種族の街から種族の街へ
この街だけの特色で言うと、やはり船の出入りが激しいことをあげるべきだろう。
様々な種族が乗った船が、色んな方向から入りこむ。漁港ではなく、物流の港なので、四六時中何かしらの船が出入りを繰り返している。
バンガロンド共和国内だけでなく、アルクリア、ドラメルなど様々な国と繋がっているこの港は、要人も多く滞在しており、チェックが甘いわりに警備だけは厳重だ。何か揉め事があれば数秒でどこからともなく警備兵がやってきて仲裁を行う。
ある意味で、ピリピリし続けている街と言っても過言ではない。
「ハクさんは獣人の文化を知っていますか?」
「私は獣人じゃないからなぁ。そういう種族特徴については、私よりもエスノアの方が知っていそうだ」
エスノアが、横を歩く獣人の団体を横目でちらりと見ながら、ハクへと問う。
獣人たちは白い法衣のようなものを羽織り、可能な限りそれぞれの動物の特徴が表に見えないようにしている。それが、獣人における偉い人を守るときのマナーであり作法。
獣人における最も分かりやすい特徴、それを隠すことにより要人を守るのである。
そんな彼らは、途中で曲がり高級そうな飲食店へと入っていった。窓にはカーテンがかけられ、扉は必要以上に開かれない。中で何が起こるのか、何が行われているのかを徹底的に知らせない作りの特別な店。
そんな店が、この街には多く存在している。
「あまり観光には向かないでしょうか……」
「全くないということはないだろう。こんな街なんだから、観光客がいないとは思えない」
この街の雰囲気も、特別な店が並ぶ奇異な街並みも、この世界でも有数の特別なスポットだ。
旅をし、新しいものを求めるような者たちにとって、ここまで見たくなるような街もそうあるまい。
「ただ、この街には地図がないみたいなんですよね」
「ギルドになかった!お姉様、どうする?」
「歩いて見つけるしかないね。下手に魔法を使えば注意を引いちゃうし」
地図がない理由など、言うまでもない。
ギルドは国や地域を跨いで、ほとんどの街で活動をしている、ある意味で超法規的な組織。彼らが大きく動き時、世界も大きく動くとされ、その動向には世界中の国々が注目をしている。
そんな彼らは、一つの国に加担をするような行動はしない。この街で、僅か一種族に対しても敵対するような行動はしない。
仕事は勝手にしますから、あなたたちには全く干渉致しません。
ギルドはこの街で、そう宣言したうえで活動を行っているのだ。それゆえに、この街でギルドはあまり情報を握っていないし、各種族もギルドに対してアプローチをすることはない。
そう説明するエスノアに対して、ファネは素朴な疑問を呟く。
「お姉様、ギルドってどこの人たちなの?」
「私もよく知らないんだ。あまりそこらへんの情報は公開されてないみたい」
ようやく見つけた、街の端っこの屋台に並びながら、エスノアは説明を続ける。
ギルドの初出は明らかにされていない。いつの間にか、どこかの街で活動をしており、いつの間にかそれは国を超えて活動をし始めた。
どの街でできたのか、どの国から始まったのか、その情報はギルドの上層部しか知らないことだろう。だが、その国に加担しない仕事ぶりと、それまで根無し草だった人々をある程度の労働力へと変換したその手腕から、ほとんどの国で認められている組織である。
「ファネの故郷にもいたのかなぁ」
「流石にそれはないと思うけど……」
屋台の列が進み、ハクが注文をする。その間も、二人はギルドについての雑談を交わす。
「ギルドの仕事ってその街の人がするの?」
「就職はその街でしてるみたい。情報とか依頼を集めるっていう仕事上、その街の人が働くのがやりやすいんだと思うよ」
「ファネも故郷で仕事できる?」
「吸血鬼って依頼とか受けるのかな」
そこで、ハクが二人に包みを手渡した。街を歩き続けて、やっと見つけた小さな屋台で売られている軽いご飯だ。
ファネが包みを剥がすと、そこにはハンバーグに似ている肉がパンに挟まれているものがでてきた。屋台には「種族挟み」なんて書かれている。
ハクが一口食べ、そして思う。見た目も味も、ハンバーガーだ。
「へー、この肉は牛肉と魚肉の混成肉なんですね」
「特定の材料だけを使うのも問題になるのかもしれないな。もしくは、ここには魚肉も牛肉も集まるだけだからかもしれないが」
ほぼほぼハンバーガーなそれは、肉だけが特別性。牛肉と魚肉を混ぜて作られたハンバーグは、牛肉のジューシーさと魚肉の新鮮さを味わうことができる。
とはいえ、独特な味であるのは間違いないので、人を選ぶものであるのもまた事実。
「うーん、ファネは普通のお肉の方が好きー」
「ははは、そうだなぁ。私も、普通の方が好きかもなぁ」
ファネとハクが笑う。やはり、日頃から血肉を本能的に求める種族の二人には、魚肉は余計であったようだ。
もしかしたら、長い船旅で魚肉の味に喜びを感じられなくなっただけかもしれないが。
そんな二人に対して、普通に美味しく感じたエスノアは、少しだけ疎外感を覚えた。エスノアは、食べれるものならなんでも美味しく頂く主義なのだ。
「とはいえ、この街の特別なものというと、あまりないみたいだ。街の端っこにしかこういう屋台がないのも、それを物語っている」
周囲を見渡すと、同じようにちょっと特別な食事や土産を売っている屋台や出店が並んでいた。それを、冒険者らしき人々が物珍しそうに見ている。
街の中は怪しい店が並んでおり、正直なところ冒険者も眺めるだけで近づく勇気はそうない。そうして、街を眺めるだけ眺めて歩いていると、自ずとここへと辿り着く。
そうして、この街の端っこでのみ、旅人たちは取引をすることになるのだ。そういった事情があるためか、旅用の道具屋もこのエリアに近いところに多く出店している。
「うーん、中央都市に行った方が観光できるかもしれませんね」
「それに、街の雰囲気は中央都市も変わらないだろう。さっさと次の街に行ってしまうか」
そうして、三人は軽く観光を行い、宿で過ごし、そして次の街へと出立することとなる。特に後ろ髪を引かれることもないからか、街を出るのは朝も早い時間帯だ。
「じゃあ、行きますか」
「ああ。また途中で少し遠回りを?」
「そうですね……あれがあったので少し不安ですけど、魔石が集まらないので仕方なく、です」
三人は、中央都市を目指して歩み始めた。
この街とは違う、真の意味で種族が集うその街に。
別のところの連載が佳境なので、しばらく投稿頻度が落ちます




