Ep1-5 勇者レベル
「勇者にはレベルが存在する事は知っているか?」
気を取り直したマモ様が、恐らく本題であろう話を切り出して来た。
「あぁ、知ってるよ。魔物にもレベルがあって、同じレベルの勇者が対応するんだよな、確か」
それは、一般人にも良く知られている話である。
既存の魔物には、その脅威度によってそれぞれ等級が割り振られている。
そして勇者にもレベルがあり、強敵を倒したり困難を克服したりするとレベルが上がる事があるらしい。
魔物発生の予兆を検知した場合、基本的には担当エリア内で魔物と同レベル以上の勇者が討伐に向かう。
勇者の場合、レベル1なら見習いである。
これは、精霊や神々と契約したばかりの勇者のレベルで、魔力(マモ様曰く神力や霊力との事だが、一般的には魔力で統一されているのでこちらを用いる)による加護は得られるが、特にそれ以外には何も無い。
⋯⋯まあ、その加護こそ俺が求めて止まなかった物であり、魔物と戦う上で非常に重要なのであるが。
次に、レベル2。この等級の勇者は初級勇者と呼ばれる。
『装束』が解放され、変身をすると魔力をより多く引き出す事が出来る様になる他、『スキル』と呼ばれる特殊能力が扱える様になる。
更に、正式に勇者として担当エリアを割り振られて仕事を任せて貰える様になるのもこのレベルからだ。
一番数の多い勇者であり、各担当エリアに大抵2~3人は居る。
レベル3からは一人前として認められ、これ以降は一般的な呼称も普通に『勇者』で固定となる。
スキルも2個に増え、基礎能力も上がる。
レベル2程では無いがそこそこ数がおり、各担当エリアに最低1人は必ず居る。
レベル4になると、更に切り札級のスキルが1つ増える。
見栄えの良い派手な技が多いので、人気も出やすい。テレビ等で良く活躍を見かけるのはやはりレベル4が多い。
但しレベル3に比べると数が激減するので、もしレベル4の勇者が居ないエリアに同レベルの魔物が出た場合、最寄りのレベル4が駐在するエリアから派遣されて来る。
この上にレベル5が存在するのだが、残念ながら現在の勇者には居ない。
厄災の日に現れたと言われる強大な魔物がレベル5とされており、その魔物を打ち倒した原初の勇者たちがレベル5だったと伝えられている。
「そうだ。そして一般的には勇者はレベル1から始まるとされているが、適性が高ければ2や3からの場合もある」
「あ、その噂って本当だったんだ」
ネットでは結構有名な噂だ。
勇者はレベル2になると装束が開放される。それと同時に依頼をこなせる様になるので、格段に外への露出が増える。
と言うか政府の管理する、現役勇者の活躍を映した動画サイトである『BraveTube』という物が存在し、神由来の謎技術で勇者が魔物と戦う様子を閲覧出来るのだ。
動画はリアルタイムではないのでそれを公開するかどうかは勇者次第なのだが、レベル2になって初の戦闘、要するにお披露目は必ず動画が公開される。
最近では勇者を数人で一組のチームで育て、デビュー時期を合わせる事によって、〇期生みたいな感じで新人勇者が認知され易くすると言う試みが行われていたりもする。
他にも、レベル1の見習いたちが頑張っている様子等を見る事も出来る。
これの存在によって、現在の勇者は一種のアイドルの様なものとして扱われている節がある。
前置きが長くなってしまったが結局何を言いたいかと言うと、現在巷で活躍している勇者たちにも当然見習い時代があった筈である。
しかし、極めて少ない数ではあるものの、レベル1やレベル2の時の動画が一切無い勇者が居る。
デビュー戦がいきなりレベル3の勇者が実際に動画として残っているので、『才能のある勇者はいきなり高レベルから始まる』という噂はそれなりに広く信じられているのだ。
「左様。そして現在の貴様のレベルは3だ」
「⋯⋯⋯⋯え、マジ?」
俺がいきなり、レベル3?
さ、流石に何かの間違いでは?
「間違いや冗談の類ではない、列記とした事実だ。でなければ幾らゴブリンとは言え、装束も無しに一撃で吹き飛ばす事は出来ん。⋯⋯という訳で、貴様はもう何時でも勇者として正式にデビュー出来るのだが、どうする?」
「な、何がどうする?なんですか⋯⋯?」
「時期や魔物の種類に決まっている。貴様は野良なのだから、その辺は色々とややこしかろう?」
勇者には先程話したレベルの他にも『野良』と『政府所属』と言う分け方が存在する。
意味はそのままで、政府に所属しているか否かである。
野良勇者だと、先程語った様な担当エリア等に関係無く活動出来るが、当然政府による諸々のサポートは受けられない。
どちらも一長一短で、俺が野良勇者について知っている事はこのくらいだ。
「政府に所属しないの?」
「⋯⋯今は止めておいた方が良い。せめて貴様がもう少し強くなり、世間に認知されるまでは待つべきだ」
「何で?」
「突如未だデビューも済んでいないレベル3の勇者が現れてみろ、大混乱になるぞ?当然政府は貴様をどう運用するか考え、利益に繋げようとするだろう。それに加え、政府所属のレベル1や2の勇者たちからの妬みの視線も多かろう。貴様はそんな組織の中で新米勇者としてやって行ける程、心が図太いのか?」
「⋯⋯無理です」
勇者、怖い⋯⋯。政府、怖い⋯⋯。
「勇者は貴様が思っている程、綺麗なだけの世界ではない。⋯⋯まあ組織など、何処も似た様な物だがな」
「じゃあ俺は一体どうすれば良いんだ⋯⋯?」
「取り敢えずは家の中で変身だけして、装束とスキルを確認して慣れておくのが良いだろう。行けると判断したら、我が手頃な魔物を斡旋してやる」
マモ様流石っす。凄い存在なのに人間の事情にもお詳しいんですね⋯⋯。
「⋯⋯あれ?でもそれだと、その担当エリアの勇者の仕事はどうなるの?」
「勇者専用の連絡手段がある。暫くは我が直接、政府との遣り取りをしてやる。その方が、野良でいる理由を作り易いからな」
そう言ってマモ様は装飾の全く無いスマホを毛皮の中から取り出し、目の前でふよふよと浮かせる。恐らくこれが、彼の言う専用の連絡手段とやらなのだろう。
彼の言い分だと、本来あのスマホは俺が持つ物なのかも知れない。狐用のスマホがあるとは思えないし。
「⋯⋯何から何までありがとうございます」
俺1人だったら割と本気で詰んでいた可能性あるなこれ。
⋯⋯本当に、マモ様には感謝してもし切れない。
「⋯⋯まあ、面倒なのは最初だけだ。それに、こうして色々とやってやれるのも我と契約したからこそである。精霊だと意思の疎通が出来んからな」
そう言ってマモ様はスマホをまた毛皮の中に沈めると、身体を丸めて目を閉じてしまった。話は終わったという事だろう。
「⋯⋯今更だけど、この話って私が聞いていても良かったの?」
今まで静かに黙っていた風兎が口を開いた。確かに、結構重要な事とかも話していたかも知れない。
「別に構わん。聞かれたからと言って何が出来る訳でも無いし、この程度の情報なら身近に勇者が居れば知るのはそれ程難しくは無い」
目を瞑ったまま耳だけ風兎の方へ向けて、マモ様が答えた。
「そもそも、それ程分別の無い餓鬼であれば最初からつまみ出している」
そう呟くと、今度こそ彼は眠ってしまった。
俺と妹は互いに苦笑しつつ、各自の部屋に戻るのだった。
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