新たなる戦い方
ドラブを抜けて、一行は次の街へと向かっていた。
ハクに買ってもらった……いや、作ってもらった新しい装備を背負って、ファネは上機嫌である。
ファネの望みを叶えるために、ハクはドラブにて数キロ分の金属を手に入れた。ハクには何の金属かわからない代物ではあったが、あまりに頑丈すぎて加工が難しいと安く売られていた金属である。魔力が流れていないことを確認したのち、ハクは変化魔法でその金属を加工してしまったのだ。
巷の鍛冶師が見れば発狂ものかもしれないそれをさりげなく終わらせ、ハクはファネへのプレゼントとして渡した。
ドラブを出てからずっと上機嫌なファネは、ちょうど一行の前に現れた魔物を見るや、ハクとエスノアを制止してまで前に出て、ハクから貰ったそれを構える。
魔物は大きなモグラのような見た目をしたもの。その巨大な腕が振り上げられ、並みの冒険者ですら耐えられない攻撃を、ファネは吸血鬼の腕力を持って……弾く。
「バッシュ!からの~ていっ!」
ファネが欲しいと言ったそれは、大きい盾であった。
ハクたちのパーティに前衛と呼ばれる立ち位置の人はいない。全員が全員魔法を武器として戦っているからだ。ハクだけは少々例外であったが、それでも最前線で戦うような動きではない。
そんなパーティの欠点を補うためにファネが考えたのが、〈最前線で敵の攻撃を受けつつゼロ距離で凝魔術を使う〉ことであった。
「ふふーん、お父様、どう?どう?」
「ああ、驚いてるよ。凄い戦い方だね」
今も、モグラの魔物はファネの一撃で吹き飛ばしており、この会話も既に三度目となっていた。
ファネたち吸血鬼の使う凝魔術は、魔力や血を凝固させて物体とする技術である。しかし、その凝固は永久的なものではなく、その手を離れた瞬間から少しずつ凝固は解けるのだ。
そのため、ゼロ距離で使う、もしくは凝魔術で殴ることが最もダメージを与える方法となる。吸血鬼にはなんだかんだ弱点も多いので、普通ならしない戦法だ。
「使い勝手がいい技術だね」
「うん!衝撃には弱いから、これがないと危ないけどね」
愛おしそうに盾を撫でるファネ。
ハクの変化魔法も、そこまで衝撃に強いわけではない。少しでも破損してしまうと、その変化が解けてしまうのだ。だが、耐久性が元の素材に依存する変化魔法において、鍛冶師ですら加工が難しい金属を用いた盾ともなると、ちょっとやそっとじゃ損傷しない。
ファネがパーティのことを思って自分で考え出した、吸血鬼の中で初めての戦術であった。
「ファネ、この盾大事にするね」
「ああ。もし何かあって変化が解けてしまったときは見せてくれたらかけなおすからね」
「ありがとう、お父様!」
ドラブを出てからずっとこの調子なのである。少しばかり、テンションが高すぎるように思えるが……ハクはそこに水を差すことはない。むしろ、しばらくはこのテンションであってほしいと願っている。
次の目的地は、王都の情報屋にて知ったエルトロールという街だ。例の、吸血鬼による脅威にさらされている街である。
普段は農業都市ということもあって温厚なエルトロールであるが、ある時現れた吸血鬼によってその平和は打ち砕かれた。農業というのはその広さもあって単独行動をすることも多い。そこを吸血鬼は狙ったのである。
最近は複数人で固まって農業をするように指示が出たものの、ただの農民では何人固まったところで吸血鬼を防ぐことなどできないので、未だに被害は拡大し続けている。
「アルクリア王国の食料の多くがここで生産されているので、そう易々と逃げることができないのが問題ですね……」
「討伐なんて高尚なことを考えるわけじゃないけど、ファネの知り合いだとありがたいな」
ファネに聞こえない大きさで次の街について話し合う二人。
ファネ曰く、吸血鬼の集落があるらしいので、もしその吸血鬼が集落出身であればファネの知り合いである可能性が高い。可能なら、ファネの実親の話も聞きたいところである。
だが、人々を襲っている吸血鬼だ。話にならない可能性も高い。ファネの知り合いであっても、反撃しないといけない場面も出てくるかもしれない。その時、可能な限りファネを傷つけないようにしたい、というのがハクとエスノアの思いであった。
「どうしたの?お父様、エスノア」
「なんでもない」
「気にしなくていいよ」
「んー?」
ふと振り返ったファネであったが、軽くはぐらかす二人にファネは首を傾げている。
その様子がなんとも見た目相応の可愛さだったので、エスノアは思わず笑ってしまった。
………
ファネにとって吸血鬼の同族というのは、そこまで重要な存在ではない。確かに集落はあったけれど、それでも助け合って生きるというよりも、固まっていた方が楽だからといった適当な理由だったように思う。
英雄墓地にて見た名前も、なんとなく知っている人と言った感じで、討伐されていたと知っても特に感傷などなかった。きっと、感傷に浸れるような名前は、ファネの実父の名前だけだろう。
正直な話、ファネにはちょっとハクたちのことが理解できていなかった。なぜ吸血鬼というだけで、ファネのことを心配するのだろうと。ハクたちははぐらかしていたが、ファネだってもう百年以上生きているので、それくらいのことなら分かると内心思っていた。
今のファネにとって、一番大事なのはパーティの二人である。実父ですら、ハクよりも優先度が低くなっている。それは、実父から貰えなかった色々をハクたちから貰っているのが理由だ。
ファネは精神的に幼いながらも、聡い。父親が突然消えてしまった理由はよく分からないけれど、なんとなく捨てられただけなんだろうなと感じていた。それでもまだ父親に甘えたいし、吸血の方法を教えてもらっていなかったので探していたけれど……今は、ハクたちがいるから満ち足りていた。
ハクたちがいなければ、きっとファネは苦し紛れに冒険者を襲うようになっていたであろう。ハクたちの雰囲気を見て、もしかしたら話ができるかもと近づいたのは、ファネにとって最後の挑戦だったのだ。
「ファネはお父様が大好きだもんね」
種族の問題で、ハクとエスノアが眠ってもまだ目が冴えている野営の中。
ハクが変化魔法で作り出したテントの中で、ファネは貰った盾を撫でる。せいぜい食料くらいしかくれなかった実父から貰えなかった、形の残るプレゼント。
「お父様を攻撃するなら、ファネがやっつけちゃうんだから」
誰も聞いていない独り言は、闇夜の静寂に消えていった。




