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狐、生きる  作者: nite
狐、思う

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砂漠渡り。次の目的地

 砂漠の熱を遮断しても、いつもと違う安定しない足場を行けば体力はみるみる減っていく。

 道中なんども休息をしつつ、それでも他の人たちよりも圧倒的に体力を残しながら砂漠を行く三人。今回はちゃんと砂漠の道を辿っているため、何度か冒険者や商業団とすれ違ったが、その誰もが物珍しそうに熱遮断結界を見ていた。


「とはいえ、売れませんよねぇ」

「お金が欲しくて作ってるわけじゃないしな」


 商人からは、言い値でいいから買うと何度も言われた。だが、ろくに商談をすることもなく、エスノアはすべてにノーを突きつけた。

 現在のハクはいつもよりは体力が少なめ。体力消費を抑えるために、大きな狐の姿に戻り歩いている。いつもは背中に乗る二人も、ハクに配慮し歩いて移動している。そんなハクから、断熱結界を取りあげるなど、エスノアが許すはずもなかった。


 砂漠の街であるガリアルまでは、道なき道を進んできた。それに比べると、この砂漠の連絡路は多くの人々が歩き固められたのか、随分と歩きやすい道であった。

 道中、迷わないように看板のようなものや休憩場所が用意されていたのも幸いであろう。オアシスとまでは言えずとも、きちんと水場が用意されていたのである。商業都市が多額の金銭を用いて用意させたものだろうということが、エスノアには分かった。


「お姉様……あとどのくらい……?」

「あと二日は砂漠だね。そこを抜けたら海になるよ」


 バンガロンドの中央北側を大きく占める砂漠だが、南側まで行けばその暑さも和らいでくる。そのまま進めば、南の海まで辿り着ける。

 現在歩いている連絡路は、南にまっすぐ伸びている連絡路であった。南の街で獲れた海産物を運ぶために最短距離で作られた道であるとエスノアは聞いている。


「ただ、海の前に乾燥地帯があるみたい。そこの街に行ってから、かな」


 バンガロンド共和国には種族ごとに大きな都市が存在しているが、乾燥地帯は蜥蜴の獣人の街である。本来の蜥蜴が住むには難しい土地であるはずだが、なぜか蜥蜴の獣人は乾燥地帯に好んで住んでいる。


 そこから更に南に行けば、いわゆる人魚が住む街へと出る。種別としては魚の獣人ということになるが、ずっと海の中で生活しているので人間よりも魚の要素が強い生物であると言えよう。

 そこまで行けば涼しく休めるから、とエスノアはファネを励ました。ハクの背中に乗れないこともあり、砂漠をずっと歩くというのはファネにも大変だったらしい。


 ハクこそ、変化できないほどに弱っていたから配慮されているが、エスノアとファネも炎のゴーレムとの闘いで少なからず疲れているのだ。魔力は全快しているが、それだけで十全だと言えるほど冒険者は楽な立場ではない。


「うー、飛びたーい」

「飛んだ方が楽なの?」

「歩くよりはー」


 ファネはマントの下で羽をパタパタさせた。今までも人がいないところでは自由に飛び、道を確認したりしていたが、この砂漠の連絡路ではそういうわけにはいかないだろう。見晴らしがよすぎるし、通行人も多い。

 流石にマントの下のままでは空を飛べないので、羽が露出してしまうような選択を取ることはできなかった。


 空を飛べる種族は何も吸血鬼だけではない。鳥の獣人も存在しているし、竜だっている。だが、その赤い特徴的な羽というのは、それだけで吸血鬼たらしめ、迫害の対象となるのである。

 それが分かっているから、ファネは不満を出しつつも飛ぼうとはしないのだ。自分のせいで、ハクやエスノアに迷惑をかけたくない。


「あと少しで今日の休憩場所だから。そこで休もう?」

「んー」


 休憩場所では、水場だけでなく小さい市場や宿が存在していることもある。勿論、そういうのがない街の方が多いものの、天然のオアシスの周囲ではそういう大きめの街が出来上がるのである。

 街の名はないが、休息地として人気な場所で、人も多く滞在している。


「返金してもらった分で足りればいいんだけど……」


 エスノアはバッグの中を確認する。そこには数少ない魔石とお金が静かに埋まっていた。


 連絡路は通行人が多い影響で、魔物というのは出現してもすぐに討伐されてしまう。そうなれば魔石は早いもの勝ちとなり、今までのように稼ぐことは難しい。

 最悪、バッグの中で蠢いているスライムの液体を売るか……とエスノアは考える。どうやらだいぶ価値のありそうなものだし、と。


………


 砂漠を歩き続け、さらに二日。道中で路銀を使い果たし、本当にスライムを売るしかないかと考え始めた頃、砂漠の終わりが見えた。

 少しずつ足元には草が増え、木が生えだす。暑さは未だに変わらないままだが、歩きやすさが数段違う。


 蜥蜴獣人の縄張り、乾燥地帯へと足を踏み入れたのだ。


 完全に足元から砂がなくなり、硬い土で構成され始めたころに、エスノアとファネは足を止めて大きな木の下で休憩する。


「連絡路はまだ続くの?」

「そうなんだけど……」


 と、エスノアは残りのお金を見た。魔石は少なく、このままでは街についたとしても宿には泊まれず準備もできない。そして、今のまま連絡路を歩き続けても、魔石がこれ以上増えるとは考えられない。


 連絡路の途中にある蜥蜴の街は一つだけだが、街自体は乾燥地帯にいくつも存在している。それに、少し遠回りして時間をかけたところで、この三人に縛る時間というのは存在していない。


「ハクさん、魔石確保のために道を逸れようと思うんですけど、どうでしょう」


 エスノアが口を開けば、ハクは人の姿へと変化する。幾分かよくなった顔色で、ハクはエスノアに肯定した。


「急ぐ旅でもないし、いいと思うよ。戦闘しないと体がなまりそうだ」

「ハクさんにはもう少し休憩してもらいたいんですけどね……」

「森での生活のせいかな。あまりゆっくりしているのも落ち着かなくてね」


 日本で生活していた頃も忙しかったし、もしかしたら社畜なのかもしれない……とハクは自虐した。南の街ではゆっくり休もうと決心しながら、ハクは地図を広げる。ガリアルで事前に手にいれておいた地図である。

 連絡路が整理されているのもあって、地図は結構正確だ。


「ここを西に逸れた場所にもう一つ街があるようだ。そこは鉱山都市で、蜥蜴の獣人が多いらしい」

「生業ですからね。でも、そこでなら問題なさそうです」

「ファネの盾も用意できる?」

「もしかしたら」


 ファネのマントが揺れる。その背には、小さめの盾が用意されているものの、前に持っていた金属製のものに比べると耐久性が劣る。前の盾も鉱山都市の鉱石から作ったものだったので、今回も用意できれば僥倖だ。


「では、目的地は鉱山都市ヘリルということで」

「よし、行こう」


 三人は連絡路を逸れて、街を目指す。


 逸れた傍から魔物と遭遇し、やはり旅はこうだと思いながらハクは槍を生み出した。

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