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狐、生きる  作者: nite
狐、知る

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砂漠へ

 街で一泊をしたあと、一行は朝に街を出ることにした。この街のギルドは小さく、冒険者も少ない。長居する理由はないという結論だ。

 そうして街を出てしばらくすると、未だに平原ではあるものの体感温度が上がってきているのを感じた。太陽からの日差しがいつもよりも強く肌を刺し、額にじんわりと汗が浮かぶ。


「魔力は温存しておいた方がいいな。水にも、日除けにも使いそうだ」

「ですね……まだ温度上がるんですか」

「あついー」


 その足取りは重く、その動きは緩慢。まだ砂漠地帯に入ってもいないというのに三人の体力を奪う太陽に、恐ろしさすらも感じ始めていた。


 エスノアは北の国出身だ。そのため、寒さには強いのだがいかんせん暑さに対する耐性は低い。それでも火の魔法を使うなどもする関係で、この中で一番耐性が高い。

 ファネの故郷は島国だ。南国というわけでもないので、海風も流れてくる涼しい気候であった。ここのように直接的な太陽に熱されることはほとんどないうえに、水分不足というのもそう発生しない。この世界の吸血鬼は日光にも強いが、無意識に太陽光が弱点になり始めていた。

 そして、この中で最も暑さ耐性が低いのは意外にもハクである。狐という種族は色んな環境に適応するように進化し、地球であれば暑い地域にも分布していることがある。だが、ハクのようなモフモフの毛並みをしている狐というのは寒い地域に住んでいる狐なのだ。現に、暑すぎていつも出してる狐尻尾も狐耳もなくして普通の人の姿になっている。


「うぅ、尻尾……」

「流石に勘弁してくれ。どのみちこの暑さだとベタベタだ」

「分かってる。お父様も暑いもんね……」


 そんなやり取りもあって、ハクは普通の人の姿だ。現状地球での姿とそう変わらないので、この世界だとむしろ違和感を覚えてしまうハクである。


「お姉様ぁ、涼しい魔法ぅ……」

「考えてるから待ってね……人体に影響を与えないようにするのが難しくて……」


 暑さのせいで、全員言葉に覇気がない。結構な頻度で水を飲んでいるというのに、一向に体は冷えないしむしろ水がぬるくなっていく。魔法で生み出した時点でぬるい水を、なんとか飲んで先に進んでいるのが現状だ。

 エスノアは頭の中で魔法構築をしていた。即ち、熱を遮断するだとか、熱を逃がすだとか、体を冷やすとかそういう魔法だ。エスノアの記憶にその手の魔法はないので、新しく脳内で構築しているのだが、まだ方向性すら定まらない。


 エスノアは、バンカとの練習によりその場で新しい魔法を生み出すという技能を身に着けていた。ショーを飽きさせないようにするために日々精進しているバンカの技術ではあったが、先日ファネの封印をその場で解除したのも含めて、エスノアはバンカに非常に感謝していた。

 だが、それらはきっかけとなる魔法があるからこそできることだ。新しい魔法と言えども、どちらかと言えば発展魔法と呼ぶべき運用方法のため、完全に新しい魔法を作るとなると難易度が跳ね上がる。

 

 気温のせいで完全に集中できているとも言い難く、こんなことなら街で考えてから出るべきだったなと後悔しているほどだ。


「少し対策しようか……」


 ハクが足元の葉っぱを何枚かむしり、変化魔法を使用した。そして手の中に出てきたのは麦わら帽子。砂漠の衣装とは違うけれど、暑いといえばこの帽子と言える麦わら帽子をエスノアとファネ、それに自分自身に被せた。


「太陽光が遮れれば多少効果はあるはずだ」

「ありがとー」

「ありがとうございます」

「本当はもうちょっといいのがあるんだが、作れなくてね」


 ハクの脳内には、砂漠をラクダで移動するような人々の姿が思い浮かんでいた。顔のほとんどを覆う布に、可能な限り肌の露出を減らした服を着た人々は、少ない水を元に砂漠を移動している。

 太陽光だけでなく砂嵐などからも身を守ることができる特殊な服ではあるのだが、ハクの知識は細かい部分を再現できないので、ただ厚着をしてむしろ危ないことになる可能性があるので諦めた。地球の文化の本が欲しいと思うハクであった。


 麦わら帽子を被っても、気温が下がるわけではない。直射日光は凌げても、太陽が当たらないようになるわけではない。

 定期的に日陰で休みながら移動を続けていたが、ある時にファネがとうとう深く木の根っこに座り込んだ。


「もうむりぃ……暑すぎぃ……」

「いや、よく頑張った。まだ砂漠にも入っていないのにこんなんじゃ、砂漠に入ったら死んでしまう」

「そうですね……今日はここで休憩しましょうか。夜になれば多少涼しくなるはずですし、今日のうちに魔法を作り上げて見せます」


 逃げるように、変化魔法と岩魔法で仮拠点を作成してテントを作る。テントの布部分を完全にプレートのようにしてしまって、完全に熱を遮断する。ファネは早々に中に逃げ込み、ハクとエスノアもテントに入って休憩することにした。

 改めて魔法で生み出した水をちゃんと冷やして飲めば、日光によって火照った体を芯から冷やしてくれる。


「やっぱり、これで砂漠を越すとなると、魔法を開発しても魔力が足りないかもしれません」

「ふむ……例の魔力を生み出す魔道具はどうだい」

「あれが使えたら楽なんですけどねー……まだ私の魔力に変換できないので難しいです」


 例の魔道具は、見つけてから今に至るまでずっと魔力を放出し続けている。生命でもない限りこのように魔力を無限に放出することなどありえないことで、確かに発見したときにエスノアが言っていた通りこの魔道具は永久機関なのだろうとハクは思う。

 それと同時に、この魔道具を何かしら有用に使えたら楽だとも思う。無理に自分の魔力に変換せずとも使えるのであれば、それでも。


「魔道具自体に魔法陣か何かを書いて、魔力を変換せずに使えないか?」

「え?あー、そうですね……今後他の魔法に転用するときは魔法陣を消さないといけないですけど、確かに今回はこれでどうにかなるかもです」


 ハクは魔道具を取り出し、エスノアに手渡した。エスノアはすぐさま魔法の研究に入る。


 明日以降のハクたちの命はエスノアに握られている……と思いながら、ハクはご飯の準備をすることにした。

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