Ep2-16 校外学習ex-1
やっと、ここまで辿り着いた...
「何だ、全然来ねぇぞ?」
「何かあったのかな⋯⋯?」
「あの『英雄』に限ってそんな事⋯⋯」
カナンさんが中々合流しない事について囁き出すクラスメイト達。その顔には少しずつ不安の色が混ざり始めている。
普段ならそこまで憂慮する事は無いだろうが、ここが狭間の世界であり、魔物の出現が既に目前まで迫っているという事が影響しているのかも知れない。
「仕方無い。念の為に討伐許可申請を⋯⋯」
──────ピシッ⋯⋯
辻宮先生の言葉が途中で止まる。この何かが罅割れるような音は間違い無い。魔物が出現する前触れだ。
──────ピシッ、ビキッ⋯⋯
──────ビキビキッ、⋯⋯バキィッ!!
「Curururooonッ!!」
空間そのものが砕け散り、巨大な裂け目が生じる。けたたましい嘶きと共に、ソレは出現した。
「お、おい、まさかあいつじゃないよな⋯⋯!?」
クラスの男子が指差した方を見ると、そこには異形。⋯⋯そう、異形としか形容出来ないような姿の、巨大なナニカが居た。
⋯⋯強いて言うなら、馬に近いだろうか。
目測で全長20メートルはありそうなソイツは、頭に1本の角が生えた頭蓋骨のような物を被っている。
眼は左右に4つずつの計8つが着いており、その一つ一つがギョロギョロと周囲を見回している。
脚は8本あり、それらは一般的な馬の脚部ではなく、硬質で鋭利な凶器のようなものになっている。先が細い8本もの脚になっているのは少しだけ蜘蛛っぽいかも知れない。
そして背中からは幾本もの太く赤黒い触手が生えていて、それぞれが独立して不気味に蠢いているのが見える。
「何だ、アレっ⋯⋯!?」
「あんな魔物見た事無いっ⋯⋯!」
「レベル3だって言ってたじゃねえか!?」
クラスメイトが次々と悲鳴を上げる。恐怖が伝播し、中には殆どパニック状態に陥っている者もいる。
「これ、もしかしてヤバいやつ〜⋯⋯?」
「お、恐らくそうかと⋯⋯」
月島さんも若干声が震えているし、かく言う俺も何とか平常心を保つので精一杯だ。アイツは一体なんだ?
⋯⋯そもそも、本当にレベル3か?既存のレベル3魔物にこんな奴は間違い無く存在しない。どう見ても大きさならレベル4クラスだぞ?
「Carororororoッッ!!」
「「「キャアァァッッ!!」」」
「あいつこっち見てるぞっ!?」
暫定黒馬が咆哮を轟かせると、彼らのギリギリで押し留められていた恐怖心が決壊してしまう。勇者であるという矜恃も、どう見てもレベル差のある強大な魔物の前では、吹けば飛ぶ紙切れも同然なのだ。
「気付かれた!?」
「に、逃げろぉっ!!」
こちらから敵の全身が見えるという事は、裏を返せばあちらからも見えているという事。ゆっくりと振り向いた黒馬は、カツン、カツン、と足音を響かせながら俺たちの方へと進み始めた。
一目散に元来た方向に駆け出すクラスメイト達。そこには順序もへったくれも無く、ただ我先にと逃げ惑うばかりである。
「──────静まれェッッ!!」
ビリビリッ、と辺りの空気が震える程の声量で辻宮先生が声を張り上げた。
それによって、恐慌状態だったクラスメイト達が幾分か落ち着きを取り戻す。
「お前たち、分かっているとは思うが緊急事態だ。我々はこれより、速やかに撤退を行う」
普段の懶な態度はなりを潜め、至極真剣な顔付きで指示を出す辻宮先生。やはりこういう時は頼りになる存在なのだと、改めて認識させられる。
「殿は私がやる。道中の指揮は、⋯⋯月島、お前がやれ」
「はぁっ!?なんでそーなんの!?」
「このクラスで唯一のレベル3勇者で人望もある。適任だろう」
「そーゆー事じゃない!先生を置き去りなんて出来る訳無いじゃん!?」
辻宮先生の指示に反発する月島さん。⋯⋯そう、幾ら先生が強いとは言え今はもう一般側の人間なのだ。アレの前に1人で残る事が自殺行為に等しいのは、火を見るよりも明らかである。
「私は教師なのだから、生徒を守るのは当然だ」
「⋯⋯っ、それでも!そんなの出来ないし!」
「出来る出来ないの話ではない。これは命令だ」
月島さんはギリッ、と音が鳴る程奥歯を噛み締め、目には涙すら浮かべている。
⋯⋯どちらの言い分も分かる。その上でどちらにも引く気が無い事も伝わってくる。
「じゃあ、あーしが残る!」
「馬鹿を言うな。そんな事、許可出来る訳が無いだろう」
「あーしなら時間を稼げるし、先生よりも速く逃げられる!」
流石に引退して勇者の加護を失った先生よりは、現役のレベル3勇者のほうがあの巨大な魔物ともまともに戦えるし、もしもの時の逃走成功率も高いだろうが⋯⋯。
「それに、もし逃げる途中でまたあんなのが出てきたらどーすんの!?」
「⋯⋯む」
「あーしたちを逃がしたいなら、成功率が高い方を選ぶべきでしょ!?」
「⋯⋯っ」
⋯⋯確かに、今が既に想定外の状況だ。可能性は低いだろうが、新たな魔物が出現しないとも限らないのか。
険しい顔で黙り込む先生からは、葛藤している様子がひしひしと伝わって来る。
「⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯俺は、どうするべきだろうか。
仮に先生と月島さんのどちらが残ったとしても、申し訳無いがどう見ても推定レベル4相当の黒馬を足止めするには力不足だろう。
じゃあ俺が加勢して力が足りているか?と言われると微妙なところだが、どちらにせよアイツを放置は出来ないし、俺も参戦すべきなのは明白である。
⋯⋯しかし、それはつまり彼女たちに姿を晒すという事だ。
変身しているから即身バレとはならないだろうが、この校外学習と無関係の筈の『アルセーヌ』がここにいるのは少々不味い。
とは言え、『助けない』なんて選択肢は存在しない。ここまで色々と悩んだが、最初から俺の心はそう決まっている。多少のリスク程度、軽く踏み倒せずに何が勇者だ。
「⋯⋯分かった。殿は月島に任せよう」
「っ!ほんと!?」
「但し!少しでも危険を感じたら直ぐに逃げる事!これだけは絶対に守れ、良いな?」
「うんっ、任せて!」
悩んでいる間にどうやら、月島さんが残る方向で決定したらしい。
⋯⋯俺としてはまだ辻宮先生が残ってくれた方がマシだったのだが、決まってしまったものは仕方無いか。こうして悩んでいる間にも、ヤツは確実に迫って来ているのだから。
「これより全速力で帰還する!誰一人として遅れる事は許さん。食らいついてでも走れっ!!」
先生の合図と共に一斉に駆け出す生徒たち。月島さんが残るとなると、水倉さんの方が何か言い出さないかと少し心配だったが、彼女も後ろの方からしっかりと着いて行っているようで一安心だ。
「⋯⋯絶対に無理はしないで下さいね」
「もち!しぃちゃんも、ちゃんと逃げるんだよ?」
「?はい、分かりました」
せめて俺が戻ってくるまでは無事でいて欲しい。
非常に後ろ髪を引かれる思いではあるが、最後尾の生徒の更に後ろを追い掛けるように俺は走り出した。
黒馬くん「(まだかなあ⋯⋯)」
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