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狐、生きる  作者: nite
狐、渡る

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洞窟の中に

 ギルドの人々にバレないように、ハクたちは夜中に街を出た。夜のように人通りが減る時間帯は吸血鬼の狩りの時間になり、門番なんてしていてもただの餌にしかならない。

 夜の間は門番も家に帰り、しっかり戸締りをしている。そのため、ハクたちは無駄に壁を飛びこえずとも街を出ることができたのであった。


「しかし、門番がいないのはいいのか?」

「完全な戸締りをしていれば家に来た吸血鬼が無理に開ける音で誰かが気が付くうえ、門を無法者が通ろうとしても吸血鬼の餌になるので問題ない、みたいです」


 皮肉にも、深夜の時間帯は吸血鬼という脅威のおかげで街は守られている。そもそも、こんな何もない街に来るような無法者もそういないが。


 ハクたちは街を出ると、ファネの先導で林の中を進んでいた。なんとなく、血の匂いが向こうかしているとファネは呟く。ファネの血に対する嗅覚は王都の地下でも発揮されていたので、今回も必ず何かあるだろう。

 しばらく歩けば林の草は短くなり、代わりに木々が立ち込める。たまに出てくる魔物を撃退しつつ歩けば、森の中心近くでファネは足を止めた。

 目的地付近に着いたら隠れ家になりそうなところをファネが探す。それは吸血鬼的思考で見つけられるようなものであり、実際、ハクたちには全然分からなかったがファネは数十秒で森の中に下に繋がる洞穴の入り口を見つけた。


「ここに至るまでの間に、多くの冒険者が犠牲になったんだろうが……」

「吸血鬼が味方にいるなんてありえない出来事なので仕方ないですね」


 襲い方を知らず、血の吸い方も知らなかったファネだからこそ、こうして二人と出会い味方として行動している。本来であればファネは強大な吸血鬼として人間を襲い名を馳せていたことだろう。

 ハクたちはファネが見た目相応の幼い少女でよかったとしみじみと思いながら、洞穴の奥へと進む。


 洞穴は天然ものと言える洞窟になっていた。光源などもなく、エスノアが照らさなければ数歩先すらも見えないほどに暗い。

 吸血鬼は夜目が効くので問題ないのだろうが、冒険者からすれば厄介な洞窟であろう。なんせ、隠密に進もうとしても、光を灯した時点で吸血鬼にバレてしまうのだから。

 今回はファネとターゲットの吸血鬼が接触することが目的だ。わざわざこそこそする必要はないし、それで相手の警戒度を無暗に上げてしまっては元も子もない。可能であれば、会話だけしてそのまま撤退できればいいのだが……そんなうまい話はないだろうなと、ハクはなんとなく感じていた。


 何度か道は曲がるけれど、分岐のようなものはなく一本道で奥まで進んでしまった。たまに埋められたような跡が壁にあったので、吸血鬼が住みやすいために埋めたか、冒険者が後のために埋めたかしたのだろう。

 そうして奥までやってくると、そこもまた暗い空間であった。その広い空間に、明らかに異質な何かがいるのをハクとエスノアは肌で感じていた。圧倒的に強い存在の気配が、ハクの野生を刺激する。即ち、ここから逃げろと。


「ほうほう、同族だとは思ったが…小童か」

「あなたがここの吸血鬼?」

「そうだ小娘。俺がこの地を統べる吸血鬼だ!」


 ファネは恐れなく近づき、それに話しかける。エスノアが恐る恐る光の光度を上げれば、そこには黒い服に黒いズボンを履き、そして大きな翼を生やした青年がいた。尚、よく想像されるようなマントの類は身に着けていない。

 羽さえなければ、現代の大学生ともいえるような恰好をしている吸血鬼だが、その身から感じる威圧感と魔力がその存在感を示している。


 ファネを見た吸血鬼の視線が、ハクとエスノアに向く。それだけで、二人はまるで狩られる前の小動物の気分を味わうこととなった。


「して、そこの人間と獣人は何用かな?」


 ファネを無視して襲われる……そんな最悪な展開にならなかったことに、少しだけ安心するハク。吸血鬼は視線はこちらに向いているけれど、興味はずっとファネに注がれていることにハクは気が付いていた。


「ファネの、付き添いだ」

「……」


 エスノアはハクの言葉に頷くのみ。言葉を発することはできそうにない。

 吸血鬼はファネに視線を戻す。値踏みをするような視線にファネは体を硬直させるが、それがファネの姿勢を見ているのだと気がつくと、むしろ自然体に立つようになった。


「それで……小娘と付き添いが何のために来た。よもや討伐か?」

「ううん。聞きたいことがあって」

「言え」

「私のお父様を探してるの」


 ファネは振り絞るように言った。吸血鬼のプレッシャーに、さすがのファネも少し緊張している。


「小娘、名を名乗れ」

「ペリグラム・ヴァナ・ファネル」

「ほう、ペリグラムとな……」


 久しぶりに本名を聞いたな、とハクは思った。本人がファネと呼んでほしいというのでそう呼ぶが、呼ぶのであればファネルの方が正しいはずだ。

 ファネのフルネームを聞いた吸血鬼は手で顎を擦る。その仕草は、まるで心当たりがあるかのようだ。


 数秒の沈黙。耐えかねたファネが何かを言おうとした瞬間、吸血鬼は語りだした。


「ペリグラムとは、これはまた高貴な血筋がなぜここに?」

「高貴?」

「ほう?貴様、まさか自分の血筋も理解していないのか?」


 吸血鬼はにやりと笑みを浮かべるが、ファネは理解できていないようだ。ファネは高貴らしいが、何が高貴なのかはハクたちには分からない。

 ファネはこの吸血鬼が何かを知っていると確信して、質問を続ける。


「私、お父様に何も教わらずに育ったの。何か知ってるの?」

「ああ勿論だとも。ペリグラムほど有用で、強大な血はないだろう」


 そうして吸血鬼は語りだした。それは、ファネの出自、そしてその親……よりも昔に生きた吸血鬼の話だ。

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