Ep2-28 最高の結果
「⋯⋯やった、のか」
「流石に、終わったっしょ⋯⋯」
「⋯⋯守れたん、だよね」
相当離れていた筈のここまで轟くような爆発。盛大に撒き上がった粉塵が晴れると、既にそこには何も居なかった。
⋯⋯いや、違った。ある。巨大な赤黒い魔石だ。形は何だかボコボコとしており普通の物とは若干異なるが、それは間違い無く黒馬を倒したという証明。
「「「つ、疲れたぁぁあ⋯⋯」」」
何しろ全員限界まで戦っていたのだ。スウィートもリンドウも魔力はほぼすっからかんだし、俺は魔力こそ残っているが一番激しく動き回っていたため身体的にはもうヘトヘトである。
俺たちがあの黒馬を対処していなかった場合、きっと奴は狭間の世界を暴れ回っただろう。最悪の場合は表の世界まで滅茶苦茶になっていた可能性すらある。
⋯⋯まあ流石にそうなるまでには辻宮先生が呼んでいるであろう援軍が到着していただろうが、もしもの話だ。
「ヤバくない?マジであーしらだけで倒しちゃったよ〜!」
「⋯⋯ほとんどアルセーヌのお陰だけどね」
「⋯⋯いや、俺だけじゃ敵わない相手だった。間違い無く3人で掴んだ勝利だよ」
俺では時間は稼げても倒すのはほぼ不可能に近かった。スウィートの火力とリンドウのサポートが必要不可欠だったのは間違い無い。
「⋯⋯戦闘終わったし、もう撮られてないよね?」
「そもそもプライベートだったり、戦いに関係無い部分はカットされている事が殆どだな」
スウィートは「そうなんだ」と少し安心したように息を吐くと、ゆっくりと姿勢を正してこちらを向いた。⋯⋯一体どうしたのだろう?
「⋯⋯ありがとね、しぃちゃん。助けに来てくれて」
「ど、どうしたんですか、急に?」
本当にどうしたのだろうか。唐突過ぎて敬語に戻ってしまったじゃないか。
「だって、秘密だったんでしょ?しぃちゃんがアルセーヌだってこと」
「⋯⋯ああ、その事ですか」
⋯⋯まあ、出来れば誰にも知られたくなかったのは事実だ。とは言え2人の様子を見る限り、何故か最初から俺の正体を知られていたようだから、結果的には情報の流れや関係性などは全く変化していない事になる。
要するに、特に問題無しという事だ。
「⋯⋯本当は、あーしだけで勝ちたかった。しぃちゃんの秘密を、守ってあげたかった」
「⋯⋯それは月島さんのせいではないですよ」
「だけどあーし1人じゃどうにもなんなくて。⋯⋯リンちゃんやしぃちゃんが助けに来てくれた時、正直めっちゃ嬉しかった」
「茶瑠兎⋯⋯」
「⋯⋯情けないよね。あれだけ啖呵切っといて、1人じゃ時間稼ぎどころか、逃げることすら出来なかった」
普段の意志の強そうな雰囲気はなりを潜め、眼から大粒の涙を流し始めるスウィート。⋯⋯だけど、違う。違うのだ。
「⋯⋯それは違います」
「え⋯⋯?」
黒馬との戦闘中、心の片隅でずっと考えていた。『そもそも最初から俺が残っていれば全て丸く収まっていたのでは?』と。
「クラスメイトや他の勇者たちに、私がアルセーヌだとバレたくないというのは確かに本心です。⋯⋯けどこれは、過度に注目されたくないとか、身バレした際の面倒事を嫌っているからなんです」
「⋯⋯うん、知ってるよ」
「大切な人を、そして自分の身の回りの平穏を守るために私は勇者になりました。そのために、勇者の力を喉から手が出る程に渇望しました」
「「⋯⋯」」
月島さんも水倉さんも黙って俺の話を聞いてくれている。⋯⋯あまり長々と話をするのは得意ではないのだが、今更辞める訳にもいくまい。
「⋯⋯私は、自分の保身のために一度逃げました。それが友達を危険に晒す行為だと分かっていたにも拘わらず」
「⋯⋯それは、仕方無いよ。秘密だったんだから」
「いいえ。⋯⋯いいえ、違います。正体を隠さなきゃだとか、力を秘密にしながら勇者をやるのは大変だとか、⋯⋯そんな下らない葛藤をするために、俺は勇者になったんじゃないっ」
思わず拳を固く握り締めてしまう。手袋の摩擦でギュッ、と音が鳴るが、俺はそれに気付く余裕すら無かった。
「⋯⋯少しばかり、調子に乗っていたんです。他よりも少しだけスタートラインが前だったから、自分が優秀だと勘違いしたんです。自分なら間に合うだろう、大丈夫だろう、と。結果、もう少しで大切な友達を失ってしまう所だった」
「⋯⋯あーしたちはちゃんと助けて貰ったよ?」
「それは結果論の話です。時間稼ぎに最も適した私が殿として残っていれば、その危険すら存在しなかった」
⋯⋯そう。最初から俺が残っていれば、皆が狭間の世界を脱出するなり、援軍が来るまで時間を稼ぐ事はきっと造作も無かった。今にして思うと、第一段階の黒馬の攻撃など全然大した事ないのだから。
「でもそれはあーしがワガママ言って残ったからだよ。⋯⋯先生だったら、絶対にもっと適切な判断ができた」
あーしが、私が、と互いが互いに自分の責任だと言い張る。俺も月島さんも、変なところで頑固な部分があるのかも知れない。
「⋯⋯勝ったんだから良くない?」
「「え⋯⋯?」」
1人黙って話を聞いていた水倉さんが、そこで口を挟んだ。その顔は、悲しそうにも、少しばかり怒っているようにも見える。
「2人とも仮定の話ばっかりしてるけどさ。『3人の内誰も欠けずに黒馬を倒した』。これが一番最善の結果だったんじゃないの?」
「⋯⋯それは」
「そうだけど⋯⋯」
「そりゃ危ない場面もいっぱいあったけどさ。皆が頑張って、頑張って、どんな最良の仮定も上回る最善の結果を出せた。これじゃダメなの?」
「「⋯⋯っ」」
「少なくともウチは、2人がもし違う選択をしていたとしても、今より最高の結末になっていたとは思えない」
だからそんなに今の自分を責めるのを辞めろ、と。言外にそんな気持ちが強く伝わってくる。⋯⋯確かに、水倉さんの言う通りだな。
「⋯⋯私たち、難しく考え過ぎていたのかも知れませんね」
「⋯⋯ふふっ、そだね」
気付けば2人とも少し泣いていた。水倉さんも、ほっとしたのかそんな俺たちを見て瞳を潤ませている。
「帰ろっか」
「はい、帰りましょう」
「⋯⋯早く帰って寝よ寝よ」
俺たちが侵入して来た狭間の世界の出入口までは若干遠いが、まあ急ぐ必要も無いしゆっくり帰れば良いだろう。
俺も帰ってゆっくりシャワーでも────
「─────こちらレベル4スカーレット、緊急支援要請により参りました!⋯⋯声が聞こえていたら応答をお願いしますっ!」
その時、綺麗だが芯があり良く通る声が周囲一帯に響き渡る。どうやらやっと援軍が到着したらしい。⋯⋯ん?スカーレット??
「はーい、こっちこっち!ここだよ〜!」
月島さんが手を振って自分たちの位置を知らせる。その声を聞いてすぐに、赤を基調としたドレスアーマーに燃えるような紅髪を靡かせた女性、勇者スカーレットが月島さんの目の前へと降り立った。
「良かった、無事だったのね。⋯⋯早速だけど、推定レベル4相当の新種大型魔物が出現したと聞いて来たのだけど、何処へ向かったのか分かるかしら?」
さっき聞こえた爆発音が関係しているのかしら、と微妙に外れてもいない事を呟いているが、そう考えるのも自然な事だろう。⋯⋯まさか既に倒された後だとは夢にも思うまい。
「あっ、それもう倒しちゃったよ〜」
「さっきだけどね」
「倒した!?⋯⋯そんな、レベル4を!?」
驚愕するのも当然だ。本来であればレベル3が数人集まった程度で倒せる程、レベル4の壁は薄くないのだから。
「貴方たちの情報は辻宮先生から聞いているわ。⋯⋯失礼だけど、レベル4の魔物をレベル2と3が2人だけで倒したと言うの?」
「「⋯⋯2人?」」
月島さんと水倉さんが揃って疑問の声をあげる。そしてキョロキョロと周りを探しているが、既に俺、アルセーヌの姿はそこには無かった。
なぜかとてもとても長い時間が経過していたように感じますが、実際の戦闘時間は30分〜1時間程度だと思われます。
その時間で辻宮先生が表の世界に帰還し援軍を呼んでから、非番にもかかわらず(文字通り)飛んで駆けつけてくれているので、スカーレットは恐らく相当急いだ事でしょう。
ここまで読んで下さってありがとうございます。これにて2章は完結となります。この後はいくつか閑話を挟んだ後、ゆるゆると3章へ入っていく予定です。
感想とか全然書かなくても良いので、『( ゜∀゜)o彡』とコメントしていってくれると嬉しいです。




