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狐、生きる  作者: nite
狐、思う

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ヘリル

現在忙しくて投稿ペースが不安定です

 乾燥地帯に、それは突如として現れた。

 まるで隕石が落下したかのように、大きく地面を抉るような穴には、多くの橋がかかり、ロープや道が蜘蛛の巣のように広がっていた。そして、その中で長い尻尾を持つ蜥蜴の獣人たちが、せっせと作業をしている。


「これが、この街の鉱山であり、名所でもあるサヘル大陥没です」

「大陥没?陥没してできた穴ってことか?」

「多分そうなんじゃないですかね。名前しか知らないので、詳しいことは私にも……」


 側壁からは滝のように水が流れ、崩壊した道や崖も多く見受けられる。少なくとも、安定した地盤の鉱山ではないことが、素人目でもわかった。


 大陥没はこの街を支える重要資源でありつつも、街の存在自体を危うくさせる存在でもある。緩い地盤に、掘られる坑道、それらが合わさり、定期的に穴が拡張し、その大きさを拡大していっているのだ。

 いつかは街が建っている場所まで浸食し、ヘリルの街は退去せざるを得なくなると考えられている。


 ハクたちは大陥没を遠巻きに見つつ、その淵近くにある街へと入った。通行路から離れた位置にあることも関係し、街の中には蜥蜴ばかりである。


「ギルドはちゃんとあるのだろうか」

「えっと……」


 入口近くには地図のようなものはなく、パンフレット的なものが用意されているわけでもない。

 冒険者や他の人がやってくることは想定していないかのような、不親切な街設計である。


「仕方ない。歩いて探そう」

「そうですね。換金しなきゃ宿も取れませんし」


 街は円形になっており、ぐるりと一周できるような大通りが外側に位置している。人通りも多く店が並んでいることから、この通りにギルドはあるだろうとあたりをつけ、ハクたちは歩き始めた。


 大通りを歩く人は、ほとんどが蜥蜴獣人。ごく稀に人間や他の獣人が歩いているものの、それらはすぐに蜥蜴獣人の人込みの中に紛れて見えなくなってしまう。

 アウェーな場所にいるという実感を強く持たせられる通りであった。ハクは尻尾を、ファネは翼を無意識に縮めるように動かしてしまったほどだ。


「ファネ、大丈夫?」

「う、うん。お姉様、手をつないでて」


 はぐれないように、ファネはエスノアの手をしっかり握る。そのままくっつくように動くファネを見て、エスノアも優しく抱き寄せる。


 蜥蜴獣人は、長い尻尾もさることながら、どれもファネの二倍くらいの身長を持ち、平均しても二メートルと半分の身長がある。それでいて、鉱山勤務なのも相まって誰もがガチガチの筋肉を持っているので、その人込みの中にいるときの威圧感と言えば、無言の圧力も感じてしまうのだ。

 ファネは勿論、エスノアも気圧されるように腰が引く。そして、それに気づいたハクが、優しく尻尾で二人を引き寄せた。


「あまり離れないで」

「は、はい」

「うん……」


 もふもふ尻尾に守られつつ歩くと、ベッドのマークが書かれている店が姿を見せる。しかし、お金がないのでいったんスルー。

 さらに歩けば、やっと見慣れた形の看板を見つける。そう、冒険者ギルドだ。


 ただ、ギルドもそこまでの盛んな様子はなく、ちらほらと冒険者がいる程度。街の規模に対してここまで賑わっていないのは初めてだ。


「どうやら、余所者には肩身が狭いようだ」

「蜥蜴さんたちの街ですからね」

「他の人たち嫌いなのかなぁ……」


 今まで散々、種族の違いにより排斥されてきたファネがしょんぼりする。ただし、吸血鬼の種族に関しては過去の行いによる当然の結果なので、慰めることはできない。


 ギルドの中は空いていて、換金も非常にスムーズ。それでいて張り出されている仕事はそれなりに割のいい仕事が多いので、それだけ見れば冒険者にとってそれなりに稼ぎやすい場所であるように思える。

 しかし、それ以上に、街を歩いているときの視線が厳しい。例え稼ぎやすくとも、お世辞にも長居したい街だとは言えなかった。


 魔石の換金を終え、宿屋へと向かう。

 意外にも宿屋は丁寧に対応してくれて、一般的なきれいな部屋に通された。宿屋の店主も蜥蜴獣人であったが、人によるということだろうか。


「物資調達と思ったが、これじゃ街の観光も気分が進まないなぁ……」

「なんだか針の筵のようです」


 同じ部屋に集まり、これからのことを話し合う三人。元々この街に来たのは、魔石と資金調達のためだったため、観光ができないことは特に痛手ではないものの、目的地もない旅の間で、折角の街を全く楽しまずにさようならというのも味気ない。


 どうしようかと悩んでいると、エスノアが思いついたようにハクに提案をした。


「あ、じゃあハクさん。蜥蜴さんになれますか?」

「ふむ?」

「その姿って、あくまで変化で作ったやつなんですよね?確か尻尾とかも消せると言っていましたし、完全に別の種族になるのもできるんじゃないですか?」


 要は、ハクに蜥蜴獣人へ変化してくれと言っているわけだ。


 ハクは自分自身への変化を人の姿と元の姿の二つでしか使わない。なぜなら、最もイメージがしやすい姿であり、同時に変化魔法のトリガーにもなりうる姿だからだ。

 プイの教えにより、ハクは魔法のイメージをしっかりと持ったうえで魔法を行使している。そのおかげで変化魔法は一般的な効果以上を発揮するし、ある程度どの属性に対しても適性がある。だが、それは前世の姿をしっかりと記憶しているからできる芸当であり、つまり……


「私自身が蜥蜴であったことがないから、正直難しい」


 今の尻尾が残っているのも、そこに対して魔力消費を減らしているという意味合いが強い。狐の尻尾や耳が残っていても変に見られないということを獣人の村で学んだ故に、こうして尻尾を変化せずに残しているだけであり、どんな尻尾にでも変えられるのかと言われるそういうわけでもない。


 ハクは頭の中に蜥蜴獣人となった自分を想像してみるが……筋肉があり、長い尻尾と高い身長……元の自分とも、今の自分ともかけ離れすぎて、やはりイメージができない。


「蜥蜴の尻尾を生やすだけとかならできるとは思うけど、それはただ人間が付け尻尾をしているだけみたいになる」

「やっぱりそうですよねぇ……ハクさんの変化魔法はだいぶおかしい寄りですけど、万能じゃないですから」


 魔法に詳しいエスノアは、なんとなく予想をしていたようで、たいして落胆した様子もなく諦める。


 その次にファネが提案をする。


「お仕事する?仕事しているなら集中できるよ!」


 この街では大陥没の影響で街中でも仕事中らしい姿が多い。その中に溶け込めば、というのがファネの主張。

 ギルドの仕事は報酬が大きいものが多く、資金調達の目的も達成できるが……


「あれは種族を見て忌避している目だ。仕事中とかは関係ないと思う」

「……ファネが隠さず仕事してても、襲ってくるもんね」


 何かを思い出したのか、俯くファネ。過去に似たような経験があったようだ。


 特によい案も浮かぶことなく、そのまま時間は過ぎていく。結局食事も宿屋近くの出店で済ませることとなり、何もできないままに一日目を終えるのであった。

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