Ep2-14 校外学習⑥
「すみません、遅くなりました」
そう言って入室してきたのは一人の女性。
肩口で切り揃えたプラチナブロンドの髪に、空のように澄み渡る碧眼。
白を基調とした鎧には所々に金の意匠が施されており、腕や脚、肩や胸元などの要所を覆っている。所謂軽鎧、もしくはライトアーマーと呼ばれる物だ。
腰から提げた両手剣は鎧と対のデザインになっていて、それが専用武器である事が窺える。
まるで物語に出てくる聖騎士のような、理想の勇者と呼べる存在がそこには居た。
彼女は俺たちが居る事に気が付くと、丁寧に頭を下げる。
「⋯⋯おや、これは失礼を。客人まで待たせてしまうとは」
「いや、我々が来るのが少し早過ぎただけだ。気にしないでくれ」
「わたくしもついさっき来たところですわ」
⋯⋯現役のレベル4勇者に、元レベル4と5の勇者が一同に会しているだと?流石に豪華メンバー過ぎないか??
「改めて自己紹介を。ボクはカナン。ここで働いている勇者で、君たちの先輩だ」
そう言うと彼女は慣れた仕草で優雅に一礼をした。
『まるで貴族みたい⋯⋯』と誰かが呟いたが、確かにそう感じさせるオーラのようなものがこの人にはある。
「ふふっ、ボクも皆と同じ、普通の人間だよ」
先程貴族みたいと呟いた女子生徒の方を見て微笑むカナンさん。微笑まれた子は『キャー!』と色めき立っている。⋯⋯何だろう、あの人の周囲だけキラキラと輝いて見える気がする。
「彼女には魔道具の耐久テストをお願いしておりましたの。良かったら皆さんも見ていって下さいな」
「それはありがたい。是非お言葉に甘えさせて貰いましょう」
千穂院さんと辻宮先生がこの後の予定について話している。どうやら、本来ならこの耐久テストの後に、カナンさんと顔合わせをする予定だったらしい。
「それでは皆様、こちらへどうぞ」
多紀さんに案内されて、見学していても他の職員たちの邪魔にならないスペースに移る。カナンさんが魔道具の調整をしていた人たちと入れ替わるように部屋に入ると、ヴンッ、という装置の起動音が鳴り、一辺が3メートル程の立方体のバリアが展開された。
「ではまずレベル2から。真っ直ぐ真ん中をお願いします」
「了解です」
カナンさんがスラリと鞘から剣を抜くと、若干長めの白銀の刀身が顕になった。
「──────ふっ」
剣を正面に構え、袈裟斬りを放つ。キンッ!という硬い金属同士がぶつかるような音を立てて、彼女の攻撃はバリアに弾かれた。
「良い感じです。そのまま端、辺、角の部分もお願いします」
滞ること無く職員からの要望通りに剣を振るうカナンさん。表情は真剣だが動きにはかなり余裕が見える。彼女にとっては文字通り準備運動に等しいのだろう。
「現在うちでは、守る事に主眼を置いた魔道具開発が主流なのです」
俺たちのすぐ隣で耐久テストを眺めていた千穂院さんが、補足するように説明を始めた。
「以前は魔力を持っていない者が魔物を倒すための武器開発が盛んだったのですが、戦闘の心得の無い方が持っても効果が薄い事や、日常における危険性の面から再検討となりまして⋯⋯」
魔物に効く武器であるなら当然、人間にも有効だ。素人が適当に振り回す武器が脅威となるのは、魔物ではなく同じ素人に対してであり、これでは確かに魔物への対抗策というメリットよりも日常面での危険性というデメリットの方が目立ってしまう。
「そのため、『勇者が居ない状況でも魔物を倒す』という方向性を見直して『勇者が到着するまで時間を稼ぐ』というものに変更致しましたの」
バリアの方に目線を向ければ、今も尚カナンさんが四方八方からバリアに向かって連続攻撃を加えている。音こそ派手だが、半透明のバリアには僅かな揺らぎすら無い。
「一般的なレベル2の魔物からの攻撃でしたら、最低でも1時間は耐える事が出来ますわ」
クラスメイトから「おお〜っ」と感嘆の声があがる。確かにそれだけ時間があれば、間違い無くそのエリアの担当勇者が駆けつけられるだろう。
もしゴブリンに襲われた時にこれがあれば、俺は瀕死の重症を負わなかったに違いない。
「では、レベル3も同様にお願いします」
職員からのその言葉の直後、カナンさんの雰囲気が若干だが変わった。なんと言うか、さっきまでよりも気迫が篭もっている。
今更だが、レベル2やレベル3をお願いしますというのは、そのままそのレベルの魔物に相当する攻撃を繰り出してという意味だろう。いきなりそんな事を言われても出来る筈が無いから、恐らく何度もこのテストは繰り返されているのだと思う。
「──────はっ!」
ガキィンッ!と先程よりも激しい音が鳴り、カナンさんの剣が大きく弾かれる。
そして何度か続けて斬りつけるとバリアにピシッ!と罅が入り、その次の攻撃で完全に破壊されてしまった。
「耐久テストは終了です。お疲れ様でした」
装置が停止し、カナンさんが奥の部屋から出て来る。剣を持っていた時の真剣な表情は、既に元の涼しげな微笑みに戻っていた。
凄いな。まだ全然全力でないとは言え、結構な時間剣を振り続けていたのに汗ひとつかいていない。
「出力を上げ過ぎれば持続性やコストが犠牲になり、そちらを重視すれば今度は出力が足りない。調整が物凄く難しいのですわ⋯⋯」
頬に手を当てて呟く千穂院さん。ふぅ、と溜息を吐く姿が妙に艶めかしくて、男子諸君からの目線が熱くなっている。本当に、男って奴は⋯⋯。
「けれど前よりも低コストの試作品にも拘わらず、打ち合える回数が数合増えています。改良としては順調と言えますよ」
戻って来たカナンさんがそう述べる。攻撃を加えていた本人が言うのなら間違い無いのだろう。
「そうですわね。この調子で、可能な限り迅速に実用段階へ漕ぎ着けましょう」
素人目には十分実用的だと感じたのだが、開発者視点だとまた色々と考えなければならない事があるのだろう。
いち早くこの魔道具が完成して、俺のような犠牲者が少しでも減る事を願うばかりである。
局長と英雄の顔見せだけのはずだったのに何故か2話に跨ってしまった...
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