Ep2-20 校外学習ex-2
「⋯⋯そろそろ良いか?」
黙々と狭間の世界の出口、いや、入ってきた場所だから入口か?⋯⋯どっちでも良いか。出入口を目指す集団から、俺だけがそっと背を向けて離れる。
最後尾のクラスメイトが見えなくなった辺りで装束を纏い、勢い良く走り出した。
「⋯⋯マモ様、居るんだろ?」
「ああ。何やら厄介事の臭いがするな」
「流石、良い鼻してる」
「⋯⋯巫山戯てないで早う説明しろ」
大まかにだが、校外学習、特に狭間の世界に入ってからの出来事をマモ様に話す。
因みに、マモ様は呼べばいつでも何処でも大抵の場合は来てくれる。曰く、契約者と強い繋がりを持つと、その繋がりを通じて契約者の元に一瞬で移動が出来るのだそう。
何とも便利な能力だが、それってもしかして俺のプライバシーは全部マモ様には筒抜けって事?だとしたら割と真剣に嫌なんだけど⋯⋯。
「おい、何を呆けているのだ」
「あっ、ごめん。ちょっと考え事を⋯⋯」
「全く⋯⋯」
走りながら話す俺の肩の上で、やれやれと呆れるマモ様。結構揺れるだろうに、微妙に器用な事をするのはやめて欲しい。
それはともかく、マモ様もあの黒馬については分からないそうだ。今は丁度建物の影になって見えないけれど、もう少し近付けばすぐにあの巨大な体躯が覗くだろう。
「そもそも、魔物に全く見覚えが無いという事自体がおかしい」
「なんで?俺が全然戦ったこと無い魔物なら山程いるぞ?」
「そういう事ではない。⋯⋯例えばだが、考えた事は無いか?"何故、魔物の名前を聞けばある程度その姿が推測出来るのか"と」
魔物の名前を聞いて姿を推測?そりゃあ、過去に名付けられた際に、聞けばすぐ分かるような名前を付けたからじゃないのか?
「化蜘蛛等、既存の生物に似た魔物がいるのはまあ分かる。向こうの世界にも生態系があるであろうからな。⋯⋯だが、小鬼や大鬼、人狼等の、『空想の世界にしか存在しない筈の生物』がいるのは何故だ?」
「⋯⋯それも偶然、向こうの生態系で生まれたんじゃないのか?」
前にマモ様から聞いたけど、向こうは魔力があって当然の世界である可能性が高いんだよな?だったら、こちらではありえないようなファンタジー生物が生まれる可能性もあるんじゃないか?
「貴様はまだ出会った事は無いが、豚鬼や半人半馬、果てには天狗や塗り壁までいるのだぞ?それら全てが偶々生態系の中で生まれたと、本気で思うのか?」
「⋯⋯確かに、妙だな」
小鬼や大鬼はまだしも、日本特有の妖怪までそっくりさんが居るのは流石におかしいかも知れない。そのような魔物がいるという知識はあったが、言われてみると変だ。当たり前だが魔物はこちらの世界の生物ではないのだから。
「結論から述べるが、これは魔物が狭間の世界に渡る際に姿を変質させている事が原因だ」
「姿を変質??」
「ああ。奴らは自分たちの世界では、瘴気の塊のような曖昧な存在なのだ。それがこちらへ来て明確な個を確立している」
「⋯⋯それならどうして態々、こっちの世界の魔物になるんだ?」
「理由までは分からん。奴らにとって何かしら都合が良いのは間違いないだろうが⋯⋯」
「ふぅん、そっか」
俺はこれでも魔物対策学校普通科という超絶難関志望だったから、勇者関連、特に魔物に対しては人並み以上の知識がある。それなのにマモ様から、今まで聞いた事も無いような新しい情報が続々と出てくるのは少し複雑な気分だ。
⋯⋯まあ、一般人とマモ様では立場とかが違い過ぎるから仕方無いのだろうが。
「兎に角そういう事情で、そのような歪な魔物が出現するのは些か不可解なのだ」
マモ様がそう呟いた辺りで、正面の建物を越えたため視界が開ける。そうして見えたのは、何やらより一層不気味さの増した黒馬の姿だった。
「ふむ、あれが⋯⋯」
「⋯⋯なんか、触手増えてないか?」
俺が月島さんと別れる前よりも明らかに触手の本数が増えている。⋯⋯あと太くなってる?まあ何にせよ、キモイというのは変わらない。
「月s、⋯⋯スウィートが何かやったのか?」
原因があるとすればそれ以外考えられないとは思うが⋯⋯。
まあ良い。今は一刻も早くスウィートの元へ駆け付けるのが最優先だ。
「⋯⋯地面から触手が生えてる」
更に進むと、今度は黒馬の背中の触手を小さくして地面に植えたようなものが、道路や建物から生えているのを確認する。これもアイツの能力だろうか?
「急いだ方が、──────ってぅわっ!?」
そんな風に考えていると、突如として周囲の触手が一斉に俺に襲いかかった。
今は上手く避けられたが、これはもう少し警戒心を強くした方が良さそうだ。
「おい、急に跳ねるな。乗り心地が悪いであろうが」
「そんな事言ったって、触手が⋯⋯!」
十や二十じゃ済まないような数の触手が前後左右から高速で伸びてくるのはかなり厄介だ。1つでも避け損なうとそのまま全部の攻撃を食らいそうな予感がするし、何より回避のために進むルートが制限されるのが面倒。早くスウィートの援護に行きたいのに!⋯⋯って、ん?
「⋯⋯もしかしてアレ、スウィートじゃないか?」
密集した触手の更に先、黒馬に程近い地点にスウィート、⋯⋯と何故か勇者リンドウ(演習の時に教えて貰った)が居るのがかなり小さくだが見える。
「触手に捕まってる⋯⋯?」
しかもなんか物凄い勢いで黒馬が突進をしているような⋯⋯。
「あれ?これ不味いのでは⋯⋯?」
絶体絶命のピンチじゃないか!?ヤバい!マモ様と呑気にお喋りしている場合じゃなかった!
「急がないと⋯⋯!」
ふぅ、と息を吐き、少し集中する。⋯⋯マモ様は凄く嫌そうな顔をしているが、緊急事態なので許して欲しい。
──────ドシュシュシュッ!!
先程と同じように、俺に向かって触手が襲いかかる。⋯⋯しかし残念、既にそこに俺はいない。
丁度50メートル先の触手の傍に【神出鬼没】で転移し、【盗む】で触手を速やかに千切り取る。
そしてまた50メートル先の触手へと転移し、同じ事を何度も繰り返す。これによって、触手の群生地を強引に突破する。
【神出鬼没】で移動出来る範囲はターゲットから凡そ50メートル以内なのだが、【盗む】に成功した時点でターゲットの設定は外す事が出来る。
これを利用して、標的を次々と更新する事で高速の移動を可能にしているのだ。
弱点としては、分かりやすい目印が無いと転移出来ない事と、常にそれを探しているため非常に集中力を使う事。正直かなり疲れる。
「⋯⋯酔いそうだ」
「なら降りれば良いだろ、自力で着いてこれるんだから!?」
悪いけど今はマモ様の愚痴に付き合える余裕が無い。文句なら後で受け付けます!
「⋯⋯間に合うか!?」
既に黒馬は彼女たちの目前に迫っている。もはや殆ど無い筈の【神出鬼没】のクールタイムすら煩わしい。
「いや、間に合わせるっ!」
より効率良く、最速で移動しろ。一瞬のロスすら許されない!
「Curooonッ!!」
──────ズガガガァッ!!
高速で接近した黒馬が勢いそのままに8本の脚を叩きつける。地面は見るも無惨に蹂躙され、破壊によって撒き上がった粉塵が周囲を覆った。
一方その頃、的なお話。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
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