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怪盗勇者アルセーヌ  作者: 十河 水屑
Chapter1, 悪魔の契約
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Ep1-7 デビュー戦の裏側

2024.4.12, Ep1-1の前に『Ep1-0 プロローグ』を追加しました。大筋に全く影響はありませんが、この作品の導入部分となっておりますので、もしまだ読んでいなくて興味のある方は是非ご覧下さい。





 時はデビュー戦より少し前に遡る──────





「な、なんじゃこりゃあっ!?」



 俺がマモ様と契約した翌日。早速『装束』とやらを試してみようと思い、玄関前の姿見の前で変身を行った。


 変身自体は非常にスムーズに完了した。

 変身するぞ!と考えると身体が一瞬光に包まれ、それが消えると先程までとは全く異なる服を自分が身に着けていた。



 ⋯⋯問題はその衣装である。


 フリル付きの長袖の白シャツの上に胸元が大きく開いた黒のスーツっぽい上着。

 かなり際どいミニスカートの下には無駄に扇情的なガーターベルトとそれに合うブーツが装着され、この3点は全部黒で統一されている。


 更に髪は真っ白に染まり、いつの間にか髪型がサイドテールになっていて、白黒のリボンで結ばれている。

 その逆側には黒ベースに赤いリボンが巻かれた、小さいがシンプルなシルクハットがちょこんと乗っかっている。


 そして極めつけに、足元まである大きな黒いマントと、目元を覆う白い仮面。はっきり言ってとても不気味で、夜中に外でこれを着けた人に遭遇したら猛ダッシュで逃げる自信がある。



 うーーん、これはどう見ても⋯⋯。



「なんか怪盗みたい!」


「ぉわあっ!風兎(ふう)いたのか!?」



 リビングのドアから顔をひょっこり出して、風兎がこちらを見ていた。

 目はキラキラと輝いていて、とても年相応で可愛らしいのだが、見られているこちらとしては(たま)ったものではない。



「お(にぃ)が起きるの遅すぎるだけ。私はずっとリビングに居たよ?」


「⋯⋯そ、そうだったのか」



 自分の部屋から直接玄関に来て変身したから、全然気付かなかった⋯⋯。

 昨日色々あり過ぎた上に今は春休みとは言え、流石にダラダラし過ぎたかな。



「⋯⋯て言うかこれ(・・)、どちらかと言えばマジシャンっぽくない?」



 なんかこう、胡散臭そうな感じが漫画とかに出てくるタイプのマジシャンっぽいなって思ったんだけど。



「えー?でも、インサイダー5の主人公にそっくりだよ?」



 そう言って彼女は、ついさっきまで自分がやっていたゲームの画面を見せてきた。


 インサイダー5とは、タイトル通りそこそこ有名なゲームシリーズの5作目である。

 普段は普通の高校生のフリをしている主人公だが、その裏の顔は怪盗であり、心の闇が引き金となる様々な事件を仲間と共に解決して行くアクションRPGだ。



 ⋯⋯なるほど。主人公の性別は男だし、色合いも若干異なるが、言われてみれば雰囲気はかなり似ている。


 まあ、怪盗って手品みたいに華麗に盗みを働くイメージがあるし、実際にマジシャンが怪盗をやっている作品も結構あるよね。



「それよりお兄、おっぱいめっちゃ大っきいね!」


「⋯⋯なっ、ななっ」



 止めてくれ、あんまり考えないようにしてたのに⋯⋯。


 この上着、胸元が大きく開いている所為(せい)で胸が凄く強調されるのだ。

 サイズが大きい事もあり、自分で言うのも何だが、その、⋯⋯はっきり言ってめっちゃエロい。



「⋯⋯お、女の子が軽率にそんな事言うんじゃありませんっ!」


「だって、今はもう女の子同士だもーん」


「女の子同士でもダメ!あと俺はまだ(・・)心は男なの!」



 ⋯⋯全く。風兎は外では一体どの様な子なのだろうか。少し心配になるな⋯⋯。



「いいなあ。私も大人になったら大っきくなるかなあ?」



 そう呟いて、彼女は自分の胸元に意識を向けている。



 お、俺の注意を気にも留めていない⋯⋯。


 ⋯⋯まあ、昔からこんな感じで、妹はなんと言うか自由奔放な子なのだ。

 それもあって何かと心配してしまうと言うか。過保護気味だなあとは自分でも思ってはいるんだけど⋯⋯。



「⋯⋯朝から騒がしいぞ、(わっぱ)ども」



 2階からマモ様が降りて来た。彼はさっきまで俺の部屋で眠っていた。

 どうやら騒ぎ過ぎて起こしてしまったらしい。


 ⋯⋯まあ、もうお昼前だから朝では無いけれど。



「⋯⋯ふむ。どうやら我の影響が強く出た様だな」



 マモ様が俺を、厳密には俺の装束を見て呟いた。



「⋯⋯マモ様の影響?」


「勇者の装束は契約を交わした際に、神力もしくは霊力を用いて自動的に生成される。その見た目は千差万別だが、基本的には契約するのが精霊なら勇者、神またはそれに匹敵する存在なら神側の影響が出やすいのだ」



 勇者の服にそんなルールがあったのか。今後、他の勇者が契約しているのが精霊か神々かを判断する1つの目安になるかも知れない。



「まあ絶対ではないがな。我は『奪う』に長けた存在故、盗っ人を連想させる装束になったのだろう」



 奪うと盗むでは、言葉のニュアンスが若干異なる気もするが⋯⋯。まあいっか。



「スキルの傾向も凡そ似た様な物だ。見た目通りのスキルが手に入ると思って良い」


「⋯⋯あ、ほんとだ。1つ目のスキル【盗む】だって」



 あんまり勇者っぽくないなあ⋯⋯。言葉の響きが犯罪だし、どう考えても正義側ではなさそう。


 効果も文字通りで『対象を盗み取る』だってさ。


 ⋯⋯いや待てよ。怪盗と言えば義賊だから、正義と言えなくも無いのか?



「スキルの使い方は勝手に頭に浮かぶ。それこそ、いきなり実践に投入しても問題が無いようになっている」



 【盗む】の使い方をイメージすると、マモ様の言う通りこのスキルをどう使えば良いのかが勝手に理解出来た。不思議。



「⋯⋯へえ。中々面白いスキルだな」



 これは思ったよりも色んな事が出来るかもしれない。


 ⋯⋯あくまでまだ想像の段階なので、実践で使い物になるかは未知数だが。



「2つ目は⋯⋯、【神出鬼没】?」



 簡単に言うと限定的な瞬間移動かな?

 スキルのクールタイムがほぼ無い代わりに、ターゲットから50メートルの範囲でしか使えないらしい。



「⋯⋯めっちゃ強くね?」



 ど〇でもドアみたいに何処にでもは行けないけど、戦闘面では(ほとん)どデメリットにはならなそう。


 だって、勇者は逃げないから(・・・・・・・・・)



 確かにどちらも怪盗っぽい。特に【神出鬼没】なんてイメージそのままだ。

 ただの泥棒ではなく、怪盗である所に意味があるのだろう。



「どうやら良いスキルを得られた様だな。それでこそ我の契約者である」


「ねえねえ、私にも教えてよぉー!」


「⋯⋯あんまり手札は晒したくないんだけど」



 とは言え風兎は身内だし、そこまで心配はしていない。兄のスキルを無闇に言い触らす程、口も軽くないし。



「凄い凄い!⋯⋯まるで本当にアルセーヌみたいっ!」



 て事でざっくりとどんなスキルか説明してあげると、目をまたキラキラとさせて彼女は言った。



 アルセーヌと言うのは先程説明した、インサイダー5の主人公が怪盗として活動する時の名前だ。


 確かに彼もそんな感じのキャラだったかな⋯⋯。俺は妹のプレイする画面を見ていただけなのでうろ覚えだ。



「では勇者名はそれにしておこう」


「⋯⋯えっ!?勇者の名前ってそんな簡単に決まるの!?」



 マモ様が急に話に入って来てそう言った。


 ゲームキャラと雰囲気が似てるからってそのままの名前にするのは、ちょっとどうなんだろう⋯⋯。



「大体皆そんなものだぞ。それよりも、政府に連絡する際に名前が必要なのだ。だからさっさと決めて貰わねば困る」



 言われてみれば、そうだよな。まさか本名を名乗る訳にもいかないし。



「⋯⋯まあ他に候補も無いし、それでいいや」


「怪盗勇者アルセーヌだねっ!」



 ⋯⋯ちょっとキザ過ぎない?勇者だしそれで良いのか?


 俺には判断が難しいよ⋯⋯。




「そうだ!折角だし【盗む】で何か盗んでみてよ!」



 これまた唐突に、風兎がそんな事を言い出した。



「⋯⋯言い方悪。何かって、何だよ」


「何でも良いよ!⋯⋯⋯⋯私のパンツとか?」


「やる訳無いだろ!?!?」


「でもこの前見たアニメだと、主人公が女の子のパンツをスキルで盗んでたよ?『スティール!』って」


「マジで何見てんの!?」



 本当に何故そんな結論になったのか⋯⋯。


 外でもこんな感じなら、流石に保護者として話し合いが必要かも知れないなぁ⋯⋯。



「冗談だって!お兄にしかこんな事言わないよ!」



 俺の表情から何かを感じ取ったのか、風兎が慌てて弁明をするが⋯⋯。

 それはそれで問題なんだよなぁ⋯⋯。



「お兄ちゃんは妹の将来が心配だ⋯⋯」


「何でぇ!?」


「⋯⋯(うるさ)いのである」




ここまで読んで頂いてありがとうございます。

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