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狐、生きる  作者: nite
狐、思う

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魚料理

 イントの漁船は、日本のようなサイクルでは動いていない。というのも、四六時中漁港に船が入り船が出るのだ。どうやらそれぞれがそれぞれに縄張りを持っているらしいが、そんな見境なく漁獲して、後々困ることにならないだろうかと不安になるハクである。

 乱獲により絶滅した、絶滅危惧種になったなんて話は地球では割とよくある話だったりする。生態系的にも乱獲は全く推奨されないが……ハクが介入できることはないので、思うだけに留めることにした。


「朝から夜まで市場は賑わってますね。そういう意味では、砂漠のガリアルと雰囲気は似てるかもしれません」

「実際、ここからガリアルまで直通の連絡路があるくらいだし、近い部分はあるかもしれないな」


 朝の競りの声が響く通りを二人で歩きながら、人混みを遠巻きに見る。


 エスノアの視点だと、ガリアルの街に比べて商売人たちが誰も彼も血気迫る勢いで、少々怯えてしまうほどだ。少なくとも、これ以上近づいて観察しようという気には全くならない。

 ハクはというと、似たような光景をテレビ越しではあったが、前世で見たことがあったので、異世界でも競りってこうなるのかと感心していた。


 ファネは未だに夢の中。食事を買いに行くと声をかけたが、ファネがまだ起きそうになかったので、二人で出てきた朝の時間。折角だからと海鮮料理の屋台がないかと通りに出てみたが、今はまだ競りの時間のようで屋台は出ていなかった。


「もしかして、私たち早く起きすぎてます?」

「まあ実際、段々と朝の時間が早くなっているような気はするな」


 現在、午前六時。太陽はまだ顔を半分しか出しておらず、仕事人たちも、これからが仕事の本番である。


 冒険者は、常に周囲を警戒しないといけない職業柄、このように少しずつ朝が早くなることが多い。睡眠時間は段々と短くなっていき、最終的に夜遅くに眠り、交代しながら夜を過ごし、朝早くに出発するようになってしまう。

 冒険者に対して健康などと世迷言を説く者はいないので、街に到着したとしてもその生活習慣は抜けず、何の店もやっていないような時間に起きてしまうことが多いのだ。


 実際、二人の周囲には、同じく競りの様子を物珍しそうに眺めている冒険者の姿がある。


「ファネがいるおかげで、私たちはまだ眠れている方だと思うよ」


 ファネは吸血鬼という種族の特性なのか、睡眠時間が短く夜に強い。そのおかげで、夜の見張りの大部分をファネが担っており、二人はその分眠ることができている。

 この世界の吸血鬼は、ハクの知っている吸血鬼の伝承に沿っていないものが多かったが、夜の王という異名に関しては間違っていないように思えた。夜の王という名称は、この世界に来てから一度も聞いていないけれど。


「起きる時間が早くなってたら意味がないですけどね」

「冒険者の宿命だと諦めるしかないさ。野生に生きているようなものなのだから」


 尚、ハクは元々森暮らしなので睡眠時間が短いことも、朝に起きることも、襲撃によって眠っている最中に起こされることもそこまで苦ではない。動けなければ死ぬ世界で生きていたので、睡眠時間が削れるのは日常的なことだったのだ。


 エスノアはエスノアで、妹の護衛をするために見張りをすることが多かったので、自ずと睡眠時間が短くても大丈夫になっていった。

 ショートスリーパーは慣れで生まれるものではないが、エスノアの妹への愛がそれを可能にしたのだった。


 つまり、このパーティはなんだかんだ全員睡眠時間が短くても問題がない人たちなのである。それ故に、遅くまで活動し、もしくは早く寝てもっと早く起きるというリズムが出来上がっていた。並の冒険者では、疲労蓄積で倒れてしまうような無理行軍である。


 残念ながら、その事実に気が付いている人物はこのパーティに存在しない。


「屋台が出るまであとどれくらいですかね」

「箱を持って離れる人は何人かいるが、屋台のような安く提供しようという場所では、安く多く買うだろうから、もう少しかかるだろうねぇ」


 ハクの言う通り、今この場から離れていく人々は、輸送隊の人や、ちょっとお高めな店の料理人だったりする。高級な魚の鮮度を可能な限り保つべく、高級魚から取引されるので仕方のないことだ。

 時間が経ち、少々の劣化をしたくらいが、屋台の買い時である。そうなるまでは、まだあと三十分は必要だろうとハクは見立てていた。


「うーん、でも他の屋台もやってませんよねぇ」

「海産物の競りをやってるからか、その隣で他の競りもしているからな」


 二人が今いるのは漁港近くだが、海鮮以外の食品や物品の競りも同じく行われている。わざわざ別の場所でやる必要がないということもあって、イントではこうして大規模競売が毎朝行われる。

 大規模競売は、少しずつ規模を縮小しながらも夜まで続くので、競売を見るのはこの街の一種の観光資源にもなっている。商業都市ではここまでの競売が行われないので、競売が好きな人は、敢えてこちらに足を伸ばすほどだ。


「ハクさん、一旦戻りますか?」

「そうだな……ん?」


 エスノアが提案し、ハクが踵を返すそうとしたとき、狐の嗅覚が何かを捉えた。


 強い匂いではなく、タレなどの匂いもない。しかし、これは魚を焼いている匂い。高級魚たちが料理をされ始めるには流石に早すぎるが、安い魚はまだ売られ始めていない。


「エスノア、少し気になることがあるから行ってみよう」

「はい?分かりました」


 ハクが鼻を動かしながら、匂いの元を辿る。何も感じ取ることができないエスノアは、ハクにしか感知できない何かがあるのだろうと確信しながらついていく。


 そうして何本かの十字路を抜けると、広場からも大通りからやや外れた位置に、その店は建っていた。屋台というのは頑丈で、店というには小さい、現代でいう移動販売車のような見た目の店。

 看板は立てかけられおらず、メニューも置かれていないが、大きく開かれたカウンターからは、香ばしい魚の匂いが漂ってきていた。


 何がなんだか分からなかったが、この近さまで来れば、エスノアでも分かるようになっていた。


「屋台、ですかね」

「ふむ、準備中かもしれない」


 ハクが先んじて近づき、現在も鼻歌を歌いながら魚を焼いている店主に近付く。


「失礼、いいだろうか」

「いらっしゃい!おや、見ない顔だねぇ」

「匂いがしたから来てみたんだ。準備中か?」

「流石獣人さん、匂いには敏感だね。ちゃんとやってるよ、メニューはこれ!」


 そうして店主が指を指すと、小さい写真立てのような大きさの額に、焼き魚が数種類と味付けが書かれていた。時価・メニュー変動と書かれているので、仕入れることができたものによって日々メニューが変わるのだろう。


「随分と早いじゃないか。それに安い」

「うちは自分で獲った魚を売ってるんだ。君たちみたいな朝早い冒険者と、朝早い仕事人たちのためにね」


 競売人だって腹は減るのさ、とドヤ顔混じりに言う店主。


 元々は競売に卸していた店主だったが、朝の腹が減る時間にやっている店がないことに気付き、こうして魚だけでも焼くようになったのだという。

 ただし、屋台が本業である人々の邪魔にならないように、こうして外れの位置で商売をしているらしい。どうしても腹が減ったような人が、言伝に辿り着くのがこの店だ。


「折角だから貰おう。おまかせ三本、大きめのをくれ」

「あいよ。味はどうする」

「全部塩で」

「はいはいー」


 やはり、ハクからすると奇抜な柄と色をしている魚たちだが、目の前でこうして香ばしい匂いを醸し出すところを見ると、ハクの知る魚と変わらないと思う。


 ハクは知らないことだが、地球にも奇抜で美味しい魚は存在しているので、主に水揚げされている魚の層が違うだけだったりする。深い海の底では、タイやマグロに似た魚だってちゃんと生きている。


「ほい、熱いから気を付けなよ」


 店主から三つ魚の串を貰う。熱々に湯気が出ており、今すぐにでもかぶりつきたい気分だ。


「あんたら冒険者だろ。カトゥには気を付けろよ」

「カトゥ?」

「この街にはいっぱいいるんだ。無警戒に持ち歩くと、魔法で持ってかれるぞ。ここで食っていくことをお勧めする」


 ハクは聞いたことのない生き物だったが、それは昨日この街でファネが探していた化け猫のような魔法を使うペットである。


 野良カトゥはほぼいないが、魔法により逃げ出すカトゥというのは多く、無防備な通行人から魚を奪うのはこの街のよくある光景だったりする。よくありすぎて、目の前で魚を奪われた人がいても、誰も気に留めない。

 ああまたか、と人々は思い、カトゥは魚を咥えて家に帰る。逃げ出すわりに、意外と魚目当てのカトゥは家に帰ったりするので、よくわからないペットである。


「気を付けておこう」


 カトゥの特徴をエスノアから聞いたハクは、野良猫のようなものかと思いながら通りを戻る。パーティの決まりとして、可能な限り一緒に食事をするというのがあるので、ここで先に二人だけで食べてしまうという選択はない。

 と同時に、屋根の上から感じる殺気!見られているのは手に持つ魚!

 

 横から高速で飛んできた白毛のカトゥを横っ飛びに回避!だが路地裏から飛んできた火の玉によって足止めをされる!そこをすかさず走ってきた黒毛のカトゥがハクの手にめがけて飛び込む!

 だがハクは、すかさず服の一部を盾のように変化させカトゥを阻止!キリがないと見て、ハクは走りだした!


「ま、待ってくださいハクさーん!」


 一瞬の出来事に目を白黒させていたエスノアは、自分よりも数倍早いハクを追いかけて宿へと戻った。

 宿に帰る頃には、走ったせいで少し冷えた魚が待っていた。店主の言っていた、店前で食べた方がいいというのが、すべて正しかったのだと思い知った二人。


 次はファネと一緒に行って、その場で食べようと二人で決意するのであった。

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