狐、目覚める。彼らが見れなかった場所を私は見るのです
ハクが人間の姿になっても、特に獣人たちの反応は変わらなかった。
むしろ、人が少ないこの村に働き手が増えて喜ぶ人ばかりであった。辺境に位置するこの村では、移住者も少なく常に人手不足なのだ。
しかし、ハクもここに永住するつもりはなかった。世界を知らずに同じところに居続けるというのは、どうにも落ち着かないのである。
「え、旅に?」
「ああそうだ。ずっとプイには世話になっていたけど、私もそろそろ出ようと思ってね」
兄弟はおろか、親すらも失ってしまい、特に身寄りがあるわけではない。だが、この世界にはもっといろんなところがあるはずだと、ハクは期待を膨らませる。
元々地球でも旅行好きだったのだ。ガイドブックもネットもないこの世界で、何も知らない状態で行く旅というのに興味がそそられるのは必然だったのかもしれない。
そして、そんなハクをプイは止めなかった。元々森から出てきて、偶々一緒に戦った仲である。それに、プイにとっては助けてもらった恩返しという意味もあった。ハクがもう十分だというのであれば、プイが引き留めるだけの理由はなかったのだ。
とはいえ、それは理屈と理性での話。既にハクが来て二週間が経過し、ハクに随分と懐いたプイは少し寂寥感を滲ませる。
「でも、ハクが言うなら……」
「なに、今生の別れというわけでもない。私の寿命がどれほどのものかは知らないが、必ずここに戻ってくるよ」
見た目が大人で精神も大人なので忘れがちだが、まだハクは生まれてから半年も経っていない。地球の生物たちと同じように短い生なのか、それとも異世界だから何百年も生きることになるかは不明だが、まだまだ時間には余裕があると感じられた。
「……いつ出るの?」
「可能な限り早く。準備するものも特にないから、明日には出るかねぇ」
飲料水は魔法でどうにかできる。食事についても、森で過ごした経験でどうとでもなる。あの危険な森でしばらく一人で生き抜いていたので、生存能力には少し自信があった。
その自信ありげな表情に、プイは心配することはないと思ったようだ。
「じゃあ、今日は一緒に寝よ!狐さん姿になって!」
「ふむ、まあいいよ」
そうしてドロンと変化。そこには全身が真っ白な狐が。
この一週間の間で何度も変化の練習をしたので、魔力消費が少なく、即座に発動できるようになっていた。これで、何かあってもすぐに見た目を変化させることができる。
その夜、プイは白の毛並みを抱いて寝た。
夢の中で、寒さを感じない、暖かな雪景色を、一人歩く狐の姿を見た。
……
朝起きてから、プイは全然言葉を発さなかった。
ハクがおはようと言えば返事をするし、尋ねれば答えてくれる。しかし、いつもの天真爛漫な少女とはかけ離れた雰囲気に、ハクも少し心配になった。
朝ごはんを食べ終わり、プイは気にしつつもハクは玄関の前に立つ。
「二週間ほど、世話になったよ。君のおかげでこの姿になれたし、この世界について知ることもできた。本当に感謝している」
その間も、プイは無言で、俯いたままだった。きっと寂しいのだろうとハクも理解していた。
「それじゃあ……また来るよ」
ハクは玄関の扉を開き、外に出る。
突如、背後から衝撃を受けた。転倒しそうになるところ、頑張って持ち直す。
「プイ?」
背後から、ハクを抱きしめたのだ。引き留めるようなものでもなく、ただ存分に抱きしめた。
「またね!」
「……ああ、また」
プイを優しく引きはがし、ハクは村を出て行った。
村人たちにも見送られながら歩く道に、ハクも少しだけ寂寥感を持ち……そして、新しい場所へと期待を抱くのであった。
……
「はぁ!?旅に出るだぁ!?」
「うん!私も、世界を知ろうと思って!」
「だが……いや、そうだな。お前はもっと世界を知った方がいいかもな」
「すぐに出るから、しばらくお別れだね」
「……ところで、魔法使いには前衛がいるんじゃないか?頼りになるって言えるかは分からないけど、動きに合わせられる前衛がここにいるぜ?」
「っ!!えへへ、ありがと!」
狐、歩む




