Ep2-SS1 しぃちゃんとの出会い
月島さんや水倉さんがしぃちゃんと仲良くなるまでのお話。時系列は校外学習が終わった少し後くらい。
«SIDE-月島»
「新入生で唯一のレベル3って言うから見に来てみりゃあ、とんだビッチじゃねぇか!」
「くひひっ!レベル3同士、仲良くしようぜぇ」
「ちょっ、マジ何なの!」
「ウチらのジャマすんなし」
あーしらが入学して間もない頃の話。⋯⋯と言ってもまだ1ヶ月ちょっとしか経ってないんだけど、何だか随分前のことみたいに感じるなあ。
リンちゃんとは中学は別々だけど、担当区域が同じだったからそれなりに長い付き合いだ。合格発表を一緒に見に行って2人で喜んだのを良く覚えてる。
その頃は新入生ではかなり珍しいレベル3勇者がいるという噂を聞きつけて、こんな風に絡んで来る人も今と比べると多かった。
⋯⋯まあ、ここまでタチが悪そうなのは滅多に居ないけど。
「おいおい、そんな生意気言って良いのかぁ?入学したてで知らないかもしれないが、上級生になるとレベル3はそこまで珍しくないんだぜぇ?」
「大人しく俺らと『仲良く』した方が、身のためだと思うけどなぁ!」
勇者には良い人が多いけどそれはあくまで『比較的』。残念ながら、こんな感じのチンピラモドキなら普通にいる。
特に、強い力を得て増長してしまう経験の浅い勇者は少なくないのだ。⋯⋯丁度目の前の人たちのように。
とは言え、レベルでは同格の相手が数人ともなると流石にあーし1人じゃ対処し切れない。そもそも特別な授業中以外に学校の中で変身したり能力を使うのは校則で禁止されてるし、勇者同士の争いが御法度なのは言うまでも無い。
でも、だからって黙ってこいつらの言いなりにもなりたくないし⋯⋯。
「⋯⋯やるしかないかな〜」
「ウチは最初からそのつもりだけど」
入学して早々トラブルなんて起こしたくないんだけどなぁ⋯⋯。また同級生から怖がられるのも嫌だし。
「んだテメェら。いっぺん痛い目見といた方が良さそうだなぁ?」
「調子に乗った後輩は、先輩が『指導』しなきゃだよなぁ!」
「「「ギャハハッ!」」」
⋯⋯下品だなぁ。超絶エリート学校のハズなのにこんなのがいるのは、ちょっと残念かも。
変身こそしていないものの、既に戦闘態勢に入っている先輩たち。さらばあーしの平穏⋯⋯。
「さぁ、どっちから可愛がってやろう⋯⋯んぁ?」
「「「⋯⋯は?」」」
⋯⋯と、その時。なぜかあーしらを取り囲む先輩たちがいきなりパンツ一丁になった。1人残らず全員、一斉にだ。⋯⋯マジでどーゆーこと??
「な、なな、テメェら何しやがった!」
「いや知らんし。そっちが勝手に脱いだんでしょ」
「んなワケあるかぁッ!!」
怒っているのか恥ずかしいのかは知らないが、ちょっと涙目で叫ぶ取り巻きの1人。今更見られて恥ずかしがる物なんてあるんだって思ったけど、口にしたらまた面倒なことになりそうだったからガマンガマン。
それにしても、リーダーっぽい人のソレ⋯⋯。
「⋯⋯ぷふっ。クマちゃんパンツかわいーね」
「「「ぶはァッ!」」」
「クソッ!クソッ!クソォッ!!」
予想外に可愛らしいパンツを取り巻きにも笑われ、今にも火が出そうな程に顔を真っ赤にしてリーダーの人は走り去った。そしてそれに続くようにして取り巻きたちも消えた。⋯⋯何だったんだろ、一体。
「⋯⋯なんか良く分からんけど、助かったぽい?」
「⋯⋯ひとまず良かった、のかな?」
リンちゃんと2人で顔を見合わせる。この時は移動教室の直前だったこともあってすぐにそこを立ち去った。
⋯⋯ちなみに、グラウンドに男子生徒の制服が何着か捨てられているというちょっとした騒動も後に発生していた。あーしもリンちゃんも「マジ誰のなんだろーね?」とか言って知らないフリしてたけど。
⋯⋯それからというもの、何度も同じ先輩たちがしつこく絡んで来た。けれど不思議なことに、毎回パンツ一丁になって帰って行く。
最初は先生が助けてくれたのかなって思ってたんだけど、もし先生ならそんな面倒なことせずに普通に注意しにくるよね。
何度も助けられる内に、どうやら先輩たちが服を剥ぎ取られる直前にナイフみたいなモノが後ろから飛んで来ているのが見えた。だけど先輩たちは倒れたり血が出るどころか刺さったことに気付いてすらいないっぽくて、服が消えるとナイフも一緒に消えていった。
「⋯⋯どう思う?やっぱ誰かの能力だよね〜?」
「ん、流石にそれしか無い」
昼休み、お昼ご飯を食べながらリンちゃんと相談する。あーしは自分で作ったお弁当、リンちゃんは購買で買ったパンをもぐもぐと食べながらの雑談だ。
「どーしよ、お礼とか言った方が良いのかな?」
「お礼して欲しいなら助けてからすぐに姿見せるんじゃないの?」
「まあ、確かに」
でもでも、もう何度も助けて貰ってるんだし、このまま知らんぷりするのも気が引けると言うか⋯⋯。
「てか、見られたくないから隠れてるんしょ」
「あの先輩たちからはともかく、何であーしらからも隠れるの?」
「さあ?校則違反でチクられたくないからとか?」
⋯⋯能力を使っているということは装束に着替えている。つまりは歷とした校則違反だ。悪いのは間違い無くチンピラみたいなことをやっている先輩たちの方だけど、バレた時に何もお咎め無しというのも流石に無いか。
けど何だろう、何となくだけど違う気がする。もっとこう、根本的な⋯⋯。
「⋯⋯正体を知られたくない、とか」
「それこそ、なんで?」
「え〜?なんでって言われても、⋯⋯正体とか能力がバレたら困ることがあるんじゃないの?」
ただの思いつきだからそこまで深堀らないで欲しい。⋯⋯ってかリンちゃんの場合、それも分かってて聞いてるんだろうけど。
「てか、その人探す感じなん?」
「え?あ、どーだろ⋯⋯」
普通に考えればそこまでする必要は絶対に無い。あーしらにとっても、助けてくれた人にとっても、このまま平穏に過ごせるのが一番だと思う、⋯⋯けど。
「探した方が、良い気がする」
「根拠は?」
「⋯⋯⋯⋯勘」
リンちゃんが呆れたように溜息を零す。いつもこうやってあーしが巻き込んじゃうのは、申し訳ないって思ってるよ?
「⋯⋯結局いつものね」
「⋯⋯あはは、ごめんごめん」
だけど知ってるでしょ?あーしのカンは、良く当たるんだから!
× × ×
「⋯⋯ん、んぅ」
「⋯⋯あ、起きましたか?」
「ふぇ?」
ぼんやりとした気持ちの良い微睡みから目が覚める。あれ?あーし、何してたんだっけ⋯⋯。
寝ぼけ眼に写ったのは、穏やかな春の風にふわりと揺れる黒髪のポニーテールと、吸い込まれそうなくらいまん丸で綺麗な黒い瞳。
まだ重い瞼と頭をゆっくり持ち上げると、目の前にはなぜかしぃちゃんが居た。
「もうとっくに放課後ですよ」
「え、えぇ!?なんで〜!?」
「なんでって、月島さんがHR終わってもずっと寝てたからじゃないですか」
「な、なんで起こしてくれなかったの!?」
時計を見たらもう30分以上終業の時間を過ぎている。つまりそれまで皆から放置されてずっと寝てたということだ。
「⋯⋯すみません。あまりにも気持ち良さそうに寝ていたから、つい」
「⋯⋯へ?」
な、なんでだろう。なぜか分からないけど急に恥ずかしくなってきたかも。寝顔なんてリンちゃんにはもう何度も見られてるのに⋯⋯。
「水倉さんに聞いたら、月島さん今日はオフだからそのまま寝かせといて良いよって言われまして⋯⋯」
「ぐぬぅ、リンちゃんめ⋯⋯」
アイツめ、こうなると分かってて放置したな〜??⋯⋯まぁ、そもそも授業中から今に至るまでずーっと居眠りしてたあーしが悪いんだけど。
「放ったらかして帰るのも忍びなかったので、待ってたんです」
「すみません、やっぱりすぐ起こした方が良かったですか?」と、少し不安そうに尋ねてくるしぃちゃん。そのちょっぴりオドオドした姿からは、大胆不敵、傲岸不遜という言葉がぴったりなあのアルセーヌと同一人物だとは到底思えない。
⋯⋯きっと遠慮してるんだと思う。アルセーヌの時は一人称も『俺』だったし、口調もなんというか男の子みたいな感じだったから。
その辺はもっと仲良くなれば自然に解決すると信じて、彼女がもっと心を許してくれるのを待つしかないのかな。
「最近色々あったからな〜。疲れてるのかも?」
「確かに、色々ありましたね⋯⋯」
それぞれが記憶を思い起こす。さっきの夢のこともあったからか、あーしが思い出すのは多分しぃちゃんが思い出してるのよりも少ーしだけ前の記憶。
先輩たちをパンイチにした犯人を特定するのは意外と難しくなかった。⋯⋯だって、勇者のリストは漏れなく政府が公開してるからね。
あとは公開されてる範囲でこの学校の生徒とこの辺が担当地区の勇者の情報を照らし合わせて、年齢、武器、能力とかからそれっぽいのを絞っていくだけ。
⋯⋯その結果、生徒情報に何も載っていない坂富 志衣奈という同じクラスの生徒と、最近突然デビューして若干巷を騒がせているらしい『アルセーヌ』という野良の勇者が結び付いた。
というか条件に当てはまらなさそうな人たちを除外していった結果、しぃちゃんを含めた数人の生徒、それからアルセーヌを含めた数人の勇者だけが残った。それで、その中でも特に怪しかったしぃちゃんに狙いを定めたって感じ。
教室でのしぃちゃんは割と大人しめな感じだったから、最初にアルセーヌの動画を見た時は流石に別人かとも思った。
だけど顔は隠れていても、⋯⋯その、類まれなるスタイルがもう完全一致過ぎて『やっぱこの子じゃね?』ってリンちゃんと一緒に納得しちゃった。
⋯⋯てのは半分くらい冗談で、ナイフを投げたり相手の武器を奪ったりする戦い方が、先輩たちにやったのと凄く似ていると思ったのだ。
それで最初は仲良くなるところから始めようとしたんだけど⋯⋯。
色々あって、ぜーんぶバラしちゃった。本当はしぃちゃんから打ち明けてくれるのを待ってるつもりだったんだけど、ついムキになっちゃって⋯⋯。
⋯⋯まあ、その結果もっと仲良くなれたし、結果オーライだよね??
「⋯⋯ふぁあ、なんか私も眠くなってきました」
「ずっと起きて待っててくれたんだもんね」
眠そうに目をしぱしぱとさせる度に長い睫毛がふわりと揺れる。校外学習の時に聞いたけど、これでノーメイクとかマジでずるくない?
⋯⋯結局、しぃちゃんは自分が物凄く憧れていた勇者学校の治安が悪いのが耐えられなくて、見回り程度に不良っぽい生徒を懲らしめていたらしい。
彼女にとっては本当にその程度のことで、助けた生徒のことは一々覚えていなかったみたい。
だけど、あーしにとってはとても重要なこと。
ありがたいことに、クラスの皆はあーしをいっぱい頼ってくれるし仲良くもしてくれる。あーしも毎日楽しくて、ついいっぱい笑っちゃう。
⋯⋯けど、もしあの時あーしが問題を起こして『不良生徒』と皆に認識されていたら。1年生で唯一のレベル3勇者が、とんだ問題児だったとしたら?きっとまた同じ事になってた。
つまり、あーしの今の楽しい日々は、しぃちゃんが与えてくれたもの、⋯⋯ってのは流石に言い過ぎかも知れないけど、要するにあーしはそのくらい感謝してるってコト。
───今になって思えば、余計な据なんて全部無視して自分の助けるべき人を助ける。そんな勇者としての姿勢に、無意識の内に惹かれていたのかもしれない。あーしの中でいつの間にか曇ってしまっていた勇者像を照らしてくれた、そんな気もする。
「⋯⋯ありがとね、しぃちゃん」
「んぇ?急にどうしたんですか」
「んーん、言いたくなっただけ」
「そ、そうですか⋯⋯」
ほんのり頬を赤らめて顔を背けるしぃちゃんは物凄く可愛い。ほんと、こんなの男子が見たら一発で惚れちゃうよ?
あーし1人だけがこの顔を見れてると思うと、ちょっとだけ優越感を感じるかも、なんて。
「そろそろ、帰ろっか」
「は、はい!そうしましょう」
本当はもう少しお話してたいけど、あんまり遅くなっても困らせちゃうもんね。あーしもママが心配しちゃうし。
「2人で帰るの、初めてだね〜」
「⋯⋯そう言えばそうですね」
しぃちゃん大抵1人で先に帰っちゃうから⋯⋯。お互い勇者のお仕事もあるから微妙に予定も合いづらいし。
「ふふっ、寄り道しちゃう?」
「えぇ?校則違反ですよ?」
「バレないバレない〜」
しぃちゃんは押しに弱いから、少し強引に手を引けば困惑しつつも着いてきてくれる。だけどその顔はちょっぴり嬉しそう。
⋯⋯ママには後で連絡しとけばいっか!
─────今だけは、もうちょっとだけこの時間が続いて欲しい。そう思いつつ、2人きりの寄り道を楽しんだ。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
別にこの話と関係がある訳ではないんですけど、筆者はTSも百合も大好物です。別に関係は無いんですけど。




