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狐、生きる  作者: nite
狐、知る

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幽閉の街

 目が覚める。暑さが皮膚を焼き、思い出したかのように汗が噴き出した。


 エスノアは街の外で倒れていた。気を失ってから時間が経っていないのか、周囲の冒険者がエスノアのことを心配そうに眺めていて今にもこちらに駆け寄ってきそうな気配であった。

 そんな彼らを一瞥し、「すみません、大丈夫です」とだけ一言伝えると、街の方へ振り返った。


 そこには、エスノアを心配そうに見つめつつも、外には出てこようとしないファネの姿がある。気絶したのも見ていたのか、先ほどよりも心配そうな表情を浮かべているものの、外に出る一歩手前のところで足踏みをしている様子だ。


 そしてエスノアは確信した。


「この街、魔法にかけられてる……」


 王都程ではないにせよ、一般的な街よりも圧倒的に大きなこの街を、丸々一つ効果範囲に入れてしまうような、超広域魔法。しかも、意識に介入してくるような特殊で使い手が限られるような闇魔法。

 それが、エスノアやファネが気付かないうちに街全体にかけられている。


 エスノアが街から出たときに気絶したのは、魔法により整合性を()()()()()()()()脳内が、魔法による干渉がなくなったことにより一瞬再起動を挟んだことによる反動であった。

 どうやら街にかけられている魔法は、一度きりで効果が永続するものではなく、常に干渉し続けてくるような魔法らしい。精神魔法の類では特に強い効果を発揮する術法ではあるが、それ故に消費する魔力も半端なものではなく、並みの魔法使いどころか、王都の魔法使いであっても可能だとは思えない。

 相手に恐怖と焦りを覚えつつ、エスノアはファネの方を向く。


「ファネ!出てこれる?!」


 エスノアが街の中に向かって叫ぶように問いかける。しかし、ファネは声がうまく聞き取ることができないのか、首を傾げている。

 どうやら、正門と同じように、魔法の範囲外の声は中から聞き取ることはできないらしい。認識のズレが解消されないようにするためだろうとエスノアはあたりをつけて、自分自身に結界を展開した。精神魔法の作用を打ち消す結界で、かつて夢の世界に囚われてハクに迷惑をかけたエスノアが同じことを繰り返さないように開発した魔法だ。

 結界を展開する前に魔法をかけられていては意味がない……と自分に苦笑しつつ、エスノアは街の中に入った。


「お、お姉様?」

「大丈夫だよ。問題ないから」


 そうしてエスノアはファネの手を引く。ファネにかけられている魔法を解除するために、街の外に連れ出そうというのだ。

 当然ファネの頭の中には街の中にいるべき色々な用事が介入してくるが、今のファネは腕を引いてくれるエスノアを払いのけることはできない。ファネはそこまで、エスノアが信頼できる存在に至っていた。


 そうして街の外に出ると、同じくファネにも脳に負荷がかかる。ローブやフードが外れないようにエスノアが支えつつファネが目覚めるのを待つと、やはり数秒で気が付いた。


「あれ?」

「ほら、大丈夫だったでしょ?」

「なんだか、すっきりした気分」


 街の中にいるときは、脳内がどうしても街中にいるように意識させてくるようで、常に不安のようなものが付きまとってくる。故に、考え事が増え続け精神的な負荷になるのだ。

 もしこの街の中に一か月もいれば、不安で押しつぶされてしまうことだろう。


「どうやら街全体に魔法がかけられてるみたいなの」

「そんなことができるの?」

「普通はできないよ。そんなことをしたら魔力は足りないし、一人の術者じゃ到底不可能だし、そもそも魔法の痕跡を残さないってのも意味が分からない……」


 エスノアとファネは、ハクが消えた原因を探るために、例え関係なことであろうとも魔法の痕跡が残っていないか隅々まで探しつくした。その間、この街全体にかけられている魔法に気が付けなかったのだ。


 明らかに人間業ではない魔法の規模と技術に、エスノアの頭は混乱するばかり。ファネが落ち着いていられるように表には出さないが、内心では敵対している相手の強大さに震えすら感じている。


「それに、お父様も見つかってないよ」

「うん。それも謎。記憶に干渉されてる感じじゃないし……」


 街の外に出ても、ハクがどこに行ったか不明のままだ。魔法によってハクの記憶が書き換えられているわけではないという安堵感はあるものの、ハクを探す糸口を掴めていないのは同様だ。


「ひとまず、ファネにも結界をつけとくね?」

「結界?」

「精神作用を防ぐ結界だよ。魔力供給しないといけないから、あまり私から離れないでね」


 ファネの結界がきちんと展開していることを確認したエスノアは、ファネの手を引いて街の中に戻った。外では魔法の影響が出ていないのは間違いないのだが、外に情報があるとも思えなかったからだ。


 エスノアが現在確認しているのは、街の外に出ようとしない意識誘導の魔法のみ。しかし、精神操作というのは自覚しづらいもので、重ねて他の魔法がかけられていたとも限らない。再度正しく認識するために、エスノアは宿の部屋へと戻った。


「ハクさんの部屋に、認識できなかった何かがあるかもしれない」

「お父様のもふもふの毛とかあればなぁ……」


 ファネの一言は単純に、モフモフしたいという欲望から出た言葉であったが、意外にも見つかったら嬉しいものでもあった。

 毛というのは情報が追随しているもので、エスノアの魔法を改良すればハクのことを逆探知することも可能になるかもしれない。希望を胸に閉ざされた扉を新しく開けて……


「うそ……」

「え……」


 二人して言葉を失う。


 朝確認したときは何もなかった部屋。綺麗に整えられ、しばらく誰にも使われていないということが分かる真新しい部屋。それはマヤカシで。


 そこは、一部が凍り付き、棘のようなものが壁に刺さり、引っかかれたような傷跡が残されて……ひしゃげた窓から何者から飛び出したらしい、見事なまでに損壊した内装。

 ハクの部屋は、見るも無残な姿に変わり果てていた。

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