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狐、生きる  作者: nite
狐、挑む

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変化応用

「私の名前はバンカ。好きに呼んでちょうだい」

「ふむ、バンカ、よろしく」


 タキシード衣裳から、ラフな服装に着替えた彼女は自己紹介をした。

 ここは酒屋。昼間から酒を注文する彼女を見て、ハクはなんともいえない感想を抱く。


「私はハク。ただの狐さ」


 運ばれてきた酒を傾け、一気に半分まで減らすバンカ。この世界で一気飲みがどう思われているのかハクは知らないけれど、こんな真昼間からこのように酒を飲む気にはなれない。

 注文するときも散々バンカにオススメされたが、そもそもそこまで酒が好きなわけではないハクは断固として拒否した。こういう場で酒を飲まないのはノリが悪いと昔は言われたが、この世界では特に何も言われなかった。


 おつまみとして茹でた豆が机に運ばれてきたところで、バンカが口を開いた。


「変化魔法の使い手に会ったのは初めてね。こういう使われ方、普通はしないから」

「私もだよ。変化屋という店に行ったことがあるけど、私が思っていたやつとは違ったからね」


 バンカは変化魔法を使うようになった経緯を教えてくれた。

 簡単に説明するならば、変化魔法の存在を知った時に、もっと色々できるだろうと考えて五年ほど修行した結果、今のように何でも変化させることができるようになったらしい。

 ハクが数日で習得したことを思うと、多分ハクが変なのだろう。もしくは、プイが魔法の師範として優秀すぎたか。


 次にプイに出会ったときは存分に感謝を伝えようと思ったハクである。


「そっちはいつから使ってるのかしら」

「魔法歴はそんなに長くない。そもそも最近まで小さい村にいたからね」

「なるほど。農村生活じゃ、魔法を見ることも少ないものね」


 プイがいたのでその限りではないけれど、やはり獣人の村は街に比べると規模が圧倒的に小さかった。この世界のことを知れたのも、アベリアの街に着いて図書館で本を読んだからであった。

 おかげで一般常識などは身に着けているものの、田舎者感は拭えない。


「さっきも言ったけど、その魔法の扱いには気をつけなさいよ」

「分かってる。だが、それこそ、この魔法でどうにかなるんじゃないか?」


 基本的になんでも変化させることができるので、もし何かあっても近くにあるものを変化させて身を守ることができればそれでいいのではないかと思った。

 しかし、バンカは神妙な顔つきで首を横に振る。


「あなたも、この魔法の弱点には気づいてるでしょう?」

「弱点?」

「元々魔力が流れているものは変化させられない。そして、原型が崩れるまでダメージを与えると変化が解ける……」


 ハクが今までの旅で見つけた、変化魔法の条件である。確かに、これは弱点足りえる。

 例えば、相手が全身魔力装甲をしていた場合、魔力が流れているものは変化させられないので、ハクは何も変化させることができずに負ける。また、近くの別の物を変化させても、高火力をぶつけられるとやはり負ける。


 変化魔法は、力の押し合いには向かないのだ。耐久度が材質に依存する関係で、戦闘するなら最低でも鉄の塊を変化させなければ打ち合いにもならない。


「相手がきちんと対策している相手だったら、結構私たちは非力なの」

「それは、そうかもしれないね」

「だから私は日頃は使わないの。少なくとも、見えるところで変化魔法は使わないわ」


 最もな話である。

 魔力の流れを見ても、変化魔法を使われたものを見分けるのは非常に難しい。目の前で変化したら流石に分かるものの、そうでもなければハクのように日頃から変化魔法を使っている人にしか分からないだろう。

 バンカは日頃の準備をこの街にある自分の家で行っている。準備をすべて家の中で終わらせてしまうので、誰にも見られることはない。


「なんで変化魔法はこういう扱いを?」

「知らないわ。私も他の人が変化魔法を使ってるのを見て、もっとできると思っただけだから」


 もしかしたら、変化魔法を今の扱いに押しとどめているのは、固定観念なのかもしれないとハクは考える。

 過去に誰かが大々的に「変化魔法は物を小さくすることができる」といった宣言をし、人々がそれしかできないと考え込んでいるのが原因なのではないかと。


 変化魔法は変化先の物をしっかりイメージすることが大切だ。アバウトなイメージをしても、物を小さくするのが限界なのかもしれないなと思う。


「ともかく、街中とか信頼できる人以外がいる場面で使うことはオススメしないわ」

「分かった。肝に銘じておくよ」


 そこまで会話したとき、バンカは立ち上がった。いつの間にやら、コップの中にあったはずの酒は空っぽになり、つまみとして頼んだ茹でた豆も皿から消え失せている。

 よくもまあこの短時間で飲み干せることよ。ハクであれば気持ち悪くなってしまう。


「それじゃ、また縁があったら会いましょ。私はこの街に住んでるから、広場にいれば私の魔法が見れるはずよ」

「ああ、楽しみにしておこう」


 そうしてバンカは去っていった。

 そしてそこにやってくるのは店員。


「お支払いは……」


 ハクが店の入り口を見る。既にそこにバンカの姿はない。

 店員を見る。手元には請求書が。


「やってくれたね」


 ハクは天を仰ぎつつ、残り少ないガラを取り出した。


………


 ハクは宿の部屋に戻ってきていた。約束の時間より圧倒的に早いものの、バンカのせいでお金に余裕がなくなってしまったので、部屋でゆっくり過ごすことにしたのだ。

 ただ、ゆっくりとはいえ、ただボーっとしているのはハクの性分には合わない。ここはひとつ、魔法の練習でもしておこうとハクは考えた。


 ガラ硬貨を一枚取り出す。そこに変化魔法をいくら使っても、ガラの色や形は変わらない。

 魔法を使っても、ガラの魔力に弾かれているような感じだ。もしかしたら超強力かつ大量の魔力を流し込めば変化させることもできるのかもしれないけれど、残念ながらそれほどの魔力を用意できるとは思えない。

 ハクよりも魔力が多いエスノアでも、ガラを変化させることはできないだろうと確信する。


 代わりに、ガラに対して氷魔法を使う。ガラの周りが少しずつ凍り、すぐに氷のコインとなってしまった。

 氷魔法や炎魔法は、ガラ硬貨というよりも、その周りに対して魔法を行使しているものだとハクは思っている。故に、ガラ自体に魔力があっても影響が出るし、きっと魔法で作った煉獄ならばコインを溶かすこともできるだろう。


 ガラ硬貨を元の状態に戻したあとに、自分の尻尾を見る。

 そこには自分自身の魔力が流れているため、変化魔法を使えばすぐに形を変えることができる。消してしまうのはちょっと大変だが、自分の体だからかそれも可能だ。


 そうして身近な変化させてもいいやつを対象に魔法の練習をしているところで、エスノアが部屋に戻ってきた。外を見るといつの間にやら太陽が赤く染まり始めている。


「ハクさん、魔法の練習ですか?」

「ああ、私もエスノアのように魔法を使えるようになればと思ってね」

「ハクさんはその変化魔法があれば大体なんでもできるじゃないですか」


 そこまで言って、エスノアは思い出したように言う。


「そういえば、広場にマジシャンがいましたよ」

「マジシャン?」

「はい!魔力を使わず色んなところから物を出したり変化させたり……すごいですねぇ」


 興奮冷めやらぬといった表情のエスノア。

 それに対してハクは、もしやバンカだろうかと思う。ハクもエスノアも同じ広場にいたわけだし、マジックをしていそうな人はバンカしか知らない。勿論、広場にはほかにも芸人らしき人はいたので、確実にそうとは限らないけれど。


「もしよかったら明日も見に行きたいです」

「ああ、行っておいで」


 ハクはこの世界ではまだ生まれたばかりではあるが、精神はすっかり大人である。マジックを始めてみて興奮しているエスノアを、我が子のように見てしまうのも致し方ないだろう。


 そうして二人は夜ご飯を食べに出る。その間も、何かに取り憑かれたかのようにマジックのことを話すエスノアを見ながら、ハクはバンカを思い出していた。

 取り敢えず、次会ったら今日の請求をしよう。

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