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狐、生きる  作者: nite
狐、背負う

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41/105

各々の弱点

 ファネを仲間に迎え入れて、再度王都に向けて移動を開始。

 

 吸血鬼が食べちゃだめなものとかあるのか聞いたら、特に何もないとのことなので、旅路はそこまで苦労はないだろう。食料は今まで通り道中狩りをする予定だ。

 仲間が増えただけで特に旅も変わらない……のだけど、一番変わったのはファネのハクへの呼び方だ。


「お父様の苦手な食べ物はなに?」

「私は大概どれもおいしく食べるよ。昔は無理だったが、虫とか生肉にも慣れてしまった」


 ファネがハクのことをお父様と呼ぶようになったのである。


 最初はハクも訂正を求めた。精神年齢的には父かもしれないけれど、この世界でそう呼ばれるのは違和感でしかないからだ。しかしファネが、


「責任を負うって言ったじゃん」


 と拗ねるように言うので、ハクも強くは言えなかった。結局、色々と話し合いをしたうえで、この呼び方に落ち着いたのである。

 見るからに獣人ではない子が、獣人すらない狐を父と慕うのは少し奇妙にも映るものの、それはある意味ではファネが吸血鬼であることを隠すための隠れ蓑にもなりえると判断したのだ。


「エスノアは?」

「苦いものでしょうか。でも、出されたら食べなきゃいけない生活でしたので、ほとんどのものは食べますよ」

「大人だー。私は辛いのが苦手ー」


 雑談をしながら王都を目指す。今回はきちんと地図を用意している一行は、特に迷うこともなく旅路を進む。このペースであれば数日以内に王都に到達するだろう。


「ならお父様が苦手なものってなに?」

「ふむ、弱点というなら魔法使いだろうか。エスノアと戦っても勝てる気がしないよ」

「私はむしろハクさんのように何をしてくるかわからない人が苦手です」


 自らの弱点を曝け出す行為というのは、仲間うちであっても危険といえるだろう。もし裏切りなどがあれば、その弱点を確実に突かれることになるだろうから、命の危機にもなりうるのだ。

 それをあっけらかんと話すというのは、それだけ相手のことを信頼しているという証明に他ならない。


 出会ったばかりの子供だというのに、ハクがここまで信頼を置いているように見せるのは、ファネにも信頼してもらいたいからだ。

 信頼というのは、相互に兼ね備えて初めて機能し、そうでなければただの一方的な搾取にもなりかねない。今回の場合で幸運だったのが、ファネもハクもエスノアも、相手を騙そうだなんてナノレベルでも思っていないことだろう。


「ファネはねー、泳ぐこと!」

「ふむ、流水が苦手だと?」

「島で泳ぐことがなかったから、泳ぎ方を知らないんだ」


 そうして歩いていると、ハクの耳が森の奥から足音が近づいているのに気が付いた。

 数は一つ。しかし、その音はとても重々しく、最低でも熊くらいの大きさがあるだろうことが音だけで分かる。


「ファネ、少し下がってなさい」

「んー?」


 ファネを自らの後ろに下げつつ、ハクは森の奥を見た。それに倣ってエスノアも森の方に警戒を飛ばす。


 暗がりの中から現れたのは、まるで機械のような見た目をしている二足歩行の魔物。ブリキの人形のようなディティールと、テカテカと特有の光沢を放つ表面を持っている魔物は、ハクをしてこの世界とは不釣り合いだと思わせた。

 魔物がハクたちを認識すると同時に、その腕が伸びる。その動きは、さながらマジックハンドだ。


「おっと、機械っぽすぎないか」


 ハクは横に立っていた木を丸ごと変化させる。ハクとロボットの間を仕切るように壁を出現させて、マジックハンドの攻撃を防ぐ。

 その隙にエスノアが魔法を詠唱し、雷がロボットの頭に落ちる。だが、ロボットに効いている様子はなく、腕が弾かれると同時に次は体ごと突撃してきた。


 ハクが変化させた壁にぶつかったロボットは、しかし、その壁を破壊することはできなかった。木材とはいえ、森の木を変化させたものなのだ。頑丈さは折り紙付きである。


「この手のやつは魔法が効かないものだ。エスノア、何か物理的にダメージを与えることができるようなものは知らないかい」

「えっと……?じゃあ、高く飛ばして落としてみますか」


 ロボットは馬鹿正直に何度も何度も壁に突撃している。そこまで大きい壁ではないので、横から回り込むのは容易なはずだが、それをやらないのは単純なプログラムだからだろうか。

 その間に詠唱を終えたエスノアが放った魔法が、ロボットの足を地面から別離させる。壁のおかげで問題ないが、そうでなければハクとファネも吹き飛ばされてしまいそうな余波がロボットを中心に吹き荒れる。


 そのまま上空二十メートルほどまで吹き飛ばされたロボットは、何の抵抗もしないままに地面に落ちてきた。ガンッという強い音が森に鈍く響き渡る。


「さて……今ので腕が外れてしまったようだね。これ本当に魔物か?」


 壁を木に戻して確認するハク。後ろからひょっこりとファネも顔を出す。


 腕が外れてしまったというのに、痛がる様子もなく立ち上がるロボット。

 外れた腕はそのまま、魔物が死んだときのように消滅してしまったので、このロボットも魔物であることには違いない。しかし、ここまでオートマチックな魔物が存在するのかとハクは思わざるを得ない。


「お父様、ファネに任せて!」

「ん?」


 ハクが振り向く前に、鋭い矢のようなものがロボットに向かって飛んで行った。それはロボットの頭に深々と突き刺さり、一瞬ロボットの動きを止める。

 矢は深紅の色を持ち、ロボットに突き刺さると数秒後に消滅した。だが、矢継ぎ早に何本もロボットの頭へと飛んでいき、その顔を穴だらけにする。


 ハクがファネを見ると、ファネはこれまた深紅の弓を持っていて、どこからともなく取り出す矢を番え飛ばしていく。勿論、ファネは弓なんて持っていなかった。


「せいっ!」


 矢はロボットの体にも突き刺さり、見る見るうちにロボットの全身がボロボロになっていく。それでも動こうとする意志を感じられるのは、機械的なものだからか、それとも魔物だからか。

 だが、結局ロボットが動き出す前に、ダメ押しとばかりに放たれたエスノアの岩魔法がロボットの頭部を吹き飛ばす。その体の六割が吹き飛んだと思われるところで、ロボットはその動きを止め、数瞬後に魔石を残して消滅した。


「いえーい!」


 素手のファネが両手を挙げて喜ぶ。先ほどまで持っていた弓も矢もどこにも見られない。


 ハクが魔石を拾いながら、ファネに尋ねた。


「さっきのは?」

「弓矢のこと?あれは魔力を固める凝魔術だよー」


 ニコニコしながらそう説明するが、そんな言葉をハクは知らない。解説を求めるようにエスノアを見るが、エスノアも知らない言葉のようだった。


「吸血鬼はみんなその技を使うのか」

「使い方を知ってるのは少しだけ。お父様……吸血鬼のお父様が直々に教えた人しか知らないんだって」

 

 まるで凝魔術の始祖が、ファネの父親かのように語る。二人とも知らない言葉なので真偽のほどは不明だが……


「あれはどこでも使えるってことか」

「うん。ファネの魔力でやるから。本当は血を固めるんだってお父様が言ってたけど、血を吸ったことないからわかんなーい」


 無邪気にそう言うファネに、ハクは苦笑する。

 言わばハクの変化魔法の上位互換のようなものだ。どこまでのものを作れるかはもう少し情報を集めないといけないだろうが、何もなくても好きなものを作り出せるのは羨ましい限りである。


 一応エスノアが使い方を聞いてみたけれど、ファネは「魔力をぎゅぎゅってしてー」だなんて言うものだから、結局何も分からなかった。


「今までもそれで戦ってきたってことかな」

「そうだよ。剣とか針とか作れるから、それで、こう、ぐさって」


 まるで包丁を指すようなジェスチャーをするファネ。言葉足らずではあるものの、相手を攻撃することに何の躊躇いもない様子に、少し吸血鬼の片鱗が見える。


 ファネの魔力はエスノアのものよりも膨大だ。親の英才教育の賜物でもあるし、吸血鬼という種族が元来よりも魔力が多いというのもある。

 そんな彼女が無限に弓矢を作れるともなれば、それは脅威というほかないだろう。ハクのように一度飛ばしてしまえばもうどうしようもない変化魔法に比べれば、凝魔術がどれだけ脅威かわかるというもの。


 ニコニコと笑うファネに、少しばかり薄ら寒いものを感じてしまうエスノアであった。

凝魔術は凝魔・術という秘儀のようなものです。凝・魔術ではないので、魔法ではありません

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