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狐、生きる  作者: nite
狐、知る

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はずれの街、ファイレン

 森の中を歩いた時間よりも圧倒的に短い時間で、三人は街に辿り着くことができた。太陽はまだ真上に近い位置でハクたちを見下ろしており、まだまだ人通りも多い時間帯だ。

 堅牢な壁は健在ではあるものの、門番こそいるが持ち物検査などもなく、ファネも拍子抜けしてしまうままに門を素通りして中に入る。


「検査とかはないのか」

「検査があるアルクリアが凄いんですよ。そのおかげで治安はいいんですが、他の国では門番はあくまで魔物やモンスターの侵入を阻むだけの存在であることが多いんです。特にこの国では、違う民族に体を触られるのを嫌がる人も多いですから」


 国と国の間に検問がないのと同じように、この世界ではそれなりに性善説を信頼しているらしいという印象をハクは受けた。この世界に性善説という考え方があるのかは不明だけれど、そうでなければ知らない人を素通りさせはしないだろう。

 一応それぞれの国の重要都市であれば検問もあるらしいが、バンガロンドではそれすらもないらしい。他種族国家ならではの悩みであり、弱みだろうとハクは結論付けた。


「ファネは気楽で嬉しい」

「ファネちゃんが緊張しなくていいもんね」

「アルクリアが生活しづらい環境なのは間違いないだろう」


 今ではハクとエスノアもアルクリア国内ではお尋ね者。検査なんてされた日には、三人まとめて牢屋に入れられ、ないし処刑される可能性が高い。


「最初からこっちに来てればファネももう少し住みやすかったんじゃないか?」

「他の国とか知らないもん……それに、移動し続けるのってお父様が思うよりも大変なんだよ?」

「それも……そうか」

「それに、あそこにいたからお父様とお姉様に会えたから、ファネは後悔してないよ!」


 満面の笑みでそんなことを言われてしまえば、ハクもファネもそれ以上のことは言えない。ファネにとっては、どれだけの苦労があったとしても、二人に出会えたことが一番の幸福なのだから。


 雑談をしながらなら、時間も早く過ぎ去る。いつの間にか到着していたギルドでいつも通り魔石の換金をする。物流も乏しい街であるから買い取り額は安かったものの、森での数多の戦闘によって大量の魔石を手に入れていたので砂漠に行く準備をするには十分すぎるほどのガラを手に入れることができた。

 長い森での旅路により不足していた調味料等の日頃持ち歩いているものを買い集める。塩などは手に入れることができたが、砂糖はこの街になかった。ファネの盾を新調することも、この街ではできそうにない。


 一泊したらすぐに街を出ようと決めて、宿を二部屋とった。この街に寄る冒険者は少なく、ハクたちは資金を現在多く持っているからこそ、二部屋にしたのだ。何故ファネもエスノアも若干不満そうだったのか、ハクには分からない。


「お父様!一緒に街歩こ!」


 部屋で荷物を整理していたら、ファネが元気に扉を蹴破った。部屋の扉はなんとか持ちこたえたようだけど、吸血鬼の脚力をなめてはいけない。ハクはファネを優しく叱りつつ、部屋の外に出た。


「お姉様は森で拾った素材を確認したいんだって」

「そういえば色々と拾っていたな」


 魔物はほとんどの場合素材を落とさずに消滅するが、稀に表皮や角などを落とすことがある。また、倒す前に体から部位を吹き飛ばしてしまうと、確率で消滅せずに残ることがある。

 ハクが今も持っているスライムの体液はそうして手に入れたものだったわけだが、森での戦闘でエスノアは地道に素材を回収していた。ほとんどは触手の末端らしい。


「お姉様のご飯も買って来よ」

「ご飯探しだな」


 調味料を買っている間に、色々と出店が出ているのは確認している。ハクは道中で買い食いするタイプではないので買ったりはしないが、いい匂いに若干尻尾が揺れたのをハクは覚えている。


「しゅっぱーつ」


 元気そうなファネに連れられ、ハクは外に出た。森の鬱蒼とした空と違い、涼しげな青い空が広がっていると、野生生物の部分が少し刺激される。ケープの下のファネの翼も小さくパタパタ動いているらしく、ケープが小さく揺れている。


「お父様は何が食べたい?」

「うーん、やっぱり肉かな」

「じゃあファネもお肉が食べたい!」


 傍から見れば親子にしか見えない会話をしながら街を歩く。宿屋の近くは需要が高いことが分かっているのか、少し歩けばすぐにいい匂いが漂ってくる。

 肉と野菜を使った串焼きを始めとして、サンドイッチのようなものや、スープのようなものなど、ある程度のものなら揃っているようだ。物流に乏しいと言われていたが、少なくとも食には困っていないようだ。


 まだ昼間だというのに、街を行く人数は少ない。全くいないというわけではないものの、今まで見てきた街と比べると明らかに人口が少なく、貧困とまではいかないものの、豊かな暮らしと言えるほどの生活もしていないのは、そのくすんだ色をした服を見れば分かる。


「お父様、あそこにしよ」


 匂いに誘われたファネが指さしたのは、焼き鳥屋であった。タレ焼きをしているようで、香ばしい匂いが店の前に漂っており食欲が増進させられる。

 ファネが三本くださいと言えば、この手の屋台では珍しく女性の店主が慣れた手つきで用意をしてくれた。尚、使われている鳥はファンタス鳥らしいのでハクも安心。


「お姉様にも温かいうちに届けないと」

「流石にこれだけじゃ足りないから、もう少し見て回ろうか」


 歩きながら口の端っこにタレをつけて笑顔で話すファネ。迫害されている吸血鬼少女がこうして笑顔で食事できているところを見ると、それだけでハクは嬉しくなるものである。

 その後もサラダ(青色の葉物が使われている)やおにぎり(米のように見えるが米にしては鋭い)などを買って、宿に戻った。エスノアはまだ素材を確認しており、今はエスノアの顔ほどの大きさのある爪を見ているようだ。


 ファネがエスノアの背後に飛びつくようにして抱き着いた。危うく爪に刺さりそうになったことに冷や汗をかきつつ、エスノアは笑顔でファネの方を向いた。


「お姉様ー、ご飯買ってきたよ」

「ありがとう、ファネ。ハクさんも、ありがとうございます」

「研究熱心なのはいいことだ。しっかり食べてくれ」


 まだ食べていない殺傷力のあるおにぎりを食べようと部屋に戻ろうとしたら、ハクの服をファネが引っ張った。


「お父様もここで食べよ?」


 上目遣いに甘えた声。ファネ自身の整った顔も相まって、耐性のない者は一発でノックアウトを食らってしまうだろう動作に、ハクは足を止めた。

 愛娘のお願いを無下にすることはないハクは、大人しく部屋に入り、備え付けの椅子に座る。エスノアとファネは仲良くベッドに並んで座った。


「えへへ、ファネとお姉様は仲良し」


 エスノアに頭を撫でられるファネは、ヒマワリのような笑顔でサラダを咀嚼した。

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