人間という種族、魔物という分類
ゴーレムは、見る限り高さが五メートルはあった。その存在感と威圧感は、しかし、森の中で過ごしてきた白狐にとって脅威はない。
ゴーレムが、その図体に見合わない素早さを見せても、白狐は驚くことなく回避行動がとれた。
「キュウン!」
氷柱をゴーレムの目のような部分に打ち出す。ゴーレムはすかさず腕で氷柱を受け止めた。
効いている様子はないが、目を守ったのだ。ならば、目が弱点という多くの生物共通の事項が、このゴーレムにも適用されるということ。白狐は、そこに勝機を見出した。
「『凍れ大地よ!』」
犬耳少女が叫ぶ。少女を中心として、広範囲の地面が氷に覆われた。
ゴーレムの足は、見る限り石のよう。氷によって足を滑らせて、先ほどの素早さを発揮することができない。対して白狐は、まるでホームグラウンドのように足と地面が馴染むのを感じた。
白狐は氷を蹴り、ゴーレムに飛び掛かる。牙に氷を纏い、目を狙ってゴーレムの右腕も使って顔に接近する。
ゴーレムは先ほどと同じようにガードしようとするが、その左腕を、犬耳少女の隣に立っていた猫耳少年が剣で攻撃する。その剣には雷が宿っており、ゴーレムの腕を攻撃した瞬間にゴーレムの腕は一瞬動かなくなる。
その隙を逃す白狐ではない。ゴーレムの右目に肉薄し、獣のごとく嚙み潰す。
ゴーレムに声をあげる機構はないのか、唸り声や叫び声をあげることはなかったが、痛覚のようなものは存在しているのか、目を庇うように抑え地面に倒れこんだ。
一度倒れこめば、氷に覆われているここで立ち上がるのは至難の業だ。
「よし!プイ、今だ!」
「狐さん、離れて!」
犬耳少女に周囲に、魔方陣が出現。先ほどの、地面を氷にした魔法とは明らかに気配が違う。
なぜか言葉を理解することができた白狐は、ゴーレムから離れた。白狐にはなんとなくの勘で、何が起こるのかを理解する。これから、死が吹き荒れる。
「『裂断せよ、光の刃を持って』『荒れろ、嵐!』」
ゴーレムの周囲が、光で包まれる。眩しくて、目のよい白狐は直視することができない。
そうして光が収まったとき、そこには砕け散ったゴーレムの残骸があった。動き出す様子はなく、既に絶命しているのだと分かる。それを見て、白狐は緊張を解いた。解けた。
「よしっ!流石だプイ!」
「えへへ。でも、狐さんに助けてもらったから……」
犬耳少女が白狐を見ると、そこには氷の大地に倒れる白狐の姿。
ほとんど何も飲まず食わずで二日、眠ることなく森を走った。そこに、ゴーレムとの戦闘。既に、白狐の気力は尽き果てていた。
戦闘終了で気が緩み、今までに蓄積されていた疲労が、一気に白狐に襲い掛かったのだ。多大なる睡魔により、白狐は抗うこともできずに倒れたのである。
「スフィン!狐さん運ぶよ、手伝って!」
「おう!」
犬耳少女が魔法で浮かし、犬耳少年が担いで運ぶ。向かう先は、近くの村。
彼らと同じように、獣耳が生えている、獣人の村である。