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狐、生きる  作者: nite
狐、知る

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炎のゴーレム

 ゴーレムの体を纏わりつくように揺らめく炎は、精神魔法のトリガーであり、同時に高温のアーマーとしての機能を有している。

 精神魔法は効かないが、まずはどうにか炎を鎮火しなければ近づくこともできない。


 だが、それは近接攻撃を仕掛けるならばという話。幼き二人の戦士は、近接攻撃なんて持っちゃいないのだ。


「『裂断せよ、光の刃を持って』!」

「せいっ!」


 エスノアの魔法がゴーレムを囲むように刃を出現させ、ファネの矢がゴーレムの脳天を狙う。

 ただのゴーレムであれば、それだけで体が吹き飛び力尽きる。しかし……


「弾かれた?」

「外れたー」


 エスノアの光の刃はまるでなかったものかのように弾け、ファネの矢はゴーレムの表面を沿うように滑り当たらない。

 物理にも、魔法にも強い力を持っているゴーレムは、その腕をエスノアに向け、炎を射出した。エスノアは結界を展開し炎を遮るが、強烈な勢いのせいでエスノアはくぎ付けとなってしまう。


「ううぅ……」

「お姉様!」


 ファネが凝魔術により作り上げたナイフを投擲。吸血鬼の腕力で投げられたそれは、ゴーレムにダメージらしいダメージを与えることもできなかったが、ゴーレムの意識を変えることには成功した。

 ゴーレムの腕が動き、ファネの方へ向く。どうやらこのゴーレム、同時に二か所に炎を射出することはできないらしい。


 炎が止まった瞬間、エスノアはゴーレムの足元に対して氷を出現させ、足止めを試みる。しかし、ゴーレムの足に纏わりつくように出現した氷は、数えるまでもなく溶け、もしくは弾けてしまう。このゴーレムにはそもそも魔力を弾く構造が備わっているらしく、ゴーレムに魔力が接着すると、その魔力は雲散してしまうようだ。


「ファネ!」


 ついに放たれた炎を止めるべく、エスノアはファネの目の前に結界を出現させた。今のファネには炎を防ぐ方法がないからだ。例え安い盾を持っていても、体全体を包み込むような奔流の前では壁にもなりやしない。

 ファネの目の前に展開した結界は、炎を完全に受け止めた。そして、そうなることを完全に信頼していたファネは冷静に凝魔術で再度弓矢を作り出す。強く引き絞り、凝魔術による矢はゴーレムへと命中。しかし、やはり滑るように掠ってしまう。


「一度退くよ!」

「うん!」


 ファネが離脱し、ゴーレムの腕が動く前にエスノアも離脱。建物の陰に隠れる。

 ゴーレムの近くにいたせいで上がった体温を冷ますように荒い息を繰り返す二人は、落ち着いて作戦会議を行う。


「あのゴーレム、魔法が効かないみたい」

「ファネの凝魔術も。滑っちゃって」


 現状二人に打てる手立てがないように思えた。いつもは魔力なしでの物理攻撃を行うハクがいないからだ。

 だが、エスノアは気が付いていた。同じ魔力だというのに、エスノアとファネではゴーレムの反応が違うということに。


「大丈夫、凝魔術ならあれに傷をつけれるはず」

「本当?滑っちゃうけど……」

「私の魔法はそもそも打ち消されちゃうから。ファネの凝魔術が当たるなら、勝機はそこにあるはず」


 ファネの凝魔術は、確かにゴーレムの表面を滑るように逸らされてしまうものの、エスノアの放つ魔法とは違いゴーレムに接地できてはいるのだ。当たるなら、ダメージは入る。


 どうやらこのゴーレムは、魔力自体を弾いてしまう性質があるらしい。そのため、魔力のみで構成された魔法技の悉くは弾けてしまい届かない。それに対して、凝魔術も魔力のみで構成されたものではあるものの、魔力を固めているからか完全に弾ける前にゴーレムに届くらしい。

 しかし、ゴーレムに当たった凝魔術の矢は表面から少しずつ霧散してしまい、そのせいでドライアイスのように滑ってしまっているという状況。


「滑らないように、関節部分を狙おう。引っかかるところがあれば矢は滑って行かないはず」

「分かった!」


 作戦会議を終えて、大まかな動きを決める。ファネが少し心配そうな表情を浮かべるが、エスノアは強く頷き、ワンドを持って走りだした。


 炎のゴーレムの死角を進むようにして、エスノアは反対側まで移動する。そして、手振りでファネに合図を送ると、ファネは凝魔術の弓矢を作りだす。

 同時にエスノアはゴーレムに気づかれるように路地裏から飛び出した。エスノアたちを探すように周囲の建物を破壊していたゴーレムは、やっと現れたエスノアに視線を向ける。


「【駆けろ、嵐のように】【光の盾よ、我を守り給え】」


 エスノアが冷静に魔法を唱えて、攻撃をある程度防いでくれる光の障壁を自らの周囲に出現させる。同時に、風の魔法がエスノアの髪を靡かせ、スカートが激しく音を立てて揺れる。


 ゴーレムは先ほどと同じように、腕を動かしてエスノアに対して炎を噴射した。どうやら、効かなかったからと違う攻撃を繰り出すほどの知能はないようだ。

 エスノアは炎が射出された瞬間、風と共に飛び上がる。その跳躍力は人間のものとは思えないほどのもので、ゴーレムの頭上を越える高さまで飛び、近くの壊れかけの建物の屋上に着地する。飛び上がるときも、着地の時も、エスノアは全く焦ることはなく非常に冷静にゴーレムだけを見つめている。


 ゴーレムはエスノアを追い、さらに炎を射出した。しかし、エスノアは建物の屋上をぴょんぴょんと移動し、攻撃が当たる気配はない。その白い髪を揺らしながら素早く動き回る姿は、まるで白い狐が重なるようで。


 エスノアが唱えた魔法は、風魔法のエンチャント。本来武器などに使う高等魔法を、エスノアは自らにかけることで身軽さを上げたのだ。人間に対してエンチャントを使う人などいないので、当然の如くエスノアのオリジナル魔法である。

 魔法はイメージが大切。普通であればエンチャントのかかった人間の姿など想像できないので魔法は成立しないが、エスノアにはその目に輝くように映る目標がいたのだ。何度もその姿でエスノアを助け、風のように白い影となりながら高速で走る狐の姿が。


「制御が、難しい……」


 エスノアが今回担った役目は、囮。魔法がゴーレムに当たらない以上、エスノアができることはファネを守ることか囮をすることしかなかった。そして、ファネの心配を押しのけ、エスノアは魔法による囮になったのだ。

 今回使った魔法に自信があったわけではない。なんせ、実験はできていたものの実践で使用するのは初めてだったからだ。そもそも、その実験だってファネたちには見せていないわけで、心配するのも仕方のないことだろう。


 それでも、最も凝魔術が刺さる状況を作るなら、ファネを守るよりもファネを狙わせないほうがいい。


「大丈夫」


 エスノアは義理の妹を信じている。見た目も言動も幼さが残るが、本質は実年齢相応の冷静さと度胸があるということを。


 エスノアが逃げ回っていた間、ずっとチャージをしていたファネの弓矢。それは、今までで最も太く、長く、まるで兵器のような大きさになっていた。

 それを、ゴーレムの足に向け、射る。


「……ここっ」


 大人くらいの大きさになった矢は、ゴーレムの足の付け根、ゴツゴツとした関節部分に向かって飛んでいく。例え姉が襲われている状況でも、姉を信じて冷静に放たれた矢は、ゴーレムの付け根に当たると少し滑り……そして、関節に当たり滑るのが止まると、勢いが衰えることもなく、関節部分を打ち砕いた。


 左足を構成していた岩が崩壊し、ゴーレムの体勢が崩れる。エスノアを狙っていたごと、地面に倒れる。

 そこを狙い、ファネの矢が何本も飛来した。右足、右腕、左腕、そのすべてを破壊しつくし、いつしかゴーレムには頭しか残っておらず、だるまのような姿になっていた。


 ゴーレムには核が存在しており、それを破壊しない限りは止まらない。核の位置はゴーレムにより様々であり、探すのが面倒であれば、過去にプイが行ったように全体攻撃を行うか、術自体を解除するほかない。


「動かないなら……当たる」


 ファネの弓矢が解け、とても長い剣のような形へと変化した。そして、吸血鬼の腕力で、ゴーレムの体を叩き切る。例え剣の扱いが未熟で、見る人が見ればただ振り回しているようにしか見えないそれでも、吸血鬼の肉体と動かない的という条件さえ揃えば、滑るまでもなく剣はゴーレムを貫く。ゴーレムの炎に巻き込まれない距離から、ファネはゴーレムを千切りにしていく。

 そうしてゴーレムは、ファネの姿を捉えることもできぬまま、バラバラになり、それと同時にただの岩へと戻った。その身に纏っていた炎も、今や何も残っていない。


「やったね、ファネ!」

「……お姉様、凄かったけどあまり危ないことはしないで」

「ごめんごめん、これしかなかったから」


 頬を膨らませて怒りを表現するファネは、エスノアを睨むように見ていたが、ふと、足音が聞こえてそちらに剣を向けた。

 ファネが臨戦態勢になったのを見て、エスノアもすぐさま同じ方向を見る。


「おや、自信作だったのですが」


 そこには、眼鏡をかけた青いローブを纏う男性が立っていた。バラバラになったゴーレムの欠片を拾い、分析するように見つめたあと、薄く笑い欠片を放り投げた。


「いやはや、まさか幼い少女二人に敗れてしまうとは。私の知る少女はどうして誰もかれも化け物ばかりなんでしょう」

「あなたがこのゴーレムの製作者……?」

「ええそうですよ、白い髪の魔法使い。私の知らぬ魔法を使うその腕、非常に……」

「こら!リエートさん!まっすぐ帰ると言いましたよね!」


 突然路地裏から走ってきた、これまた青いローブを身に着けた少女。その姿に、エスノアはハッとするように顔を歪める。


「あなたは!ブルリカにいた魔法使い!」


 それは、かつてバンカの住む街ブルリカで、エスノアを夢の世界へと誘い、怪しい光と共に人々を操っていたピンクの髪をしている少女。エスノアが今も展開している精神魔法阻害は、あの事件を反省して作り上げたものであった。


「あら、顔見知りでしたでしょうか。あの時は幸せを届けることができず申し訳ありませんでした」

「テリシア、知り合いかい」

「過去の幸福活動の信者さんです。こんなところで出会えるなんて思いませんでした」


 あの時の雪辱を晴らすべく、エスノアの腕が動く……その前に。


「ですが、今日はもう行かなければいけません。また次の機会に、幸せをお届けします」

「あの子、研究用に連れて行っちゃだめかな」

「だめですよ。あなたの実験は幸せになりません!」


 二人が路地裏に歩いていく。それを追うようにエスノアは足を動かそうとするが、しかし、まるで地面に足がくっついたように動かない。ファネの方を見ると、ファネも足が固定されて動けなくなっているらしい。

 それが肉体阻害系の魔法だと気が付いたのは、二人の姿が完全に消えてからであった。急いで解除したものの、既に二人の姿はない。


 大量の倒れた冒険者たちと、粉々になったゴーレムの残骸だけが、そこに残されていた。

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