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狐、生きる  作者: nite
狐、挑む

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29/105

次の街へ

 エルフの国から逃亡し、しばらく。とうとう二人は次の街へとたどり着いた。


 エスノアと出会った街に比べると、更に堅牢そうな市壁である。冒険者らしき姿も多く、商人も多そうだ。

 どうやら、街としての規模は明らかにこちらの方が大きいらしい。


「エスノアはこの街は?」

「来た事ありませんね。私は北の方から来たんです」


 前の街から見ると、こちらは東側だ。故に、エスノアも通ったことはない。

 二人とも知らない街ともなると少し不安ではあるが、ある意味ではどちらも新鮮な気持ちが楽しむことができるとポジティブに捉えて、門の前の行列に並ぶ。

 行列の長さは前とそこまで変わらない。なぜならば、入口が一か所ではないからだ。大きな門の前に、三か所ほど入口があり、それぞれに同じだけの人数が並んでいる。それを見る限り、前の街の三倍ほどの規模があるとみていいだろう。


 そうして二人が門番のところまで来ると、結構すんなり街に入ることができた。ギルドカードの確認と手荷物検査だけである。

 ハクのおかげで手荷物は限りなく少ないので、二人ともすぐに終わったのだ。


 検査の仕方を見て、エスノアが呟く。


「これ、犯罪に使えちゃいますよね」

「武器を持ち込むとかは可能だろうね。まあ、する理由がないが」


 ハクは、前回の街と同じくまずは魔石の換金に向かう。旅の途中で刈り取った魔石はすべてハクが持っているので、魔石が入ったバッグをそのまま提出するだけでいい。

 ギルドまでやってきた二人は、買い取り用のカウンターに並んだ。ここは前の街とは違って、ここにも人がいるし、入会受付の人も暇そうにはしてなかった。


「活気があるようだね」

「アルベンよりも人が多そうです」

「アルベン?」

「前の街ですよ。まさか、街の名前も知らずにいたんですか?」


 ハクはここで初めて、前の街がアルベンという名前であることを知る。三日ほどしかいなかったとはいえ、滞在した街の名前をまったく知らなかったのは、確かに失態であったと思ったハクである。

 今まで無駄だと思っていた、〈RPGで街の入口に立ち街の名前を教えてくれるNPC〉にもちゃんと意味があったのだと、異世界転生してやっと理解したのである。それはそうとして、あのNPCはお金を貰ってるのだろうか。


「次」

「はい、全部魔石だ」


 ハクたちの出番になって、魔石を渡す。

 途中で彷徨ったり探索したりした影響で、それなりに魔石の貯蓄がある。これだけあれば、ある程度装備を整えることもできるだろう。


 取り敢えず調味料を買うかと思いながら、ハクは渡された買い取り額が書かれた紙を見る。


「む、少し価格が低くはないかい」

「いや、適正だ」


 そこに書かれていたのは、アルベンの買い取り額の二倍程度。魔石の総質量は確実に三倍以上あるはずなので、やはり安過ぎはしないかと思ってしまう。

 魔石の買い取り額のつけかたをハクは知らない。もしかしたら、傷物のような判断基準があるのかもしれない。しかし、だとしても二倍の値段というのは素直に首を振れない額であった。


「文句があるなら買わねえ。次!」

「……そうかい」


 一度、ハクは引くことにした。お金はそこまで切羽詰まっているわけではないし、急ぐ理由はない。

 そんなハクを見て、エスノアが慌てた様子で声をかける。


「ハクさん、いいんですか?」

「何が?」

「だって、売らないとガラが……」


 ハクは思う。エスノアは人間の子供だし、お金ともよく触れる生活をしていたのだろう、故にお金がないというのは不安材料なのだろうと。

 確かに、お金がないせいでエルフの国では脱出を余儀なくされた。だがあれは例外だ。この世界で生きてきて、お金が絶対に必要だという状況に、ハクはまだ直面していない。


 ハクにとってお金はあればいいな程度だ。そこの点で、エスノアとハクには意識の相違がある。


「お金はそんな焦って手に入れるものではない。それに、彼は適正だと言ったけど、やはり安すぎると思うんだ。買いたたかれる方が度し難い」

「でも宿泊費が……」


 ハク一人なら、最悪街の外で野宿をするという選択肢もあった。狐として普通に森で寝ればいいのだ。

 だが今はエスノアという仲間がいる。彼女は人間だし、せっかく街があるというのに目の前で野宿をさせてしまうのは心苦しい。なにより、そんなことをしてしまえばあの子からハクが呪われる。


 エルフ国で手痛い出費をしてしまった影響で、残りのお金で宿に泊まれるかギリギリだ。まあエスノアだけ宿泊させて自分は外でもいいのだが、とハクは思っている。

 因みに、それを提案してもエスノアは断固拒否するだけなのだが。


「エスノア、他に魔石を買い取ってくれそうなところは?」

「一応個人で欲しがっている人がいれば、その人に売ることもできます。ただ、そういう人は大量に欲しがっている場合が多く、私たちが持っている量じゃ少なすぎて話にならないかと」


 ギルドで買い取った魔石は、選別ののち役所の方に送られる。そこで街中の維持に必要な魔石が取り除かれたあとに、市井の人々に流れることとなる。そのため、大量に魔石を個人が集めるには、ギルドを通さずに買い取るほかない。

 魔石は総合エネルギーである。そのため、大規模な装置を動かしたり大魔術を行使したりするときは魔石が大量に必要になる。そういったことを個人で行うならば、大量の魔石は必要不可欠ということだ。


 大きな街なので、きっと個人で魔石を欲しがっている人もいるだろう。だが、たかが二人の初心者冒険者が集めた程度の魔石では何も動かせない。

 人々から少しずつ集めるのは時間がかかるので、個人所有魔石は基本的にまとまった額と量で取引されている。


「他には?」

「そうですねぇ……あとは、もっと個人。魔石を受け取れない生活をしているような人とかですかね。でも、そう言った人はギルドよりも安い額でしか買い取りできないので、正直オススメはしません」


 魔石という資本がある世界なので、資本主義に傾いた国家形成がなされている世界だ。資本主義の弊害である、貧富格差というは異世界でも通じるらしい。

 いわゆるスラム街のようなところで、魔石を手に入れる機会がない人々が魔石を買い取るらしい。だが、そういうところに売りに行く人はギルドから追放処分を受けたような人ばかりで、良い取引になることはない。


 結局、ハクには選択肢がなかった。実際、市場価格よりも随分と安い値段ではあるが、ギルドの額を飲むしかないのである。


「仕方ないか……」


 ハクにとっては苦渋の選択ではあったが、ハクの気持ちでエスノアに不便な思いをさせるわけにはいかない。

 そうして仕方なくもう一度列に並ぼうとしたとき、横から声をかけられた。


「あんた、この街は初めてか?」

「……誰かな」

「なーに、ただの節介さ。ここのカウンターは買い叩いてくるからな、もっと高く売れる場所を教えてやってもいいぜ?」


 スキンヘッドの剣を背負ったおっさんが、ハクに話しかけてきていた。どうやら、この冒険者はこのギルドの常連のようで、片手にジョッキを持っている。

 とはいえ……第一印象、怪しい。内容、怪しい。結論、信じるに値しない。


 もしかしたら本当にただの善意なのかもしれないが、どう見ても詐欺をしようとしている輩にしか見えなかったので、ハクは断った。


「そこまでしてもらう必要はないよ」

「ああん?まあお前がいいって言うならいいけどよ」


 そこまで言って、おっさんがさっさと元の座席へと戻った。

 本当にただの善意だったのだろうか。それとも、ハクに脈がないことを悟ってさっさと諦めたか……ハクがそんなことを考えていると、もうカウンターのところまでたどりついた。


「お前か。結局売るのか」

「仕方ないからね」

「最初からそうしろ」


 男性が袋を受け取り、対価のガラをハクに渡す。

 それは魔石に比べて随分と軽いものではあったが、これでエスノアもちゃんと宿に泊まれるはずだ。


「行こう」

「はいっ」


 そうして二人はギルドを後にした。その後ろ姿を、スキンヘッドのおっさんが眺めていた。

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