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狐、生きる  作者: nite
狐、渡る

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姉妹のような

 傷だらけの体に鞭を打ち、可能な限りエルトロールから離れた三人は、木々の間で休憩をしていた。周囲を見づらく、また周囲から見えづらいところで休憩する一行は、ところどころの服が破け血が流れている状態である。

 本来なら眠る時間に宿を出て、そのまま吸血鬼と戦闘。その後逃走し、吸血鬼が簡単には追い付くことができない場所まで逃げてきた。ファネ曰く、吸血鬼はそこまで感知能力が高いわけじゃないので、それなりに離れることができれば基本的には逃げられるとのこと。


「全員治療しますね……」


 エスノアは魔法の解析をしていたので、魔力にはまだ余裕がある。淡い緑の光が三人を包み込み、少しずつ傷が癒えていく。だが、失った血液までは戻らず疲労も回復しない。


「……ふぅ、ひとまず食事をしよう。体力を失ったときは、何かしら食べないと回復もしない」

「そうですね……元々街に戻るつもりじゃなかったのがちょうどよかったですね」

「吸血鬼と出会って簡単に戻れるとは思えなかったからな」


 そうしてハクは変化で鍋を作り、持っている材料を煮込み始めた。疲れた時に噛むようなものは食べづらいので……というよりかは、単純に作る気力がなかった。全員満身創痍だし、変化に使える魔力も少ない状態で、必要以上のことはしたくなかったのである。


 ハクが料理をしている間、エスノアはハクとファネに回復魔法をかけ続けた。そんな中、ファネがエスノアに話しかける。


「ありがとう、助けてくれて」

「え?そんな、改まって言われることじゃないよ。あの時危なかったのは私たちもそうだったし」

「魔法解除してくれなかったら、ファネ捕まってた」


 ファネが思い起こすのは脱出の最終段階。吸血鬼の魔法によりファネは拘束され、ファネ自身ではどうにもならない状態になってしまった。そんな時に助けてくれたのがエスノアである。

 エスノアがあの魔法を瞬時に解除できたのは、単に封印魔法の応用ができたからである。あの吸血鬼の鞭のような、紐のようなファネを拘束していた魔法は、吸血鬼の空間を覆っていた封印魔法と同じ術式だったのである。それを一目で見破ったエスノアは、その瞬間に封印魔法を解除した過程を魔法として実行し省略したのである。


 尚、過去の過程をすっ飛ばして結果だけを実行する魔法というのは本来は高等な魔法なのだが、これに関してはバンカから教えてもらった魔法知識が役に立った結果といえる。というのも、バンカは道具の準備のために何度も同じ魔法を実行する。ハクと違い変化に時間がかかるバンカはその変化魔法の過程をすっ飛ばして実行しているのだ。

 その技術はエスノアに継げられ、そうして今役に立っている。当時のエスノアからすれば、誰かの役に立っているという事実だけで嬉しいものだろう。


「だから、ありがとう」

「いいんだよ。それが仲間で、えっと、友達?だから」


 エスノアとファネの関係を、エスノアは疑問形で呼んだ。どうにもエスノアはしっくりこなかったからだ。

 対するファネも、友達という呼称には少し首をかしげる。仲間というのは納得できるし、実際その通りなので何も不思議ではないけれど、友達かと言われると妙に違和感が残るのだ。


 エスノアとファネはそれなりに仲がいい。王都では一緒に買い物をしたし、やはり四六時中行動を共にしていれば少なからず共通点だとか仲良くなるきっかけというのは見つかる。

 しかし、二人はそれを友達と呼ぶのは微妙な気分になる。親友とまでは言わないけれど、それでも友達よりももっと、親密で、それでいて重すぎない……


「お姉ちゃん……」

「え?」

「なんだか、エスノアのこと、ちょっとそう思えた」


 なるほど、姉妹か。料理をしながら話を聞いていたハクは、心の中で納得した。


 赤い髪の吸血鬼少女と白い髪の妹を失った魔法使い少女。姉妹というには違いすぎる二人だが、しかしそれでもファネは今回の一件でそれだけの信頼をエスノアに寄せた。いや、元々その信頼を信頼たらしめるものはあったのだろう。

 エスノアは最初ファネのことを警戒していた。それをファネも感じ取って若干の距離があった。それでも、最後にはちゃんと受けいれて普通通りの対応をしたのだ。エスノアのそれはハクに影響されたものではあったけれど、今までファネが出会ってきた人たちとの違いはそこに尽きる。


 ハクは吸血鬼だからと言って特に偏見など抱えないが、ファネがそのことで少しコンプレックスを抱えていたのになんとなく気が付いていた。いつかきちんと話さねばと思いつつ、しかし糸口が見つからない。そんな日々であった。

 だが、糸口など、解決など必要なかった。ファネは確かにコンプレックスを抱えていたが、こうして受け入れてくれる人が傍にいるのだ。今更考えることなど、今のファネにはないのだ。


「ごめん、エスノアの妹が……」

「……ううん、いいの。それになんだか、懐かしいな」


 シウィンはエスノアことを姉様と呼んでいたが、もうエスノアのことを姉と呼んでくれる人はいない。


「嫌じゃなかったら、そう呼んでくれてもいいんだよ」


 妹のことを追想しながら、エスノアはファネに笑いかけた。シウィンの代わりをさせようとしているわけではない。ただ、ファネがそれでエスノアのことをもっと身近に感じてくれるようになれば、エスノアも嬉しいのだ。


「じゃあ……お父様がお父様だから、エスノアは……エスノアお姉様」

「えへへ、ファネちゃんともっと仲良くなれたら嬉しいな」


 大体の怪我を治療し終え、エスノアの魔力も残り少なくなってエスノアは魔法を中断した。そこでファネはエスノアにさらなる提案をした。


「じゃあ、お姉様もファネのことを呼び捨てで呼んで」

「え、ええ?えっと、それは……」

「だめ……?」


 上目遣いでエスノアを見上げるファネ。エスノアは流石に一歩後ずさる。

 言うまでもない話だが、エスノアは妹に対してとても弱い。シウィンに対しても弱いのだが、姉のように慕ってくれるファネにも同様にエスノアは弱くなっていた。エスノアはシウィンのことを呼び捨てにしていたのだ。ならば、姉と呼んでいいとエスノアから言った手前その提案を断るのは距離を作ることを意味する。


 エスノアは数秒考えたのち、諦めることにした。いや、受け入れることにした。なんとなく、シウィンに申し訳なく思いながら、エスノアはファネの頭を優しく撫でながら、呼ぶ。


「ファネ」

「んー」


 なんともまあ仲の良い光景だと、ハクは火を止めながら思った。ハクは二人のことを心配していたわけではないのが、こうして今まで以上に仲良くなった姿を見ると胸が熱くなるのを感じる。


 ハクは近くから、「浮気者……」と嫉妬と、仕方ないなぁという感情を乗せた言葉が聞こえた気がした。

 これが君の好きなお姉さんだろう?と、ハクは口に出さず返事をした。

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