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狐、生きる  作者: nite
狐、進む

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吸血鬼は思うがままに

 ファネの魔法練習は順調……とはお世辞にも言えなかった。船にいる頃から、相変わらず。


「そうか、船の中でそんなことをしてたんだな」

「すみません、あの男性の対応を任せてしまって」

「いやいいさ。とはいえ、あまり芳しくはないか」


 旅の途中、木陰の中。

 ファネは木の方を向いてムムムと唸りながら手を前に翳してる。ファネのイメージではその手から炎が出てくるはずだが、今のところ炎どころか風も起こせそうにない。


 ファネの問題点は魔力により魔法を起こすというイメージができていないこと。凝魔術という魔力の使い方に慣れすぎてしまった弊害と言えよう。


「毎日少しずつやってるんですけど、今のところ変化はなく」


 結局のところ、詠唱をしているかどうかは問題ではなかったのだ。魔力により魔法が発生するというプロセス、それを把握できなければ魔法などどうしても発動しそうにない。

 その点、感覚派なハクとエスノアは教えるのが得意ではなかった。理論など、どこかに置いてきている。


 ファネの目標では、次の街であるルーミー、もしくは、竜族の街であるマランにたどり着くまでに羽を隠す方法を身に着けたいと思っている。

 羽をいい感じに誤魔化すことができれば、竜族と一緒に空を飛べるかもしれない。誰かと飛ぶのは実の父と一緒に飛んだ時以来なので、少しだけ浮足立っていた。とまあ、浮足立っていたのは魔法の練習を初めて数時間だけであったが。


「お父様~」

「こればかりは私もあまりやり方は……」


 旅を始めた当時、もしくは初めて人の姿になった当時であれば、まだ変化魔法に関してやり方を理論的に説明することができていたかもしれない。

 だが、今となってはハクにとって変化魔法は手足であり、その手足をどうやって動かしているのかと問われ理論的に答えることができる人間はいないだろう。無意識的なものを説明することなどそう簡単なことではないのだ。


「バンカさんなら説明できるんでしょうか」

「ああ、彼女ならできるかもしれない。私とは変化魔法の考え方が違うみたいだしね」


 ハクと同じく、物質を変化させたり変転させたりすることができる変化魔法使い。エスノアの魔法の師匠でもあり、特にテクニックの部分で魔法を扱うことに関してはエスノア以上の逸材である。

 砂漠を渡るときに生まれた断熱結界の魔法も、元をたどればバンカがエスノアに教えた魔法の応用の考え方から来ている。


「二人の友達?」

「そうだね。ファネと出会う前に出会った……エスノアの師匠みたいなものかな」

「お姉様の師匠!凄そう!」


 だが、もし彼女がいたとして、ファネに魔法を使えるレベルまで教えることができるのかは不明だ。

 ファネは吸血鬼という種族であり、凝魔術という新しい技術を使い、魔力を感覚として扱う。魔力の捉え方が一般的なものとは全く違うのである。果たしてその壁を乗り越えて魔法を教えることができるのか。


「そういえば私はバンカがエスノアに魔法を教えているところを見ていないのだけど、どんな風に教えていたんだ?」

「参考にってことですか?あれは、うーん少なくとも今のファネには合わないのでやめておいた方がいいと思います」


 そもそも、バンカの魔法教練が数日で済んだのは、エスノアが元々魔法に対する適正が非常に高く、応用の魔法をすぐに身に着けることができたからである。


 言わせれば、数日の魔法練習はバンカの考え方とエスノアの素養がうまくかみ合っただけに過ぎない。魔法を使うことができないファネと比べるというのは酷というものだろう。


「なんなら、もう完全に考え方を変えてしまうっていうのはありなのかもしれない」

「ハクさん、何か案があるんですか?」

「案って言えるほどのものか分からないけど……ファネ、少しいいかな」


 うまく魔力を掴もうとしているファネに声をかける。ファネはすぐに顔を上げてハクの方を見るが、その表情は暗い。


「ファネは凝魔術は得意なんだろう?」

「うん。すぐに使えるようになったよ」


 王国で出会った吸血鬼。あれは、凝魔術という技術は同じ吸血鬼にとっても高難易度なものであり、ペリグラムの血筋だからこそすぐに身に着けることができたと言っていた。


 となれば、魔法というアプローチではなく吸血鬼本来の持つ力からアプローチした方が望んだ結果は得やすいかもしれない。


「凝魔術と同じように、その羽を覆うように竜の羽を作ることができるんじゃないか?」

「上から?」

「そうだ。確か前に言っていただろう、凝魔術は何でも作れると」


 ファネは安定感と攻撃力の高さから、好んで弓を作りだして戦っている。本来の弓の弱点である弾切れの心配をしなくていいのも、凝魔術の弓の利点だ。

 だが、そもそも凝魔術は何にでも応用することができる。剣だって槍だって、なんなら服のようなものだって作り出せるはずなのだ。ただ、ファネがしてこなかっただけで。


「……そっか!」

「必要なものは大抵私が作っていたからね。ある意味、私のせいで思考が狭まっていたのかもしれない」


 服も盾も、基本的にハクが変化魔法で作り出したものだ。破損するまで半永久的に存在し、どんなものでも作ることのできる変化魔法。

 凝魔術に比べて汎用性が高いからか、ハクすらも意識していなかったことだが、そのせいでファネは凝魔術=弓という考えから脱することができなかった。


「凝魔術で、何にでも……」


 周囲に誰もいないことを確認し、ファネがローブを脱いだ。赤い髪が揺れ、背中からは特徴的な吸血鬼の羽が姿を見せる。


 そこに、凝魔術がまとわりついた。そうして粒子が蠢くように流れたあと、そのまま雲散霧消。


「あれ」


 今とてもうまくいきそうな雰囲気だったのに、という拍子抜けの声を出すハクにファネが一言。


「竜族の羽、知らない」


 そりゃそうだ。ハクもエスノアも苦笑いをして頷いた。



 ファネは思う。凝魔術は何でもできるのだと。

 何を作るべきか分からなかっただけで、羽を作ることはできそうだった。それで飛べるかどうかはやってみないと分からないが、少なくとも偽装の手段を手に入れた。

 そして、それは羽だけじゃなく、すべての部位に対してできることだとファネは確信した。それはきっと、体自体を補強するようなことであっても。


「えへへ、お父様の役に立てるかも」


 休憩を終え、ローブをかぶりなおしたファネは、密かに今後のことを考えて笑みを零した。

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