいものにしか発現しないチカラだ。

真実を映し出し見極めることができるので、嘘もハッタリも通用しない。


スゥウッーパァァアー

プラチナブロンドに碧眼、これが本当の私の姿だ。


「う、嘘だろ!?」

「あれが、あのソレーユなの!?」

「今までの姿は一体何だったんだ。」

「確かにさっきまで黒髪に黒い瞳だったのに。」

「建国の…初代女王陛下にそっくりだ。」


そうね。王宮に飾ってある壁画、この国を造った初代女王もプラチナブロンドに碧眼だった。

だから初めて黒魔法のコントロールに成功した時びっくりした。自分の姿が初代そのものだったから。

けれどその事実を明かそうとは思わなかった。期待も希望もとうの昔に尽きてしまったから。


「艶やかな黒髪も良かったが真の姿も美しいな。我が花嫁は。」

「ふふっ…私を褒めてくれたのは皇帝陛下が初めてです。」


何故この人の言葉は信じられるんだろう。

ルビーのように赤く輝く宝石眼がまっすぐにこちらを見てくるからだろうか。


「ソレーユ!」

「…突然何ですか国王陛下。」

「何故今までその姿を隠していた。初代女王陛下と瓜二つではないか。その姿であったなら…」

「あったならなんです?冷遇しなかったと?」

「早く教えてくれればよかったじゃない。そうしたら離宮ではなくここで一緒に…」

「今更何を仰るやら。そもそも一国の王家が外見だけで人を判断するなんておかしな話なのです。」

「しょうがないだろう。お前は産まれてすぐに誘拐され、外見もどちらにも似てなかったのだから。」

「それは言い訳です。騎士の証言も魔力測定の結果も私が王家の人間である事を物語ってます。」

「それでも、私達に全く似てないあなたが怖かったのよ。」

「はぁ。あなた方が最後に私の顔をちゃんと見たのはいつですか?」

「「え?」」

「目元や口元は王妃殿下とそっくりだと思いませんか?口元のホクロも同じ位置にありますよ。鼻や耳の形、サラサラな髪質は国王陛下とそっくりだと思いませんか?本当に私はお二人と似てませんか?」


いつぶりだろう。この二人と目が合うのは。

あなた達は私の色だけをみて、私自身を見ようとは一度もしなかったのよ。


「さて、皇帝陛下!行きましょう!」

「もうよいのか?よっぽど酷い扱いをうけてきたのだろう?我だったら容赦はしないが。」

「ふふっ殴ってやりたい気持ちはありますが…きっとこの国にとって私がいなくなるのは損失が大きいのです。」

「ほぅ。」

「文献で調べたところ初代女王陛下も光魔法と黒魔法の二属性持ちでした。きっと私は陛下の血を一番濃く継いだ子孫。本来なら王位継承権一位だったはずです。そんな私をずっと冷遇し続け、さらには帝国に嫁がせたと知れれば国中は掌返しで王家を批判、他国からも無能と判断されるでしょう。」

「それはいい仕返しだ。」

「ソ、ソレーユ!」

「まってちょうだい!ちゃんと話をしましょう!」

「いい加減しつこいぞ。ソレーユはもう我の花嫁だ。未来の皇后に気安く話しかけるでない。」

「「っ…」」

「後悔しても、遅いのですよ。」


時間はあった。18年もの時間が。

最初は悲しくて悔しくて認められたくて、努力しようと思った。

けれど時間が経つにつれてそんな考えもなくなった。全て疲れてしまった。

もういっそどこかへ逃げてしまいたいと考えていた矢先に皇帝の訪問があることを知った。

チャンスだと思った。皇帝の噂は聞いていたから。

何事も自分の目で見て判断する方だから、どんな形であれここを抜け出させてくれると思った。

まさか結婚を了承してくれるとは思ってなかったけれど。


「なんだ?今更怖気付いたのか?」

「いえ、陛下はなぜ初対面の私の提案を受け入れてくれたのかなと。」

「我は他国に訪問する際、あらかじめその国のことを徹底的に調べて行くのだがそこに其方の噂もあってな。あの場にいないことも最初からわかっていた。けれど其方は自分の足で堂々と我の前までやってきて、提案をしてきただろう?其方の強い瞳を見た瞬間に我はもう負けていたのだ。」

「あはは…あそこから抜け出したい思いが必死に出てたってことですね。」

「まぁそうなるな!」

「では改めて、救い出していただきありがとうございます。」

「さて、本当に救い出したと言えるかな。帝国の皇后になるというのだからこれからが大変だぞ。」

「誠心誠意、努めさせていただきます。」

「よろしく頼む!」


帝国に着くと、いつ知らせをだしたのかたくさんの帝国民が歓迎してくれた。

私は皇后となるための準備で忙しくも充実した毎日を送っていた。

一方ステラ王国は予想通り他国から無能と評価され孤立。国民からも王家に批判が相次いでいるのだとか。

まぁ国民も私のことを散々噂していたのだからどの口が言ってるんだって思うけれど。

あの国がどうなろうと私の知ったことではない。

だって今は、私を認めてくれた場所にいるのだから。


コンコンッーガチャッ


「…綺麗だ。」

「ふふっ!ありがとうございます。陛下も素敵です。」

「では行こうか。」

「はい!」


こんなに皆から祝福される結婚式を挙げられるなんて、昔の私じゃ想像もつかなかっただろう。

本当の家族よりも大切にしてくれる人たちに囲まれて、今日を迎えられるなんて。

陛下と出会ったあの日から毎日が夢のよう。


「では、誓いのキスを」


大勢の帝国民に見守られながら私達はキスをした。


「今、人生で一番幸せです。」

「フッ…一番はまだ早い。其方にはこれからもっと幸せになってもらう予定だ。」

「ふふふっ頼もしいですね。」

「我は嘘はつかぬぞ。楽しみにしていろ。」


この人となら、私はどんな時も幸せでいられるだろう。そう強く思った。

そして本当に毎日、幸せな日々が続くことをこの時の私はまだ知らない。





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― 新着の感想 ―
開幕の一文 「あら珍しい。あれが第三王女様ね。」 あら珍しい、と言っているなら王女のことを見知っている言い方ですよね? なのに疑問文ともとれるのですが、どういう意味合いなのでしょうか。
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