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狐、生きる  作者: nite
狐、背負う

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42/105

王都クレニア

 旅の一行は森を抜け、ついに大きな市壁を望むところまできた。市壁の向こうには大きな城が見えていて、ここが王国の中心であることが嫌でもわかるような雰囲気だ。

 前の街も堅牢な壁だったが、そこと比ではないレベルで巨大で頑丈な壁が聳え立ち、あだなす者を許さないという絶対的な意思を感じてしまう。


「ファネ、前も言ったが、その翼はしっかり隠しておくように」

「はい、お父様」


 王都を前に緊張しているのか、それとも恐れているのか。ファネはいつもよりも静かで、はしゃぐ様子はない。

 三人は門番のところまで行き、一人一人持ち物チェックをされる。羽を隠しているのは布切れ一枚だったので、翼のところまではチェックされなかったのが幸いだ。


 なんとか三人ともに、無事王都の中に入ることができたのだ。


「はぁ……緊張したよー」

「ファネ、お疲れ様」

「意外と王都の守衛さんは見ないんですかね」


 ハクもエスノアも、冒険者という恰好だったからかそこまで深入りされずに持ち物検査を終了した。ギルドカードを持っていたのも理由かもしれないが、持っていないファネもそこまで綿密な調査はされなかった。

 王都に入ろうとする人々は数えられるようなものではない。冒険者や商人だけではなく、地方の役人なども来るのだ。一人一人に時間をかけていてはいつまで経っても終わりがない。


 それに、守衛たちは自信があるのである。騒ぎが起きても、一瞬で鎮圧することができるという自信が。その過程で犠牲が出たのなら……それも仕方ないと諦める人々である。

 魔物やモンスターが跋扈しているこの世界では、人の命が軽い。


「ひとまずギルドだ。換金をしたのち、宿をとろう」

「わーい」


 人間、狐、吸血鬼という異色のパーティは、特に怪しまれることもなく、換金所にたどり着いた。ファネはフードをかぶっているものの、こういう如何にもなパーティというのは案外珍しくない。

 ハクが魔石の詰まった袋を差し出すと、中身を確認して査定をしてくれる受付の男性。そうして示された金額は、しかし、前の街で提示された額よりもさらに厳しいものであった。


「さすがに冗談だろう?それなりに量があると自負してるんだが」

「悪いな狐。今の王都はこれが基準値だ」


 この値段ではそこまでの生活はできそうにない。特に、ファネも増えて生活費は今までよりも割り増しなのだ。そう易々とイエスとは言えない。


 だが、そうして渋っていたハクに、エスノアは小声で助言した。


「前は私も憤慨したものですが、どうやら最近はこれが普通のようです」

「そこまで立ち行かないのか?」

「物流が滞っているって言ったじゃないですか。その影響が出ているようですよ」


 魔石の買い取り価格というのは、地球でいうところの為替と同じだ。常日頃価格は変化し続けており、立地や時期、物流などによって変動する。

 物流とは魔石必要品なども含まれる。現在の王都では、魔石を消費する機会が減っているというのに物価が上昇するという非常に面倒なことになっているのだ。


 冒険者のように、魔石やモンスター素材を売ることによって生計を立てている人々にとっては、今のアルクリア王国は少々住みにくいと言えるだろう。


「仕方ない。取り合えずこれで工面しよう」

「あいよ」


 魔石を渡してガラを受け取る。日々お金を持ち歩かないハクたちであるから、なんとも頼りない量であると感じられた。


「これだとちょっとしか泊まれませんね」

「買いだす必要があるものもあるんだ。心もとない、というよりも足りないね」


 そうして二人が目を向けるのは、ギルドの中にある掲示板のようなもの。ファネも二人につられて目を向ける。


 ギルド掲示板は、創作物のように依頼が大量に貼られている、なんてことはない。専ら連絡事項とかその日の物価などが知らされている。

 しかし、依頼がないわけではないのだ。依頼を受けてくれる者が見つからず、だが緊急ではないような依頼がここに貼られている。それらはお金が足りない冒険者たちにとっては蜘蛛の糸のような存在で、ある程度まとまったお金が欲しいときにうってつけなのだ。


 因みに、緊急依頼はそのギルドに現在滞在していることが分かっている最高ランクの冒険者に直接連絡がいく。大抵の場合報奨金が凄いことになっているので、高ランクの冒険者の一つの資金源とも言われている。


「こういう依頼をやってみるのも、少し楽しみにしてたんだ」

「面倒な依頼が多いですよ。割がいい仕事はここに貼られませんから」

「それでもだよ。こういうところで依頼を吟味するというのも……心躍るというのが男というものだ」


 最も、それはハクが地球人であるという前提があるからだが。やりこむほどではないもののRPGに触れてきたハクからすると、冒険者らしい行動というのは少しワクワクするのである。


 そんなハクに少しの呆れと多大な自愛を込めた笑みを浮かべたエスノアは、何枚かの依頼を指さす。


「大体はこれのように、強いけど素材の利用価値がないモンスターの討伐依頼です。得られるお金が報奨金だけですので、不人気なんです」

「敵倒すだけだよ?」

「命を懸けるほどじゃないってことなんです」


 不思議そうに首を傾げるファネ。適当に敵を倒すだけでお金が貰えるなら圧倒的に楽だと思っている顔だ。

 実際、ちょっと強い程度ではファネの相手にはならない。伊達に戦い方を教えられたわけではないのである。そこまで教えられていて、なぜ吸血を知らないのか……


「あとはシンプルに生産職の人員募集か」

「素人でもできるような作業を代わってほしいという依頼ですね。ハクさんなら余裕なのでは?」

「強い衝撃で元の物質に戻ってしまうからな。私がやると詐欺になってしまうよ」


 ただただ手作業をするならそれでもいいのだが、と付け加える。


 あとは家の解体作業だとか、道の舗装だとか……新薬の被検体とか未知の魔道具の試験なんていう、見るからに危険そうなものもある。

 あとはギルドカードの適正を基にした限定依頼というものもある。掲示板に来るようなやつは相当割に合わないか、ギルドに使い手がいないかのどちらかだ。変化魔法の依頼はないかと目を凝らしたが、見つけることはできなかった。


 最終的に、倒すだけーとファネが気楽そうに言ったので、モンスターの討伐の依頼を受けることにした。依頼受領は、達成報告をしたときに同時に行われる。


 依頼を一通り確認したのち、いくつかに目星をつけてから宿をとった。三人一部屋の宿で、確かに今の所持金では精々二泊が限界だ。

 三人は頷きあってギルドに戻った。


……


 依頼内容のメモを手に持ち、門に向かって歩く三人。

 宿にも戻らずギルドから直接門に向かうハクにエスノアが声をかける。


「すぐに行くんですね」

「まだ時間はあるんだ。ファネが元気なうちに済ませてしまおう」


 吸血鬼というと夜間に活動するというイメージが強いが、ファネは普通に朝に起きて夜に寝る生活をしている。というか、ファネ曰く大半の吸血鬼はそう生活しているらしい。

 ハクが理由を聞くと、むしろファネは不思議そうに「誰も出歩いていないのに?」と言った。一応冒険者の寝込みを襲う人もいるらしいけれど、安全な場所に隠れているやつを探し出すよりも昼間に歩いている生き物を襲う方が楽なのだという。


 閑話休題


 ファネが眠くなる前にできることはしてしまおうという魂胆だ。ファネも強い種族なので、無理をしても疲れることは中々ないけれど、どうにもまだ夜になると自動的に眠くなってしまうようだ。

 それを見てエスノアはまるで赤子のようだと母性を刺激されている。


 街を出て目的地に行くまでの間に、依頼内容を再確認する。


「洞窟の奥に住むゴーレム。危険度は高くないけれど、邪魔だから破壊してほしい……ゴーレムって魔物じゃないのか?」

「魔物のゴーレムとモンスターのゴーレムがいるんです。モンスターのゴーレムは大体過去の魔法使いの遺物ですね」


 今回は、ファネセレクションでゴーレム討伐になった。どうやらファネはゴーレム討伐に対して自信があるらしく、意気揚々と選んでいた。


 洞窟に行くまでの間に出てきた野生の動物などはエスノアが撃退しつつ、洞窟の中に入る。どうやら人工的な手が加えられているらしく、壁には定期的に松明が置かれていて明るくなっている。


「ここまでお膳立てされているのに、なぜ今まで依頼をこなす人がいなかったのだろう」

「多分報奨金が少ないからじゃないですか?ゴーレムって相当な物理力でどうにかしないと倒せませんし」


 ゴーレムの姿は個体差があるものの、総じてとても高い防御力を誇っている。魔法は弾いてしまうので物理で殴るしかないのだが、その物理に対しても高い防御力があるのだ。そんじゃそこらの兵士ではダメージを与えることすらできない。


 ファネはどうするつもりなのだろうと思いながら、三人は洞窟の最奥まで辿り着いた。少し広くなっている空間には、通路と同じく松明が掲げられており明るくなっている。

 そんな広間の中央あたりにある大きな岩。魔力を放つ岩にしか見えないそれは、休眠状態のゴーレムであった。ここで何をするのかをハクは知らないが、確かにあんなところにあれば邪魔であろう。


「お父様、あれを起こせる?」


 いつの間にかファネの手元には例の赤い弓があった。既に矢も番えており、いつでも撃てる状態だ。

 あれ、というとゴーレムだろう。ゴーレムを起こすくらいならば近づいて殴れば起きるはずだが……と考えて、ファネは自信があるみたいだし任せてみるかとハクは思った。

 エスノアは若干心配そうな表情をしているけれど、最悪氷の魔法でゴーレムを動けなくして逃げればいいだろう。


「じゃあ起こしてくるよ」


 ハクは岩に擬態するように寝ているゴーレムに近づいて、変化で作った棒で強めに叩いた。

 それだけでゴーレムには十分だったらしく、もぞもぞと動いたあと、少しずつ頭、腕、足が見えてきて、十秒もすればゴーレムは完全に立ち上がった。


 ゴーレムは近くにいたハクを見ると、即座に敵と認めたようで、その岩でできたゴツゴツとした腕を伸ばす。掴まれてしまえば、ハクとて無事では済まない。

 だが、ハクのところに腕が届く前に、ゴーレムの顔面にピンポイントで矢が突き刺さった。それは頭部の一部を吹き飛ばして、矢は壁まで貫通していく。


 ゴーレムが顔を上げる前に、さらに矢が到来。それらはゴーレムの頭部を吹き飛ばしていく。


「お父様、下がって!」


 ファネが叫ぶと、ハクは即座に後退。すると、ゴーレムの体に矢が突き刺さっていく。流石に吹き飛ばすことはできないようだが、それでもゴーレムの体は少しずつ削られていく。


 その光景を見て、ハクは少々恐怖を抱いていた。

 ゴーレムの防御力は先ほど言った通り、魔法を弾き物理から身を守る強さを持っている。ファネの弓は魔力を固めているらしいので、ちょうど半々くらいの性質を持っているだろう。

 もしかしたら半々の性質に弱いのかもしれないけれど、ハクが全力で殴っても傷がつかないゴーレムが目の前で崩壊していく様を見るというのは……ファネを怒らせないようにしようとハクは思った。


 そもそも、ゴーレムからファネまで大体二十メートルほどの距離があるのだ。魔法の補助があるのかもしれないけれど、この距離で正確にゴーレムの体を貫くコントロール。ファネは弓の天才なのかもしれない。


「おしまい」


 いつしかゴーレムは完全に動きを停止し、ただの岩へとなり果てた。今回、ハクとエスノアは何もしていない。

 ファネがゴーレム討伐に自信があった理由もわかるというものだ。これだけ圧倒的ならば、そうそうゴーレムには負けないだろう。


「お父様、どう?」

「いや……凄まじいな、ファネは」

「えへへ」


 ファネの頭を撫でながら素直に絶賛するハク。


 ゴーレムには核がある。それは一度機能停止してしまうと何に使うこともできないものだが、ゴーレム討伐の証にはなる。ゴーレムを構成していた岩はただの岩であることから、ゴーレムが倒しても何の益もないモンスターであることがわかるだろう。


 ハクがゴーレムの核を拾って袋に入れる。ひとまず、依頼はこれで完了だ。


「さっさと戻ろう。きっともう夕方だ」


 そうして三人は王都へと戻った。王都初日は、なんとも慌ただしい感じで過ごされたのだった。

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