Ep2-15 校外学習⑦
少しの間休憩を摂った後は、遂に今回の校外学習の目玉である英雄カナンの仕事見学の時間である。
「ところで本当に、ボクが戦っている所を見せるだけで良いのだろうか?そこまで見どころがあるとは思えないのだが⋯⋯」
「とんでもない。生徒たちにとっては、貴重な経験になるだろうさ」
カナンさんは謙遜しているが、辻宮先生の言う通りである。自分とは異なる勇者の戦い方等を見るだけでも、意外と学べる事は多い。それが七星勇ともなれば尚更だろう。
因みに、俺たちが先程利用した演習装置で戦っている所を見学するという案もあったが、『実際の仕事振りを見せる』という目的や、あとは緊張感等の観点から結局こうなったらしい。
「まあ、可愛い後輩たちのためになるのなら、そのくらいお安い御用だ」
忙しい所を態々来てくれているだろうに、本当に凄い人だと思う。
「現在、想定戦闘区域内に2体のレベル3魔物の予兆があります。出現予測時間は、それぞれ凡そ15分後と45分後です」
スマホを確認した多紀さんがそう口にする。恐らく、司令部からの連絡を受け取ったのだろう。
画面を見せて貰い位置情報を共有すると、どうやら2つの出現予測地点は丁度反対側で、15分の方が若干ここからは遠いみたいだ。
「では、15分後の方はボクが単独で討伐して来よう。そちらは、45分後の方へ先行して欲しい」
「了解した。忙しなくなるが、宜しく頼む」
× × ×
その後、もう片方の魔物を討伐しに行ったカナンさんとそろそろ仕事に戻るという千穂院さんを見送り、俺たちはクラス全員で狭間の世界へと侵入した。
徒歩だと若干間に合わなさそうなので、大半のクラスメイトは変身をして駆け足状態だ。
現地に着いてから狭間の世界に侵入すれば良くね?と思うかも知れないが、これには明確にダメな理由がある。
勇者の姿を一般人に極力見られないようにするというのもその一つだが、一番の理由は魔物をこちら側の世界に侵入させないためだ。
勇者が狭間の世界に入った時、その場所には空間の裂け目が生まれる。勇者はこの自身が開けた裂け目を使って狭間から帰還するのだが、これはなんと魔物も通れてしまう。
異界の理を持つ魔物たちは、狭間の世界を越えてこちらの世界へと侵入するために本来ならば多大な時間と労力が掛かる。しかし近くに別の出口があるとなれば、その過程が超大幅に短縮されてしまうのだ。
そんな訳で、魔物の出現地点から勇者の侵入地点までは可能な限り遠い方が良いのである。
「なんか、クラスの皆が一緒に居るのって変な感じだね〜」
確かに、月島さんの言う通り不思議な気分ではある。基本的に狭間の世界へ来るのは魔物討伐の時のみなのだから、そもそもここで人と会うのが珍しい。精々、別の魔物出現地点へと向かう勇者が極稀に遠目に見える程度である。
「⋯⋯しぃちゃんだいじょぶ?装束無しだとキツくない〜?」
「⋯⋯まあ、何とか大丈夫です」
月島さんに小声で問われたので簡潔に返答する。実際、そこまで全力疾走という程でもないのでまだ余裕はある。
「と言うか、どうして小声なんですか?」
「えっ!?んん〜っと、あんまり皆に聞かれたくない話かと思ったんだけど〜、違った⋯⋯?」
「ああ、確かに?」
言われてみれば、装束無しの俺が装束ありのクラスメイトたちにそこそこ余裕で着いて行けているのは少し不自然かも知れない。
これは勇者レベルによる基礎スペックの差なのだが、そうなると『あれ?もしかしてお前レベル3か?』と勘繰られる可能性が無きにしも非ずか。
「⋯⋯しぃちゃん、多分だけど装束とか色々秘密にしたいんだよね〜?」
「⋯⋯それはその通りですね」
「⋯⋯そういう子もたまに居るから、皆は何も思ってないんじゃないかな〜」
⋯⋯?一瞬だけ違和感を感じた気がしたが、気の所為か。
クラス内に絞っても秘密主義の人は俺を含めて数人くらいは存在しており、その人たちは今も勇者ではない素の姿のまま走っている。多分俺とは違って、シンプルに恥ずかしがり屋さんだったり、逆に厨二的精神で秘匿主義だったりするっぽい。⋯⋯顔が明らかにキツそうだけど、あんまり無理はしないで欲しい。
まあ、多少変に思われても装束は隠す方針なので、月島さんがそう言うなら一先ずは大丈夫かな。
声を潜めて会話を続けていると、いつの間にか目的地へと近付いて来たようだ。
先頭の辻宮先生が徐々に速度を落とすと、それに伴って列全体の緊張も少し緩む。
なんだかんだで狭間の世界の移動は危険が伴う物だ。俺はいつも郊外を爆走しているから流石に慣れたが、殆ど自分の担当地域しか知らないクラスメイト達にとっては中々の緊張感だったのではないだろうか。
「時間は、⋯⋯18分か。まあまあだな」
辻宮先生が左腕の時計を見て呟く。別にここで学校の訓練みたいな事をしなくても⋯⋯。いや、一応これも校外"学習"だけど、そういう事ではないだろうと言いたい。
ん?先生がこっちに歩いてくる。心做しか、威圧感があるような⋯⋯。
「それにしても、月島と坂富。⋯⋯お前ら、随分と余裕そうだったなあ??」
「「ヒェッ」」
ニンマリと口角を上げて静かな怒気を表す辻宮先生。え、笑顔なのに目が一切笑っていない⋯⋯。
「ここは日常的に命の遣り取りが発生する極めて危険な場所だ。分かるよな?」
「「はい⋯⋯」」
「あまり気を抜き過ぎると、いつか足元を掬われるぞ?」
「「すみませんでした⋯⋯」」
いや、ほんと、何も言い返す事の出来ない正論です。慣れても油断はするなって、マモ様にも日頃から口を酸っぱくして言われている筈なんだけどなあ⋯⋯。
「仲睦まじいのは良い事だが、せめて誰も見ていない所でやれ」
「いや、そんなんじゃ──────」
「ふぇ!?いやいやいや、全然そーゆーのじゃないし〜!?!?」
俺の言葉を遮り、耳まで真っ赤にして強烈な異を唱える月島さん。確かにその通りなんだけど、そこまで大袈裟に否定されると少し悲しいな⋯⋯。
「⋯⋯茶瑠兎ばっかズルい」
走っている時は余裕が無くて無言だった水倉さんがこちらへ寄って来たかと思うと、サッと俺の腕を引っ張って自分の胸に抱いた。
⋯⋯なんで?腕をとるなら月島さんの方じゃないの??
「リンちゃんまで!もー、揶揄わないでよ〜」
「お前ら本当に仲が良いな⋯⋯」
俺は半分以上巻き込まれているだけだと思うんですよね。だから先生、そんな目で俺を見ないで貰えませんか??
「てかもうすぐ時間じゃね?」
「⋯⋯ふむ、確かにその通りだ」
水倉さんが片腕を俺の腕から離してスマホを取り出し呟く。色々話し込んでいる内に、いつの間にか結構時間が経っていたらしい。
そろそろカナンさんが合流する頃合いだろうか。
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯?
「⋯⋯カナンさん、来ませんね」
「道に迷ったとか〜?」
「ありえんくね?」
出現予定時刻までは、あと3分くらいだろうか。流石にもう到着していないといけない時間だと思うのだが。⋯⋯少し嫌な予感がするな。
「何かトラブルか⋯⋯?」
辻宮先生が腕を組み唸る。小型無線機を取り出して呼び掛けているが、どうやら反応は無いらしい。
──────結局、時間になってもカナンさんは来る事はなかった。
なんでこいつらいっつもイチャイチャしてるんですか??(すっとぼけ)
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