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狐、生きる  作者: nite
狐、渡る

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鉱山の街

 ハクたちが目指しているドラブという国は、簡単に言えば鉱山都市である。

 街の近くに純度の高い鉱石が採れる鉱山がいくつもあり、それにより発展してきた国なのである。一時期は鉱物の不足などが問題として叫ばれていたものの、今は魔法による鉱物成長により、必要なだけ採取することができ、鉱物不足は消えてなくなった。


「それを使えばいつでも鉱物が手に入るんじゃないのか」

「いわゆる、加速魔法なんですよ。普通は何百年もかけて作られる鉱物を加速させて生成しているんです。元々鉱山として活用されているような場所でもないと効果がないんです」


 エスノアからドラブの情報を聞いていたハクは、ふむふむと頷く。


 パーティーメンバーが五人まで増えたハクたちの道中はとても平和で健全なものであった。魔物やモンスターが現れても、五人もいれば楽々に勝つことができる。危なげなくドラブへの道を歩んでいた。


「鉱山都市だから、工業が盛んだ。俺も、そこで新しく武器を買う予定なんだよ」

「確かに、その大剣は随分と使い込まれているように見える」

「買うのはナイフだけどな。この大剣は、俺の相棒だ」

「おっと、それは失礼」


 スフィンの背中には、刃こぼれも目立つ大剣が背負われていた。これは、獣人の村を出た当時から使い続けているもので、今でも戦闘にはこれをメインで使っている。

 スフィン曰く、大剣だから多少刃が潰れていても問題ないとのこと。ハクとしても、この大きな質量で殴られることを考えれば、十分な凶器であると感じていた。


 対して、ハクたちのパーティには武器を使っている者はいない。エスノアは魔法、ファネは凝魔術、ハクは変化魔法と、武器を利用するものがいないのだ。それゆえに、ハクたちはドラブに大した用事はない。


「ただ、王都じゃまともな準備ができなかったからね。ドラブで準備をしなければいけない」

「ばたばただったもんねー」


 そう、ハクたちは状況が状況だっただけに、王都の買い物をほとんどできていないのだ。精々、今までよりもおしゃれになったエスノアとファネがいるだけで、冒険の準備は全くできていない。

 やはり料理には調味料だと考えるハクは、それだけでも用意したいと考えていた。逃亡に邪魔になると考え、元々持っていた荷物のほとんどはあのボロ屋に置いてきたのである。


 再三いうが、ハクたちの荷物は限りなく少ない。変化でいくらでも小さくできるので、リュックサック程度の大きさのバッグがあればそれだけで事足りるのだ。

 それでも荷物を置いていかざるを得なかったのは、それだけ切羽詰まっていた証明であろう。可能な限り不安要素を取り除きたかったのだ。


「まあ自給自足なら慣れてるから安心してくれ」

「私たちも慣れてるよ!」

「村じゃ狩猟が基本だったからな」


 獣人は強かだ。獣人が生まれた経緯が完全に解明されているわけではないものの、動物をルーツに持つことは確実。弱肉強食の世界を生き抜いてきた動物たちが人になって、多少は牙が抜けたかと思えばそうではない。いつだって、生き抜くための覚悟があるのだ。

 犬や猫の獣人はまだマシだ。一部、仲間意識の低い獣人は、時にパーティーメンバーですら食らって生き抜こうとするのだ。背を預けて戦う仲間すらも襲うその覚悟や、想像を絶するものがある。


「獣人って怖いねー」


 ファネが素直な感想を口にする。それを聞いて、なんとなくハクが思った疑問をファネに小声で尋ねた。


「吸血鬼は仲間内で血を吸うとかはないのかい?」

「吸血鬼の血ってね、とってもまずいんだよねー」


 ファネの主観で例えるならば、具材を適当に放り込んで煮詰めただけの鍋である。色んな人の血を吸っているので、当然といえば当然の表現だろう。

 そのため、吸血鬼が吸血鬼の血を飲むことはない。そもそも、普通の食事でも腹は満たせるので、無理に血を吸う必要はないのだ。


「ちっちゃいころに少しだけ飲んで、まずいって知るのは経験だよ」


 達観したような感想を口にするファネ。こういう部分で、ハクたちの何倍も生きている子なのだと思い知らされる。


 小声をやめて、ファネが宣言をした。


「子供の頃の経験は大切なの!」


 ハクは、ファネが精神的に幼い理由が未だに分からない。ここまで、自分の年齢を意識し、経験を積み重ねてきているというのに、子供のような面がある。

 なぜそんな歪な状況になっているのだろう、と考えていたら。その宣言を聞いていたスフィンがふと疑問を口にした。


「ん?待て、ファネって何歳なんだ?」

「ファネは百二十歳だよ?」

「ぬわっ!?」


 ファネの年齢を聞いて戦慄するスフィンを後目に、エスノアが前方を指す。森の奥から光が差し込んでおり、森の中を歩いていた一行が、とうとう森を抜ける。


「そろそろドラブに着くはずです」

「おや、意外と近いんだね」

「あまり意識していないかもしれませんが、ハクさんは相当な距離を走ったんですよ?」


 背中に四人も乗せたハクではあったが、その速度と時間は尋常ではなかった。軽自動車程度の速度で一晩走り続ければ、街の間のほとんどを移動してしまうのでも容易なのであった。

 ハクの背中で、その身体能力にエスノアとスフィンは身震いした。


「あ、見えましたよ」


 森を抜けたら、そこにあったのは荒野とも言えるような平原であった。足元の草は焦げたような色をしており、木もほとんど見えない。その代わり目立つのは岩、岩、岩。

 いかにもな岩が大量に地面に鎮座していた。表面は妙に光を反射しており、よく見るような岩ではないらしい。


 ハクが触ってみると、表面はスベスベしており、まるで既に加工されたかのような肌触りだ。


「これは一種の金属らしいです。ただ、とても固くまともに採掘できないとか」

「魔力が籠っているね。私の変化魔法でも採掘できそうにない」


 その岩は、不思議なことに岩の中で魔力が循環しており、ハクの魔力を受け付けない。一度変化させることができれば岩を地面から引っこ抜いて持ち運べるのに、とハクは思いながら変化魔法を諦めた。

 鉱山の街を謳っているドラブが近くにあるというのに放置されているということは、今までもたくさんの人が挑戦し、敗北をした金属なのだろう。少なくとも、この世界に生まれて数か月のハクが挑戦するには高い壁だったようだ。


 大小様々……しかし、そのどれもが利用できない岩の中を進む。困ったことに、ここで出現する魔物やモンスターは信じられないほどに硬いのだ。ゴーレムの頭を吹き飛ばしたファネの凝魔術にすら耐えてしまうようなのがゴロゴロいるので、ハクたちは速足でさっさと街に行くことにした。


「あれが門ですね」

「私たちが捕まらなきゃいいが」

「少なくとも、まだ伝令は届いていないはずです。それに、私たちのことをあまり広めたくもないかと」


 ハクたちは、今でこそ事実となっているが、元々はいわれのない騎士への暴行が罪状となっていた。今ではどうなっているか分からないが、本来の罪状は地下通路への侵入。

 地下通路は王都も隠し通したいものだろうし、ハクたちを殺そうとしたのを口封じだと考えれば、王都側も強気なことはできない、とエスノアは結論づけた。


「とりあえず入っちまおう」


 スフィンが先行して門に近づく。

 門は王都のそれよりも頑丈なのではないかと思えるほど厚く、光沢があった。どうやら、門と外壁の素材に金属を使っているようだ。ちょっとやそっとじゃ破壊されない重厚感がある。

 王都とは壁の大きさも規模も違うものの、堅牢さで言えば今まで一番だとハクは感じた。今のハクたちのパーティにこの壁に傷をつけられる者はいない。


「私たちも行こう」


 ハクたちは意外と言えば意外、当然と言えば当然に門を通過できた。元々怪しいものなど何も持っていないし、手荷物検査されたところで困るものも持っていない。何事もなく街の中に入れれば、あとは気を緩めるだけであった。


 そうして大きく深呼吸をしたあと、スフィンがハクの方へと振り返った。


「ふぅ……よし、ハク、ここで別れだ」

「ふむ。まあ私たちもしばらくはここにいるとは思うが、またどこかで会おう」

「ハク、ばいばーい!」


 スフィンの近くで、プイが大きく手を振った。寂しさとかはあまり感じられず、またすぐに会えるだろうというような軽い別れ。

 ハクは小さく手を振り返しながら、二人の後ろ姿を見送った。またどこかで会うこともあるだろう。


「さて、私たちも行こうか」


 三人はひとまず宿を探しに行動を開始した。

 鉱山に囲まれた街は、大きな金槌の音を響かせていた。

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