変化の術と吸血鬼
中央都市を出ると、またもや誰にも整備されていないガタガタ道へと突入する。魔物も多く生息し、まともに誰も見ていないことは丸わかりである。
「会議の時期になっても整備されることはないんだろう?」
「どこかの種族が提案した瞬間に、中立が崩れますから」
「全く、生きづらい街だ」
中立国家というものをハクも知っているが、ここまで不便な国ではなかったように思う。行ったことはないけれど、ここまでではないことは知識として知っている。
安寧のための中立を求めすぎて不便になるとは、なんとも皮肉なことである。
「普通は中央政府みたいなのが、こういうところは存在するものだと思うのだけど」
「えっと、参加した種族の偏りが後の問題を引き起こすとかなんとか」
「本当に生きづらい街だ!」
人間という意識のもと、狐の種族であり、獣人を騙るハクからしてみれば、この国はあまりにも種族問題に対して敏感すぎないだろうかと思うばかりである。
これならまだ王国の方が何倍も住みやすい。王都の地下に存在したあれの存在を意識しなければ、だが。
「ファネのことを調べられないから楽だけどね~」
「まあボディチェックがないのはありがたいことかもしれないが……」
「ファネの翼とか、消せないのかなぁ」
今も、ファネのローブの下で小さめの羽がじっとしている。形が特徴的であるため、翼を見られないようにするためにローブをつけているが、これが王国であれば毎回街に入るたびにボディチェックがどれほど厳重かを緊張しながら確認していた。
実のところ、入るときにローブのようなものを脱がないといけない街もあり、そのせいで入るのを断念した街というのも、王国ではいくつかあったのだ。野宿に慣れているハクと、魔法により環境整備ができるエスノアのおかげで、今のところ苦労はなかったが。
既に翼が動かせないことは慣れてしまったが、それでもやはり本当はローブを脱いでしまいたいというのも、ファネの本心である。
「ハクさんの変化魔法は見た目を変えることができますよね」
「ああ。そのおかげで色んな姿になれる」
蜥蜴獣人の姿になったのも記憶に新しい。今の狐獣人の姿も、尻尾を消したり逆に体毛を増やしたり、できることは多い便利な魔法である。
「ファネもそれをどうにか覚えることができれば、翼を消せるかもよ?」
「うーん、魔法……」
変化魔法は多少の質量増減であれば誤魔化しができる。ファネの翼程度の大きさであれば消すこともできるだろう。
問題は、ファネに魔法の才能があまりないということである。魔法と言う言葉を聞いた途端にファネの顔が曇ったのが、その証拠である。
船の中でエスノアと練習をした魔法であるが、未だにその成果は出ていない。
「ハクさんも元々魔法が使えなかったんですよね?どういう練習を?」
「ふむ……私に魔法を教えたのはプイなのは間違いないんだが、元々の魔法を教えてくれたのは母親なんだ。見て覚えろという感じで教えられたが、兄弟も含めていつの間にか使えるようになっていた」
生まれてばかりの頃に、狩りをするために覚えた魔法。兄妹たちは火の魔法だったが、毛色が白のハクは氷魔法を最初に使えるようになった。
今では色々な魔法を使えるようになったけれど、母親から教えてもらった魔法は今もハクの中で生きている。
「あれ、じゃあハクさんが魔法を詠唱せずに使うのって」
「多分母の影響だ。私は魔法の詠唱文なんてわからないから」
尚、ハクはプイから魔法理論の授業も受けている。結局、詠唱なしに変化魔法も氷魔法も、その他の魔法も使い続けているせいで、ハクの頭の中からはすっぽ抜けてしまったが。
この世界の魔法は基本的に詠唱を元に魔法が発動している。詠唱により属性や形状を指定、そこに込める魔力量によって魔法が発動するというプロセスを辿る。
エスノアのように才能がある者であれば、オリジナルの魔法を作製したり、詠唱を改変することもできる。
「詠唱なし……高等とかそういう話じゃないんですけど」
「うーむ?」
ハクにとって、魔法は感覚だ。そもそも、狐姿で詠唱なんてできるはずもないし、詠唱せずに魔法を発動することができるという点でデメリットなどどこにもない。
因みに、魔法理論を教えたプイは、ハクが詠唱をせずに魔法を発動していることに気が付いていたが、彼女は特に気にしていなかった。
「でも、もしかしたらそっちの方がファネには向いているかもしれないよ」
「そう?」
「ファネの凝魔術も詠唱をしてないでしょ?なら、詠唱しない方が安定するかも」
エスノアは断然詠唱を行う派……というか、この世界の魔法使いは皆何かしら詠唱している。だが、目の前に無詠唱魔法の使い手がいるのだ。参考にしないわけにはいかない。
「教えられることもないんだけども」
「魔力の流れを掴んで私が解析します。ハクさんは魔法を使うだけで」
「使うだけなら何も問題はないけれど」
無詠唱魔法を今更ながらしっかりと練習するとあって、エスノアの気分が高揚する。ほとんどの魔法使いが到達したことのない境地なのだ。テンションも高くなろうというもの。
ハクはというと、詠唱するのも面白いなと思っている。長いことこの世界で生きてきたが、やはりハクの魔法のイメージはゲームやアニメのような創作物のものであり、長ったらしい詠唱がつきものなのだ。
わざわざ効率を落とす理由もないため詠唱文を覚えるつもりは毛頭ないが、詠唱している方が魔法っぽいなと思っていたりする。
「次の街まではだいぶ時間がかかりますから、この間に練習してみましょう」
「ふむ、じゃあファネ、魔法を頑張ってみようか」
「うん!お父様と頑張る!」
そして、次の街へ向かうまでの間、毎晩ハクが魔力不足になるまで魔法を使うこととなったのであった。
魔力不足はここまで過酷な状態なのかと、ハクは少し後悔した。




