会話という手段、手順、実践
プイという少女は、先ほどよりも時間がかかってから戻ってきた。少々探すのに時間がかかっていたようである。
バンッ!と強く開け放たれた扉に、白狐はビックリする。そちらを見ると、プイと、大きな尻尾が特徴的な女性が立っていた。
「チベ姉、この子!」
「ちょっと見せてねぇ」
語尾が少し間延びした話し方をするチベが、白狐に近づく。
耳と尻尾が、白狐の兄弟を彷彿とさせるような色をしている。そのせいで、白狐の体はチベに対して少し強張ってしまう。
「大丈夫よぉ……私よりも魔力があるわねぇ、羨ましいわぁ」
「じゃあ……!」
「化けるための魔力は十分ねぇ、方法に関しては……私に少し任せてほしいわぁ」
狐耳をピクピク動かしながら、チベはやる気と自信を持った返事をした。どうやら何か秘策のようなものがあるらしい。
もしかして、この人が化ける方法を教えてくれるのかと白狐が期待すると、プイも同じことを思ったのかチベに尋ねた。
「チベ姉、知ってるの?」
「私は知らないけどぉ、化け狐の本があるわぁ。きっと書いてあるわよぉ」
なんともふわっとした回答に、少し白狐の期待度が下がる。
とはいえ、今の白狐が人間になるためにはチベに頼らざるを得ないのは間違いないので、なんとかなることを信じるしかない。
チベは立ち上がり、玄関のドアを開ける。
「私は調べものをするから、明日また来るわねぇ」
「うん!その間に私はこの子の世話をするね!」
「お願いねぇ」
そうしてチベは家から出て行った。ちょっと不安になるような自信だったけれど、本当に大丈夫だろうか。
家の中に残ったのは、プイと白狐。少なくとも今日一日はこの少女に、白狐は依存しなければいけないようだ。
「じゃあ今日はよろしくね!私、プイ。あなたの名前は……」
白狐は思う。名前など、ないと。
結局、母狐は最後の最期まで、白狐のことを名前で呼ぶことはなかった。他の兄弟との区別もなかったので、母親にとっては色の違いなど些細なことだったのだろう。
冷酷に聞こえるかもしれないが、生存競争が激しい自然界の中で毎回子供に名前を付けることの方が稀である。この世界においては、ドラゴンの子供などがたまに名前を授かる程度で、人間や獣人以外の生物はそうそう自分の名前を持っていない。
少女は少し悩んだあとに、白狐に提案をした。
「全身が白だから、ハク!ハクでいい?」
「キュン」
ここは日本ではないので、白という漢字に「シロ」と「ハク」の二つの読み方があるなんてことはないはずだ。しかし、少女は白狐にハクと名付けた。
白狐は……ハクは、少し疑問に思いながらも、その名前を了承した。分かりやすいし、真っ白な毛並みは少しだけ自分の誇りでもあったから。
ハクが名前を受け入れたことを認識すると、プイは嬉しそうに笑う。
「えへへ、よーしっ!」
プイが腕まくり。プイよりも体の大きいハクを、両手が抱き上げた。
「汚れてるから、取り敢えずお風呂に入ろう!」
今のハクは、数日間森の中を走り続けた影響で、ところどころ黒くなっている。飛び散った土や、低木などの小枝が体を引っ搔いたせいだ。
ハクは鏡を見ていないので気が付いていないが、ハクの顔はとても黒くなっており、プイにはそれが許せない。
「真っ白になろうねー」
「キュン」
そうしてハクはお風呂場へと連れていかれた。炊事場と違って室内に備え付けられているお風呂は、長らくお風呂に入っていなかった日本人として、とても極楽であった。




