Ep2-22 校外学習ex-4
「残りの触手もやっとくか」
スウィートとリンドウを助ける時にも使った連続転移を、今度は触手の処理のために行使する。さっきは彼女たちを助ける必要があったから余裕が無かっただけで、【盗む】が通用する大きさの相手には基本的に俺は滅法強い。
転移して毟る。転移して毟る。幾度もそれを繰り返し、少なくとも視界内に触手が写らなくなった辺りで元の場所に戻って来た。
「取り敢えずこんなもんか?」
「すごっ!仕事早過ぎでしょ〜!」
「ウチらの苦労返せし」
手袋をしているとはいえ、これはあまり手で触りたいものではないな。ビチビチ動くし、なんか妙に生温いし。次からは別の方法考えるか⋯⋯。
「それとこいつも拾ってきた」
『ーーーーっ!』
「アミちゃんっ!良かった、無事だったんだ〜!」
『〜〜〜〜っ!』
触手の群れに囲まれていたから、ついでに助けてきた。この子は初めて見たけど、スウィートが似たようなぬいぐるみを後ろに連れているから仲間だと判断したのだ。
ぎゅっと抱き合うスウィートとぬいぐるみ2体。操っているとかではなく明確な意思を持っているっぽいから、俺が出す鳩と同じで彼女の眷属なのだろう。
⋯⋯見た目は可愛いけど、こいつら結構強いな。残念ながら射程と数の暴力に晒されて押し負けてはいたが、純粋な近接戦闘であそこまで耐え忍ぶのは少なくとも俺では無理だ。
かなり魔力が込められているから、恐らくレベル3スキルに関係する何かだと思う。お菓子もそうだったけど、スウィートは召喚系のスキルがメインなのかな?
「Curoooooonッッ!!」
「⋯⋯悠長にしてる余裕は無さそうだな」
「また突進〜!?」
こちらとしては、あの巨大質量を防御する手段なんて持っていないから、触手とか種の攻撃よりもシンプルにあの図体で突撃された方が遥かに厄介なんだよな。
「取り敢えず俺が引き付けるから、その間に2人は逃げて─────」
「嫌だ!あーしも戦うから!」
「はあ!?なんでそうなるんだ!?」
ここから先はバトンタッチで俺が黒馬の相手をする予定だった。と言うか今だってそのつもりだ。
「アイツはどう見てもレベル3なんかじゃない!適正レベルを越えた魔物との戦闘は危険度が跳ね上がるんだぞ!?」
彼女からすれば完全に部外者である俺に獲物を奪われるというのは癪かもしれないが、本来の目的は足止めと時間稼ぎなのでどうにか納得して欲しいところなのだが⋯⋯。
「キミだってレベル3でしょ!危険なのは一緒だかんね!?」
「俺は転移スキルがあるから、逃げようと思えばいつでも逃げられるんだよ!」
戦いから逃走するというのは可能な限り取りたくない選択肢だが、自分の手に余る相手を前にしてまで意固地になるようなものでもない。少なくとも俺が時間を稼ぐことで救われる何かがあるのなら、それは十分『仕事を果たした』と言えるから。
そもそも、俺以上に時間稼ぎに向いたやつもそういないだろう。だって【神出鬼没】で逃げ回るだけでも凡その目的は達成出来るだろうから。
⋯⋯勿論、これは最終手段の話であり最初から逃げの一手を打つつもりは毛頭無いが。
「『絶対逃げない!』って眼しといて、何言ってんの!!」
「なっ!?何を根拠に⋯⋯」
「ちょ、今は喧嘩やめな?」
⋯⋯そうだ、今はこんな事をしている場合じゃない。黒馬はもうすぐそこまで迫っているのだ。
「一旦話は後だ!避けられるよな?」
「触手さえ無ければあんなの食らわないし?」
「楽勝よ」
各々が散開し、黒馬の突撃を避ける。そのまま通り過ぎて行くかと思われた巨大な影は、なんと8本の脚を高速で動かして器用にも俺のいる方へと方向転換して来た。
「えっ!?こっち来んの!?」
迫る極大の質量攻撃を【神出鬼没】も駆使して躱し続ける。前脚や背中の触手による連続攻撃は、先程の種飛ばしとは比較にもならない程に一撃の重さが違う。
攻撃の合間に【盗む】で黒馬の脚や触手を削り取れないか試してみる。
しかし触手はちょこっと削った程度では一瞬で再生するし、見るからに硬質そうな脚に至っては、恐らく魔力的な耐性が非常に高いためにスキルが弾かれてしまった。こんな所でも相手の方が格上だと認識させられるのか⋯⋯!
「⋯⋯本当に厄介だな」
「ちょっと、大丈夫!?」
「明らかに狙われてたね」
一旦体勢を立て直すために離脱する。黒馬からは見えない建物の陰に転移したところに、少し離れた場所に居たスウィートとリンドウが駆け寄って来た。
「見ての通り問題無いよ」
「流石ぁ!」
「マジ神業」
神業かどうかはさて置き、これで俺1人でも戦えるという事をある程度は示せただろう。なのでこのまま2人には離脱して欲しいのだが⋯⋯。
「あ、だからってキミに任せてあーしらが逃げたりはしないからね〜?」
「⋯⋯何故バレたし」
「顔に出すぎっしょ」
⋯⋯え、そんな分かりやすく表情に出てたの?上半分だけとはいえマスクも被っているのに??
「ポーカーフェイスのつもりだったのに⋯⋯」
「⋯⋯あ〜、まあ他の人にはそんな分かんないよ、多分」
「ウチらが特殊だから」
若干気まずそうに顔を見合わせる2人。⋯⋯もしかすると気を遣ってくれたのかも知れないが、その気遣いが逆に真実味を帯びさせてしまっている。
「いやほんとほんと!だってあーしたち⋯⋯」
「そ、そんなしょげる程じゃないし!」
「あ、ありがとう⋯⋯」
優しさが心に染みる。⋯⋯ま、まあそんな事は一先ず置いておいてだ。
「⋯⋯兎に角、俺が1人で戦う!これは譲らないからな!」
「あー!まだそんなこと言ってるし〜!?」
「マジ頑固者」
⋯⋯彼女たちに正体を隠し続けるために一度離脱した俺が言える立場でないのは承知している。しかし、友達をみすみす危険に晒したくはないのだ。どうか分かって欲しい。
「⋯⋯俺は2人のために言ってるんだ」
「⋯⋯⋯⋯は??」
⋯⋯先程までの、緊張しつつもどこか和やかだった雰囲気が一瞬にして霧散する。声の主であるスウィートの顔は強ばり、ピリピリとした空気が漂い始める。
「あーしたちを危ない目に遭わせたくないからさっさと逃げろって?⋯⋯舐めんじゃねーしっ!!」
拳をぎゅっと握りしめて声を張り上げるスウィート。興奮のせいか頬は少し紅潮し、目にはうっすら涙すら浮かんでいる。
「すまん、言い方が悪かった。決して2人が弱いとかそういうつもりじゃ⋯⋯」
「そんなこと分かってるっ!あーしが言いたいのは、あーしたちも同じ気持ちだってことっ!!」
「⋯⋯ウチもそれは同意かな」
スウィートほど直接的ではないが、リンドウの方も静かに怒気を表しているように感じる。
⋯⋯彼女たちが見ず知らずの俺の事まで考えられる優しい子たちなのは分かったが、こちらとしても『はいそうですか』と頷く訳にもいかない。
「⋯⋯何も分かってないし」
「ま、認識の相違ってやつっしょ」
2人が小声で何やら話しているが、俺の元までは届かない。
「もういいっ!そこまで譲るつもりが無いなら、こっちにだって考えがあるからっ!」
「スウィート、熱くなり過ぎ」
「その考えとやらが何か知らないけど、俺だってそう簡単に──────」
「しぃちゃんが『アルセーヌ』だってこと、皆にバラしてやるっ!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぇ??」
「ちょ、茶瑠兎!それはっ⋯⋯!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え???
「俺だってそう簡単に⋯⋯」(ドヤ顔)
戦闘、進まなかったね...(諦め)
次こそはきっと...
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