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狐、生きる  作者: nite
狐、思う

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多種族、異種族

 宿で一晩。

 目が覚めても、やはり、あまり外に出る気は起きなかった一行である。


「でも、準備はしないといけないですから」

「仕方ない」


 この街に来た目的を思い出し、重い腰を上げたのはハクとエスノア。鉱山都市だからと新しい盾が手に入ると喜んでいたファネは、その点はまだちょっと落ち込んだままである。


「ファネはどうする?」

「んー……スラちゃんと遊んどくー」


 昨日の今日で、既に愛称をつけたらしいファネは、魔道具の中のスライムを出して遊び始めた。

 ただでさえ吸血鬼としてどの種族からも忌避されているのだ。あの視線に対してハクとエスノア以上に恐怖感を持っているのは言うまでもない。


「じゃあ行きましょうハクさん」

「ああ。手っ取り早く終わらせて街を出よう」


 どのみち、あまり長居はできないということで、二人は少々駆け足になりながら街に繰り出した。

 朝は早い時間だというが、蜥蜴獣人はもう多く歩いていた。今から鉱山に行くであろう姿も、逆に鉱山帰りであろう姿もある。交代制で常に誰かが鉱石を掘っているというのが、この大陥没の仕組みである。


 蜥蜴獣人たちは、その筋力により大陥没の中にある鉱石を粗方採取し、そして自らが使うか貿易のためだけに消費される。それがこの街が成り立っているシステムであり、そして現在ハクとエスノアが直面している問題であった。


「何も、ないですね」

「鉱石の類が手に入らないとは……」


 昨日にもハクは感じたことだったが、この街の屋台には鉱石が一切並ばない。他の鉱山都市であれば、ある程度資源のやり取りや、単純な商売として鉱石が並ぶことがある。それは、その街で鍛冶をしているような人たちも、通りに並んでいる店から買っていたりするのだ。

 だが、この街ではそれがない。街の鍛冶師は、大陥没で掘られた鉱石をそのまま取引し、加工しているのだ。その取引の間に、他種族が挟まる隙はない。


「本当に他種族の干渉ができないようになっているなんて……」


 小声でエスノアが言う。あまり周囲の蜥蜴獣人に聞かれると反感を買うことが分かっているからだ。


 この街で採掘された鉱石は、他種族の干渉を受けることなく、蜥蜴獣人の中で消費されるか、もしくは他種族の街に他の鉱石と共に混じって消費される。蜥蜴獣人の目が届くところで、蜥蜴獣人の資産が消費されることがないようになっている。

 排他的というにはあまりにも過剰なまでな取り扱いが、こうしてハクとエスノアの前に壁として立ち塞がっていた。


「ファネの盾を用意してあげたかったんだが……」

「鉱石が手に入らないことには……ここまで徹底されてるなら、鍛冶師のところに頼んでも手に入らなさそうですし」


 まるで検閲でもしているかのような統制振りは、この街自体が他種族を受け入れていないことの証左に他ならない。ここまでくれば、この街が売っている先の街で手に入れた方が簡単そうに思えてくる。


「冒険用の道具は手に入るんだ。それを買い揃えて街を出よう」


 そんな排他的な街であっても、商機があったら逃さない商人はいるもので、蜥蜴獣人がやっている出店に冒険者向けの商品を並べている店はある。妙に値段は高いように見えるが……手に入る場所がそこしかないからこそ、独占的に金額を釣り上げているのだろう。

 この街で他の種族が店を立てることはほぼ不可能となっている。街の代表だって蜥蜴獣人なので、商売の許可など下りようはずもないのだ。それでもって、不法に商売をしようものならそれこそ何をされるかわからない。


「なんだか、ここまで排他的な感じ、エルフを思い出すな」

「あはは、そうですね」


 過去に、エルフの森で隔離されるようにしばらく生活させられたことを思い出すハク。


「あの時は、隔離区画内に他種族に優しい人が店を開いていたから普通の値段で買い物ができたな。自由には出れなかったけど」

「行動の自由がないのか、経済の自由がないのか、なんだか大変です」


 色々な国を歩いていればそういうこともあるだろうと考えるようにしているハクではあるが、やはり不自由というのは息苦しいと感じる。前世でも今世でも、自由であることの嬉しさは噛み締めなければなるまい。


「ともかく、ここではファネの要望は満たせそうにないですね」

「ああ、盾がなくなったとき、しょんぼりしていたから見繕ってあげたかったんだが」


 あの盾を手に入れた街からだいぶ遠くまで来てしまったので、あれを手に入れるのは至難の業だ。この世界には飛行機とかの便利な移動手段は存在しないので、別のところで手に入れるしかないのだ。


 お高めな道具や薬などを買い揃えると、それだけで手に入れたガラはすぐになくなってしまう。そういえば、この街の魔石の為替もだいぶ分が悪かったことを思い出す。とはいえ、他にお金を工面する方法はないので仕方ないが。


「そういえば……」


 粗方道具を買い揃えたとき、エスノアが口を開く。


「昔、ハクさんと出会って最初に換金しようとしたときに安かったから止めたことがありましたよね」

「ああ、そういえば」


 魔石のレートが悪く、エスノアが一度止めたときだ。あのあとは結局そのレートで換金をしたわけだが、あの時のエスノアはそれなりに不機嫌そうにしていたことをハクは思い出す。


「今じゃどんな換金でもあまり気にしなくなっちゃいましたけど」

「私があまりお金に頓着しないからなぁ……」


 この街に来たときのように、その日暮らしすらできないようになればハクとて稼ごうとするものの、そうでなければ無頓着である。今も、お金はなくなったものの、次の街に行くまで稼ぐことができるだろう、と考えているほどだ。


「私は妹といたときはずっとお金のことを考えていましたから、あの頃はだいぶ悩んでいたんです」

「仕方ないさ。シウィンのためを想ってやっていたことだろう?」


 そうして過去のことを思い出しながら、思い出話をしているとギルドの近くが妙に騒がしいことに気が付く。

 いつもならギルドには興味もないであろう蜥蜴獣人が入り口に詰め掛けている。なにやら怒声のようなものも聞こえていて、ただ事ではないことが一目でわかる。


「……面倒ごとになるまえに帰ろう」

「ですね」


 そうして二人は宿へと逃げ帰った。


 だが、運命というのは逃げる程度では逃れられないということを二人は知ることになる。

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