Ep2-25 校外学習ex-7
「⋯⋯これで倒せないのか」
ゆらり、と何かが暗く光る。それは徐々に大きくなり、軈て煙の中の黒馬の影が激しく揺らめきだす。
少し嫌な予感がしたので、一旦スウィートたちの元に転移する。2人も同様に考えていたのか、建物の影に隠れて警戒を顕にしていた。
「アイツ、また変身するかも」
「変身?」
「そそ。あーしらがでっかいダメージ与えた時に、触手が増えたりしたんよね〜」
多分そうだろうなとは思っていたが、やはりスウィートたちがダメージを与えた事が切っ掛けで黒馬の姿が変化していたようだ。
となると、この怪しい光や影の動きも─────
「Gyaroooooooonッッ!!」
「きゃあっ!?」
「マジやばっ⋯⋯!?」
咆哮と共に爆風が吹き荒れる。周囲に漂っていた粉塵は瞬く間に霧散し、近くの地面や建物などはその衝撃だけで破壊されてしまう。
「大丈夫かっ!?」
「平気平気っ!」
「隠れといて正解だったわ」
退避の判断が早かったためか、何とか全員被害を受けずに済んで良かった。
「それにしても⋯⋯」
「まーたキモくなったね〜」
「てかキモい超えてもはやグロくね?」
骨兜は完全に砕け、代わりに罅から漏れ出していた漆黒の炎が頭を覆っている。更にそれと繋がるようにして、首の付け根辺りまで黒炎の鬣が広がっていた。
触手は更に倍ほどに増殖し、形も滑らかだったのがなんと言うかボコボコしたものに変化している。
硬質な結晶のようだった脚部には歪な棘が生えていて、より凶悪なフォルムとなっていた。
⋯⋯確かにリンドウの言う通り、まるで赤黒い肉のような醜さも相まって、生理的な嫌悪感を抱かせる姿となっていた。
「ん?触手に何か⋯⋯」
⋯⋯あれは、花?
触手の各所に、先程までは無かった紅色の花が咲いているのが見られる。触手の数が凄まじいため、花の方もそれはもう大量に咲き乱れていた。
確かに、どちらかと言えば植物っぽい見た目をしていた触手に、花が咲くというのは一応納得出来る話ではあるが⋯⋯。
──────ギョロッ
「ひっ⋯⋯!」
「うわ、蓮コラじゃん⋯⋯」
突如として花の中央が一斉に横に裂け、中から目玉が現れた。全ての眼が別々の方向をギョロギョロと見回している。スウィートが視覚的恐怖のためか小さく悲鳴を上げたが、蓮コラ、⋯⋯所謂集合体恐怖症ではない俺でもこれはかなりキツい。
「Gyaroaaaッ!!」
「っ!来るぞ!」
黒馬が背中に生えた無数の触手を地面に向かって突き刺した。⋯⋯何をしているんだ?
すると何やら地響きが起こり出し、それは徐々に大きくなる。と言うよりも何かが近付いている?⋯⋯まさかっ!?
「下だ!避けろっ!!」
「きゃあっ!?」
「マズイかもっ⋯⋯!」
──────ズドドドドドドッ!!
地中を貫き触手が一斉に飛び出す。極大の肉の槍のようになったソレは、花の眼の影響か避けても避けてもこちらを追跡して来た。
⋯⋯しかも俺を特に警戒しているのか、明らかにスウィートやリンドウよりも俺を狙っている触手の数が多い。
破壊するために、いつも通り【盗む】で触手の1本を毟り取る。それを何度も繰り返して一段落と思われたその時、初めの方に千切った触手が既に再生している事に気が付いた。
「⋯⋯マジか!」
高い追尾性能に加えて壊しても再生持ちとか、厄介過ぎるだろ!マジでどうやって対処すれば良いんだ!?
「Gyaruaaaッッ!!」
「本体も来るのかよぉっ!?」
その巨体で周囲の地形を破壊しながら突進をする黒馬。
⋯⋯せめてスウィートたちを巻き込まないようにしないと!!
「狙いは⋯⋯やっぱ俺だよな!」
【神出鬼没】で何度転移しても追い掛けられる。かと言って見失うほど遠くに転移するとスウィートたちに標的が移ってしまうかも知れない。
「流石にこの数はキツいなっ⋯⋯!」
俺を狙い続ける触手は恐らく50は下らない。しかも非常に広範囲に展開されており、俺が逃げれば逃げるほど多くの触手が反応する。
苦し紛れに分裂のナイフを投げるが、花を幾つか壊しただけで触手には傷一つ付きもしない。
⋯⋯ん?でも今──────
──────ドゴォッ!
「⋯⋯ぁがっ!?」
ほんの一瞬気が逸れた瞬間、真後ろから迫っていた触手に気が付かずに被弾してしまった。
「Gyuroaaaッッ!!」
「⋯⋯っ!」
しかも最悪な事に、飛ばされた先は丁度黒馬が迫っている方向。
幸い突き刺さりはしなかったものの、強い衝撃で肺の中の空気が一気に押し出され、更には一瞬意識が飛びかける。
⋯⋯そして戦闘においては、その一瞬が命取りとなる。
「⋯⋯ゃば、間に合わ──────」
──────カシャッ!
「Gyaruaaaッ!?」
「⋯⋯っ!止まった!?」
唐突なフラッシュ音が鳴り、黒馬の動きが不自然に停止する。
止まっていた時間はほんの1秒にも満たない僅かな間だったが、それだけあれば【神出鬼没】で転移するには十分だ。
「大丈夫っ!?」
「悪い、助かった!」
スウィートの近くに転移すると彼女は焦ったように尋ねてくる。お陰様で無事だったので素直にお礼を伝えておく。
「これで借りはチャラかな〜?」
「借り?⋯⋯ああ、アレか」
恐らく、先程触手に捕まっていたスウィートとリンドウの2人を助けた時の事を言っているのだろう。
「別にあんなの貸しでも何でもないから気にしないでくれ。⋯⋯それよりもだ」
そう、態々彼女の元へ転移して来たのは礼を言うためだけではない。戦闘中に少し気付いた事があったため、情報の共有をしに来たのである。
「ん〜?どしたん?」
「多分だけど、花を壊せば触手の追尾性能は大幅に弱体化する」
「マジ!?超助かる〜!」
さっき苦し紛れに投げた分裂のナイフが偶然触手の花を壊した際、明らかに他よりも動きが鈍くなっていた。
まあ、考えてみれば花が咲いて性能が上がったならば、壊れたら元通りというのは分かる話である。
⋯⋯それに気を取られて触手からの攻撃に被弾してしまったのは非常に情けないが。
回避に専念すれば最強クラスとも言える【神出鬼没】だが当然弱点、⋯⋯と言うよりも被弾してしまう場合もある。
まず、意識外からの攻撃。発動が自動ではなく手動である以上、俺自身が認識していない攻撃までは流石に躱せない。先程のように何かに気を取られる等の要因でスキルが発動出来なかった場合も同様だ。
そして、俺が対応し切れない程に大量の攻撃。結局は俺の反応速度がものを言う以上、それを超える物量で攻められると普通に食らってしまう。
但し、これは何らかの理由により攻撃範囲外まで退避出来ない状況に限る。今回の場合はスウィートたちを巻き込む可能性があったためだ。そうでないなら、早々に大きく距離を取ってしまえば済む話だからな。
他にも転移距離がそこまで長くないため、転移可能エリア全域を覆うような超大規模範囲攻撃とかをされるとどうしようもないが、そんなものは転移スキル云々の話ではないし、そもそも滅多にあるものでもない。
⋯⋯と、俺のスキルについて語るのは後にしよう。今は戦いに集中しないと、また攻撃を受けてしまっては洒落にならないのだから。
先の設定を考えていたら今の話が進まなくなるというジレンマが...
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