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狐、生きる  作者: nite
狐、挑む

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驚かれるとちょっと気分がいい

「というわけで、私は狐なんだよ」

「えぇ……?」


 次の日。いつものごとく二人で歩きながら、ハクは色々と説明をしていた。昨日はハクもエスノアも疲れてしまって、説明もできずに二人とも眠ってしまったのだ。

 そのため、ハクのことは昼間説明することになった。朝から続いたハクの身の上話は、太陽が真上にも近づいてきたところでやっと終わったのだった。


「じゃあ、ハクさんのその姿は……」

「偽物ってことになる。この服も、化かしたものだよ」


 服に関しては、獣人の村で余った布を貰って変化させた。足りない質量を少し他の材質も混ぜて補ったので、肌触りは元の布よりも悪いけど、その分普通の服よりも頑丈だ。

 化かしたものがある程度損壊すると変化が解けてしまうことを先日知ったので、早いところ正規品にしたいところだ。戦闘中に突然裸になってしまうのは、精神衛生上避けたい。


「なんだか、化かされた気分です」

「実際化かしたからね」


 なぜか知らないが、エスノアに驚いてもらった時ハクの中を満足感が満たした。どうやら、ハクは驚いてもらえると少し満足できるらしい。

 これは一重に狐という種族が関係している。ハクの元の思想故か、狐として化かすことに成功するとちょっと嬉しくなるのだ。


「ならハクさんのブラッシングもしませんと」

「いやいや、狐姿になることはほとんどないよ」


 それこそ、エルフの森から脱出するときのように、緊迫した状況でもないと、わざわざ狐の姿に戻ってまで活動したいとは思えない。

 一応ハクは尻尾だけブラッシングをしている。出していると、何かと絡まって気持ち悪いのだ。なら消せばいいと思うかもしれないが、ちょっと落ち着かないので仕方ない。最初は魔力の問題だったけれど、最近は尻尾がない時の方が落ち着かない。


「それに耳も……そういえばハクさん人間の耳もありますよね」

「聞こえているのは狐耳の方だよ」


 姿に関しては、元の自分をイメージしている。そのため、人間の耳を存在しているのだ。ただ、あくまでも飾りの耳でしかないので、あってもなくても問題はない。


「はぁ、なんだか不思議な人ですね」

「そうかい」

「そもそも、姿を変えるレベルの変化魔法っていうのが不思議です。変化魔法はそういうものじゃないはずなんですけど……」


 ハクが目の前で石を槍にしたりしているところを目の前で見ているエスノアが、ここにきてまたもや疑問を抱き始めた。一度浮かんだ疑念は、きちんと思考して晴らしておかなければ落ち着かないエスノアである。

 その間に、ハクは今後のことを考えていた。


 狐であるということをばらしたとて、エスノアは驚きはしたもののそれ以上はなかった。化かしていたからと怒ったり、旅をやめたりということもなさそうだ。

 しかし、今後本当は狐であるということを明かすべきかどうかは別である。一般的ではないということは、人によっては嫌悪感を抱いたり研究しようとしたりするだろう。いいことは特に思いつかないが、悪いことは色々と思いつく。


 結局ハクは、今後それなりの関係になるまでは狐であることを明かさないと決めた。そもそも、普通に生活している分には狐であるとバレることなどない。


「……あれ、じゃあ私勘違いしてた?」

「何がだ?」

「……まあ、いいか」


 ハクの知らないところでエスノアは自己完結した。

 エスノアも、ハクの魔力に正体について察したのだ。エスノアは若いながらも聡明であり、これだけの情報で自分が勘違いをしていたということに気が付いた。つまり、ハクのことを大魔術師と勘違いしていたことだ。

 だが、それはそれとしてハクの変化魔法が規格外であり、本当は狐で……要は、些細なことになったのだ。今のエスノアにハクと別れて旅をするという選択肢はない。


「ともかく、今後ともよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ」


 そうして二人で道を歩く。昨日の咎めるような視線は、いつの間にか見守るような視線へと変化していた。


……


 エルフの森に入って学んだことがある。やはり、地図は必要ということだ。


 ハクは、地図を持っていなかったことをあの時ほど後悔したことはない。日本において、ほぼ正確な地図を描いた伊能忠敬が現代に至るまで偉人と称えられるのも、地図を作製したからである。


「ふむ……」


 とある木陰で休憩中に、ハクは石を拾って考え込んでいた。


「どうしたんですか、ハクさん」

「地図を出せないかと思ってね」


 変化魔法は、ハクのイメージをそのまま投影しているように変化する。そのため、知らないものを変化によって出現させたり分析したりすることはできない。

 しかしながら、知っていることであれば投影できるはずなのだ。ハクは記憶力ならいい方なので、獣人の村からここまでの道のりくらいならば思いだせる。今後のことも考えて、いわゆるマッピングと呼ばれることもやっておくべきはないかと思ったのだ。


「そもそも石を紙にするのって……」

「それについては可能だよ。私の服も、一部そういった材料で作られているからね」


 元となるものに魔力が流れていなければ、そして魔力を流すことができるものであれば、基本的に何にでも変化させることができる。

 イメージとしては作りかけの地図。まだまだ空白は多いけど、世界の広がりを感じさせるように大きな地図が欲しい。ハクは、念じながら魔力を込めてみた。


「だめだな。私のイメージ力が足りない」

「なんですかこれ」

「落書きだよ」


 そうして変化したのは、紙に子供が書いたようにぐにゃぐにゃな道が書かれたもの。地図と呼べなくもないが、これで分かるのは子供が隠したおもちゃくらいだろう。

 ハクは地図モドキを石に戻して、茂みの方に放り投げた。


「やはり正規品に限るね」

「ですねぇ……」


 二人して木の幹に座り込む。変化魔法は使いやすいが、贋作でしかない。

 それを強く認識したハクであった。

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