旅路、戦闘
獣人の村からの道は、大きな街に繋がっていると、マカクが教えてくれた。マカクはその立場もあって、街まで本を買いに行ったりすることがあるので、この道も通るという。
彼によると、普通なら馬車などを使って移動をするらしい。場所であれば二日ほどで到着する道のりだが……徒歩だと、五日はかかるのではないかと言われた。
「のどかだなぁ」
しかし、森の生活を思えば、五日で到着するのであれば近かった。森を抜けたあのときのように、全力疾走不眠不休というわけではないのだ。心地よい風を受けながら平原を歩くのは、ハクにとってとても気分がいいものであった。
村の近くにはたまに魔物が出没するのだという。プイとスフィンが相対していたのは、そんなたまに出てくる魔物だったということだ。
動物と魔物の区別は、体に魔石があるかどうか。魔石は魔力を生み出す力があり、大きな街はそういった多くの魔石によりエネルギーを供給しているのだと、マカクは教えてくれた。
魔物の生まれる理由はよく分かっていないという。ある日突然、何もなかったところに魔物が生まれて行動するのだとか。魔物は周囲の生物を殺し、体内にある魔力を吸収しているということは分かっているらしく、魔物が湧いたら可能な限り討伐したほうがいいと言われた。
「おや、もしかして」
村を出て一日。それなりに離れたところで、それを見つけた。
全身が緑で、大きな体。ツルのようなものを使って、猪を殺している。
これまたマカクに聞いたことだが、この世界にもちゃんと人間はいるらしい。人魚とか、エルフとか、そういったファンタジーな種族がこの世界には住んでいると言う。
その種族の中に、あんな緑色の巨大はいなかった。興味を持ってハクが近づくと、案の定何も言わずにツルをハクにも向けてきた。
魔力を吸収して生きているからか、何かを摂取するための口は見当たらない。だが、その目が如実にハクのことを獲物と認識していた。
「燃えるかな」
ハクが火の魔法を使う。緑といえば草属性であり、火に弱い……そんな相性を思い出して、火の弾をぶつけた。
この世界の魔法は、現象を口に出すことでイメージを強くして威力を上げているとプイは言っていた。しかし、狐時代の声に出さない魔法発動に慣れていたハクは、声に出さずとも一定の威力を出すことができていた。そんなハクが放った火の玉は、魔物に当たり……そしてかき消された。
原因はツルだ。ツルが高速で動き、火の玉をまるで切り刻むように搔き消したのだった。
「まずはツルからだね」
動きが早いものを拘束……それは、偶然にもハクが最も得意とする魔法の使い方であった。
「『止まれ、氷に包まれて』」
ハクが腕を動かすと、白い粉が舞った。そしてその粉がツルに当たった瞬間、ツルは急速に氷で閉ざされて動かなくなってしまった。
これがハクの最も得意な魔法、凍結術だ。凍結術単体なら一メートルほどを。水に濡れていれば三十メートルほどを凍らせることができる魔法は、ハクにとって最も相性がいい魔法であった。
「悪いけど、プイたちに言われてるからね」
石を拾って、変化。
ハクの手には、剣が握られていた。芯となるものさえあれば、こうして変化魔法でものを作り出すことができるようになったのだ。
人の姿にする魔法と同じく、一度変化させたら解除するまで効果は続き、その間魔力消費はない。武器を持っていないハクにとって、一番やりやすい戦い方であった。
ツルが凍結しているせいで体を動かすことのできない魔物に近づき、胸元に一刺し。
確実な感触と共に、魔物は倒れ伏し、そして体が消えていく。あとに残るのは魔石だけ。
ハクは魔物が消える瞬間というのを初めて見た。ゴーレムのときは、消えるときまで意識が残っていなかったからだ。
「これが魔石ね。売れるらしいから、持っていこうか」
先ほどの通り、大きな街では魔石をエネルギーとして色々なものが動いている。プイたちの住む獣人の村にも、一部魔石駆動があった。そのため、魔石はどこでも大抵売れる。
強い魔物ほど大きな魔石を蓄え、大きな魔石ほどエネルギーが強い。そのため、大きい魔石ほど高く売れる。ファンタジーの設定みたいだけど、いざ自分が中に入ってみると比較的合理的だと感じるハク。
「この剣は戻しておこうかね」
剣を石に戻して地面に捨てる。
これを使うと凶器を消して完全犯罪ができるなと思いつつ、そこらへんは既にこの世界では対策されているだろうとハクは思った。
「行ってみればわかるさ」
そうしてハクはまた歩みを始めた。
どこまでも続く平原は、魔物の戦闘を忘れさせるほど、のどかであった。




