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狐、生きる  作者: nite
狐、渡る

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バンガロンド共和国

 獣人の村を出ると、すぐに国はアルクリアからバンガロンドに変化した。国境があるわけではないのでハクたちは跨いだ瞬間は気づけなかったものの、確かにそこはアルクリアとは違う雰囲気を感じる国であった。


 まずもって、現れる魔物の見た目が違うのだ。これはエスノアも知らなかったことで、頭が二つあったり触手が大量に生えていたり、そういった魔物が明らかに増えている。

 アルクリアでは動物がベースになっているような魔物が多かったが、ここでは何がベースになっているのかも分からない魔物が多い。


「個体差が激しくて戦いづらいですね」

「とはいえ防御力は低いようだ。私が一刺しするだけでも倒れてくれる」


 装甲は厚くなく、ファネの一撃がなくともハクでとどめを刺すことができる。トリッキーな動きが多いものの、油断しなければ楽に倒すことができる魔物が多い印象だった。


「ただ、魔物が多くないか?」

「そう、ですね……アルクリアの倍はいますね」


 茂みの中から、森の奥から、木々の上から、土の中から。

 いたるところから魔物が現れハクたちに襲い掛かる。国が変わったのが分かったのも、その魔物の多さが原因だった。アルクリアでは一日に平均して五体ほどの魔物と遭遇していたが、バンガロンドに入ってから既に八体と戦闘をしている。


 ファネの盾が弱くなった……ファネの要望により、そこらへんの石で盾を簡単に作ることになった……結果、それぞれの戦闘での疲労が多少増えているのが現状だ。

 早いところ休憩できる場所を探して休息をとりたいのが一番の望みである。


「困りましたね……まさか地図がここまでだなんて」

「次の街の方角が分からないのは非常に厄介だ」


 そんな三人は、現在森の中を彷徨っていた。一応まっすぐ進み続けているのだが、一向に森はなくなる気配がないし誰ともすれ違わない。街なんてものが見えるはずもなく、現れるのはただひたすらに魔物のみ。

 アルクリア王国で手に入れた地図が、この森の中で途切れていたのである。確認不足だったとエスノアはひたすらに謝罪したが、適当な準備をしていたハクとファネにも責任があると二人はエスノアを責めなかった。せめて最後の獣人の村で次の街を確認しておけば……というのも、後の祭りである。


 一応定期的にファネが高く飛んで確認しているのだけど、曰く森が続いているとのこと。開けば場所もなく、ただずっと森が続いていると聞かされた時には、ハクもエスノアも揃ってため息をついた。


「こう森が続いていると生まれ故郷を思い出す」

「そういえばハクさんは森生まれなんでしたっけ」

「兄弟を亡くした後に、森を抜けるために何日も走り続けたんだ。プイとスフィンに出会わなければ森を出たところで息絶えてたかもしれない」


 あの頃はただ生き残るために、決死の覚悟で森を抜けた。森にずっといては死ぬし、森を抜ける途中で立ち止まっても死ぬ。その命が擦り切れる前に森を抜けることができるかは一か八かだったが、今のハクからすると随分と危ない賭けを乗り越えたものだと思う。

 今は二人もいるし、そんな危ない橋を渡ることはできないけれど、少なくとも何日も森を彷徨うことになるくらいならハクが狐姿になって全力疾走した方がまだ生存できるのではないかと、ハクは密かに思っている。

 尚、ハクがそんな提案をしてもエスノアとファネは首を振らない。ハクの命をすり減らすようなことを、二人は絶対に許さないのである。


「さて……こうなったら仕方ない。ファネ、近くに山はあるか?」

「右側の遠いところに山が見えるよ。でもお父様、そこまでは森しかない……」

「山の上に登ればもっと遠くまで見えるだろう……それと、洞窟でもあれば多少は休憩できる」


 現在は四方八方から魔物やらモンスターが現れている現状だ。いくらエスノアが結界を張ったりハクが簡易テントを魔法で作成できるとはいえ、大量の魔物に襲われていてはどうにもならない。

 洞窟に入って入り口をカモフラージュするような壁で埋めればそれだけで、魔物の脅威度が一気に下がる。街に辿り着けないのなら、せめて休憩をと思ったハクが立てた作戦が、山への避難であった。


「あっちだな?」

「うん」


 ハクが指さしファネが頷く。森の木々は妙に高いためハクにもその山は見えていないが、ファネが言うのだからきっとあるのだろう。

 三人は山に向かって歩き出した。新しい国での第一歩は前途多難なものになりそうである。


――――


 なんとかハクたちが山に辿り着き、狙い通り洞窟で休息をとっている夜。見張りとして起きていたファネは何が二人以外の気配がテントの方からすることに気が付いた。

 それは人のような気配ではなく、虫などのようなか細いものだ。だが確かにする気配の正体を確かめるために、ファネは二人を起こさないようにテントを覗いた。もし見逃した魔物がいたら、ファネは大好きな二人に合わせる顔がないからだ。


 しばらく気配の元を探していたが、最終的に気配はハクの持ち歩いているバッグからすることに気が付いた。何かが動いている様子はないけれど、なんとなく生命の気配がするバッグの中を覗く。そこには夕飯の時に使った調味料のほかに、よくわからないものがいくつか入っている。

 ハクを起こさないように慎重にバッグの奥を探ると、何かが動いているのが見えた。ネズミの類だろうかとファネが握りしめるが、返ってきた感触はとても固いもの。取り出してみると、気配の元は小瓶……の中に入っていたよくわからない液体。


「……」


 なんとも形容しがたい感情になりつつ、ファネは瓶を振った。すると、中のドロリとした液体が微妙に振動する。それは揺れによって生まれた振動ではなく、確かに振られたことに対する反応であった。


 ひとまず小瓶に入っているし、何かできそうにないし、多分これはお姉様かお父様の道具だろうと結論付けてファネは見張りに戻った。

 ファネは知らないことであったが、この液体はかつてハクが商人から貰ったスライムの液体である。意思はなく、生きてもいないただの体液であるはずなのだが、それが生まれ返ったように動き出したのだ。


 スライムのことはもう忘れることにしたファネは、そのまま何も二人には言わずに次の日を迎える。このスライムが後々面倒なことを生み出すことになるとは、その時のファネは思ってもいなかった。

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