信頼性市場
砂漠の街に入る門は二つあり、商人用とそれ以外用だ。どうやら、この街で商売をするには厳しい検査があるらしく、商人用の門は結構な列ができていた。
それに比べてそれ以外用は検査もなく中に入ることができた。門番は荷物だけをちらりと見ていたので、本当に商売に対してのみやたらと厳しい街のようだ。この街で商売をするには長い列に並んで時間をかけて検査をされる必要がある。
しかし、その検査のおかげでこの街の商品は他国も含めて最も信頼される商売とされている。偽造品や粗悪品はもちろんのこと、権利関係や遺失物の転売のようなこともあり得ないとのこと。この街で商品を買う時は気兼ねなく購入していいとされている。
「ひとまずギルドで換金して……市場を見てみようか。色々面白そうだ」
「楽しみー」
路銀を確保するために、ギルドで換金を行う。砂漠ではあまり魔物と遭遇しなかったので換金額は少なかったが、探魔の森での換金分がまだ残っているので、高価なものでもなければ市場でショッピングが楽しめそうだ。
市場の通りは人が多いので、ファネにはしっかりとローブを羽織ってもらい、三人で市場を歩くことにした。
この街はいくつかの通りが市場として機能しているが、商品ジャンルと商人の信頼度によって通りが変わるのが特徴だ。現在ハクたちが歩いている通りはメインストリートであり、商人たちの中でもこの街で信頼を獲得している商人のみが店を開き、商品ジャンルこそバラバラだが上質なものが多い。
「すごい……最上級薬が売ってる……」
「吸血鬼の牙だってー、どこで手に入れたんだろ?」
「六千ロガラの槍だって?一体何体魔物を倒せば買えるんだ」
上質、それでいて高価。
目を引くものはあれど、そのどれもが手を出せるような価格ではなく、ハクたちはそうそうにメインストリートを抜けて隣の通りに移動した。メインストリートで買い物をしている人は、一体何の仕事をしているのだろうか。
隣の通りはハクたちでも手が出せる商品が並んでいる。いわゆる、冒険者街とも言えるような通りであり、ハクたちのような旅人向けの商品が多く並べられている。
ハクたちでは手が出せないような最高級薬ではなく、お手頃な中級薬も多く並べられ、使いやすく汎用的な金属で作られた剣が購入しやすい値段で売られている。
「ひとまずいくつか薬を確保しておきましょう。それと、砂漠には毒を持つ魔物も出るらしいので毒消しも」
「毒は魔法では解除できないのか?」
「できなくはないですが、比較的高等魔法に分類されます。少なくとも私は使えませんし……解呪の類の魔法はとある魔法派閥が独占していると聞いてます」
回復はエスノアができるものの、いつでも回復できるわけではないので、ハクやファネだけでも回復ができるように薬を購入。ギブスや包帯のようなものはハクが変化で用意できるので不要。
武器はもちろん必要ない。周囲の冒険者パーティはどこも武具を備えているので、見るからに軽装なハクたちは少し浮いて見える。
今更周囲の視線など気にしていないハクたちは、堂々と通りを抜けていく。たまに不思議な魔道具が置かれておりエスノアが視線を誘導されるが、その値段を見て足を戻した。
「あ、ちょっとここ見てもいいですか」
そんな中、エスノアが足を止めたのはある常設店舗。基本的にはテントやシートの上で商売が行われている通りで、この街に住み物件を構えている店が存在する。それが常設店舗であり、ある意味ではメインストリートの商品よりも信頼できるとされている。
エスノアが入った店の名前は、ガダス本屋。どうやら冒険者通りで唯一の本屋であるようだった。
「やっぱり!魔導書が置いてますよ!」
店の商品を見てエスノアが見るからにテンションを上げる。ハクは魔導書と聞いて、魔法使いがふわふわ浮かしながら使う魔法の本を思い描いた。何が書かれているのかは想像できないが、ハクのイメージでは魔導書を使って魔法使いは魔法を行使する。
早速エスノアが棚の中から取り出した一冊は、五元魔法基礎。水、火、土、風、木という五種類の魔法属性の基礎魔導書のようだ。
「お姉様って基礎いるの?」
「基礎は大事なことだよ。それに、魔法発展のためには基礎技術がとっても大事だって知ったから」
最近のエスノアは、新しい魔法を自力で開発することに注視している。そのためには、それぞれの魔法の基礎技術が重要なのだと旅の中で思い知ったのだ。
この世界の魔法は魔力流動、詠唱、発現の三段階で構成されている。そのうち、誰でも同じ魔法が使えるように発現方向を定めるのが詠唱という技術だ。即ち、発現方向を自らである程度決められるのであれば、詠唱は本来必要ないものである。
ハクの変化は発現方向が常に一定ではなく、ハク自身で調整することができる魔法だ。故に、ハクは変化魔法に詠唱を必要としない。エスノアが得意とするいくつかの魔法も、発現方向を把握しているので詠唱は不要。結界術や中等魔法は発現方向を完全把握できていないので、多少の詠唱を必要とする。
ではこの魔導書には何が書かれているのか。答えは『発現方向の把握の仕方』である。即ち、詠唱せずとも初級魔法は使えるようになれるという教科書のような本なのである。
「これを読めばファネも魔法が使えるようになるかも」
「本当!?ファネも新しい魔法おぼえたーい」
魔導書は貴重なものだ。なんせ、魔法使いは基本的にその技術を親しくもない人には伝授したくないからである。メモ書きであってもヒントがあれば凄く、魔導書のように書籍として残っていれば奇跡ともなる。
そんな魔導書が、この店には三冊もあったのだ。エスノアは迷わず三冊とも買い……たいところだったが、予算的に一冊しか買えそうにないので、ひとまず一番必要な魔導書を購入した。
「はぁ、いい買い物をしました」
ニコニコで本屋から出るエスノアは、大事そうに魔導書を抱える。
「たまにいるんですよ。魔法使いとして高等技術があるのに魔法発展よりもお金を大切にする人が」
魔導書は内容にもよるが、大抵の場合高価で取引される。エスノアが買った初級魔法の本ならば多少安いが、高等魔法の魔導書ともなればロガラ、ハガラまで値段は跳ね上がる。お金が欲しい魔法使いが執筆したものが市場に流れているのが現状だ。
「さて、次の通りに行きましょう」
いつもよりも上機嫌なエスノアを見て、ファネもハクも微笑ましい気持ちになるのであった。




