Ep2-SS3 隣の席の坂富さん
とある男子生徒から見たしぃちゃんのお話。時系列は校外学習の少し後くらい。
«SIDE-とある男子生徒»
「──────でさ〜」
「てかそれなら──────」
今朝も僕の席の周りは賑やかだ。⋯⋯とは言っても勿論僕自身ではなく、隣の席に座っている坂富さんという少女の話である。
少し話は逸れるが、僕らの学年(勇者学科は1クラスしか無いから僕らのクラスと言い替えても良い)にはちょっとした有名人がいる。
月島 茶琉兎、勇者名はスウィート。1年生で唯一のレベル3勇者で、ついこの間の校外学習でその実力を垣間見る事が出来た。
⋯⋯更には、突如として現れた化け物相手に1人で立ち向かい、他にも協力者は居たものの討伐してしまうという正に英雄的な活躍を近頃は見せている。
という訳で、元から人気だった月島さんは一際注目を集めるようになったのだが、そんな彼女が特別仲良くしている人が2人いる。
1人は水倉さん。月島さんとは担当地区が同じで、中学の頃から仲良しだといつだったか話しているのが聞こえた。実際、2人は気安く冗談などを言い合っている事も多く、親友という言葉がぴったりな関係に見える。
⋯⋯そしてもう1人が、件の坂富さん。水倉さんと月島さんが彼女の机の周りでお喋りしているのをよく見かける。今日もそうだ。
坂富さんは偶にいる勇者としての姿を秘匿しているタイプの人で、勇者名や能力は勿論、レベルすら不明という徹底ぶりである。
他の秘密主義の生徒たちの場合、勇者学科の特別授業、例えば対魔物を想定した戦闘訓練などではやむ無しといった様子で装束に着替えて戦う。単純にそうしないと訓練に着いて行けなくなるからだ。⋯⋯じゃあ何を秘匿しているんだと言われると悩むけど、大抵は能力の詳細だったり、頑張って能力無しで乗り切っている人も中にはいる。
装束を扱えるならばまず間違い無く誰もがやる行動で、当然月島さんですらスウィートの姿になって授業を受けている。
⋯⋯ただ1人、坂富さんだけが変身せず、普通の体育の時に使う体操着で授業を受けている。つまり誰も彼女の装束を見た事が無いのだ。だからクラスメイトの中には装束を扱えない、つまりレベルが1なんじゃないか、変身しないのではなく出来ないのではないかと影でバカにしている人もいない訳ではない。
⋯⋯でも多分、違うと思うんだよなあ。
そう考える理由は幾つかあって、まず1つは彼女が授業中も平気そうな事。
皆が装束ありでもヘトヘトになっている中、坂富さんは比較的元気に月島さんたちとお喋りに興じていたりする。⋯⋯それを先生に注意されるまでがお約束なんだけど。
2つ目は、普段の彼女の立ち振る舞いが堂々としている事だ。
僕ら生徒は、互いを助け合う仲間であると同時にライバルでもある。そうなると必然的により高レベルの勇者に憧れたり、自分が周りより劣っている部分があると気にしてしまうものだ。
僕の勇者としての能力は学年で見たら平均的だし、世代全体で見れば実は結構優秀な方なのだ。それでもやっぱり月島さんみたいな派手な技を羨ましく思うし、カナンさんみたいな英雄的な人に憧れたりもする。
なんと言うか、坂富さんにはそういった妬みとか僻みのようなものが感じられない。まるで、日常的に見慣れているかのように。
もしかすると月島さんや水倉さんは何か知っているのかもしれない。恐らく、というかまず間違いなく坂富さんと最も仲が良いのだから、それらの秘密をもし知っているとすれば彼女たちを置いて他に無いだろう。
「⋯⋯まあ、僕には関係無いか」
どちらにせよ、僕が月島さんたちのグループに関わる事はまず無い。真相がどうであれ、僕とは縁遠い世界の話だろう。
「何が関係無いんですか?」
「⋯⋯へ?」
声がした方を見ると、つぶらな瞳をぱちくりとさせてこちらを見ている坂富さんと目が合った。睫毛なっが⋯⋯。じゃなくて、な、なななんで⋯⋯!?
「あ、いえ。こちらを見て呟いていたみたいなので気になって⋯⋯」
「あ、ああ、そ、そうだっけ!?」
どうやら考え事をしている内に、つい坂富さんの方を見てしまっていたらしい。不審に思われたのか、あろう事か坂富さんの方から声を掛けられてしまった。
「⋯⋯あの、大丈夫ですか?」
「だだ、だ大丈夫ですっ!」
やばい、緊張し過ぎて変な汗かいてきた。絶対キモいって思われてるよ⋯⋯。
実際のところ、坂富さんはとても可愛い。月島さんたちみたいにクラスの中心に居てとても良く目立つんだけど、口調とか雰囲気とかはお淑やかで落ち着いている。
⋯⋯ぶっちゃけ、坂富さんの事が気になっている人は結構多いと思う。月島さんたちと違ってなんかこう、押せばいけそう感があるというか⋯⋯。
「体調が悪いなら保健室に行った方が⋯⋯」
「ほ、本当に大丈夫だから!」
自分自身の女性経験の少なさを怨めしく思う。隣の席で、しかも僕の所為とは言え向こうから声まで掛けてくれたのに⋯⋯。
「あ、それっ⋯⋯!」
「ん?⋯⋯あっ」
そう言って坂富さんが指差す先には僕の学生鞄、の中から覗くトレーディングカードのパック。⋯⋯マズい、新弾の発売日だから昨日学校帰りに買いに行って、そのまま入れっぱなしだったやつだ。
授業や勇者の活動に全く関係無い物を学校に持って来るのは普通に校則違反である。
「あ、いや、これはっ⋯⋯」
「勇者カードの最新弾ですよねっ!昨日探したけど何処も売り切れで⋯⋯!」
「⋯⋯へ?」
⋯⋯なんか、思ってた反応と違うな。これはもしかしなくても、勇者カード好きなんだろうか。
「どこに、⋯⋯何処に売ってたんですかっ!?」
ズイッ、と身を乗り出して問いかけて来る坂富さん。
か、顔が近いし何か良い匂いもするし、それ以上に、その、む、胸元の主張が⋯⋯。
「と、隣の駅近くの、この前出来たばかりのカードショップに⋯⋯」
「新店舗⋯⋯!俺とした事がっ」
声が小さくて何を言っているのかは分からなかったけど、兎に角悔しいという感情は伝わって来る。
⋯⋯正直、かなり意外だった。勇者カードが好きという事もだし、それに対してここまで感情を顕にした事もだ。
「ありがとうございます!今日早速行ってみますっ!」
見た事の無いくらい溌剌とした笑顔を浮かべる坂富さん。
店の場所が分からない坂富さんを案内するという体で2人で遊びに誘う。こ、これはもしやデートフラグ⋯⋯!?
「よ、良かったら僕が案内しようか⋯⋯?」
「え?地図アプリで調べたら普通に出てきたから大丈夫ですよ?」
「あっ、そ、そうだよね⋯⋯」
そんなもの、立つ訳無いですよね⋯⋯!僕とした事が、調子に乗り過ぎてしまったらしい。僕なんかがこんな可愛い女の子に話し掛けて貰えたってだけでも奇跡なのに⋯⋯。
「貴重な情報ありがとうございます」
「い、いやいや、このくらいお安い御用だよ!」
「また今度、決闘しましょうね」
「えっ?あ、う、うん!」
無邪気な笑顔でそう述べる坂富さんが、僕には普段よりも何だかキラキラして見えた。
「しぃちゃんってば、罪な女〜⋯⋯」
「自覚無いのが尚更タチ悪ぃわ⋯⋯」
しぃちゃんは普段ギャルたちに距離感がどうのとか言ってますが、お前も大概だぞというお話でした。授業中も絶対に変身しないのは傍から見ればどう考えても変な人なので、微妙に勘づいている人もいそうだよねって視点を書きたかった。
ちなみに本人は、まさか元男の自分がそういう目で見られているとは露ほども思っていません。胸元への視線には流石に気づいていますが『全く男子ってやつは⋯⋯』と、やれやれムーブしてるだけです。
ここまで読んで下さってありがとうございます。




