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怪盗勇者アルセーヌ  作者: 十河 水屑
Chapter2, 新学期とギャル勇者
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Ep2-10 校外学習②




「ここは勇者専用のトレーニングルームになります」



 次に案内されたのは、見るからにジムのような施設だった。



「各種トレーニング器具は勿論(もちろん)、スキルの使用ありの組み手専用スペースやシャワールームも完備しております」



 現在は数人がこの部屋を利用しているらしい。大人の勇者と思われる人たちが、各々(おのおの)真剣な顔付きでトレーニングに励んでいる。



「おー、あの人らがここの勇者なの〜?」



 月島さんが疑問の声を上げる。大人、しかも学校関係者ですらない多紀(たき)さん相手にその言葉遣いは、⋯⋯まあ今更か。



「いえ、彼らは別の地区担当の勇者です。非番の日にここへトレーニングにやって来る勇者は結構いるんですよ」


「ん〜?なんで?」



 ふふっ、と微笑みながら多紀さんは歩き出す。まるで、その質問を待っていたかのような反応だ。



「これが、多くの方が遥々やって来られる理由になります」



 そうして示された先には、なんと言うか全体的に黒い部屋があった。

 んー?部屋全体から微弱だけど魔力を感じるな。


 え、嘘だろ?まさかとは思うがこの部屋全部が⋯⋯。


 答えを求めるように多紀さんの方を見ると、彼女もこちらに気付いたらしくニコリと笑顔を返された。⋯⋯なんだこの人、大人の余裕に満ち溢れ過ぎだろ。



「どうやらお気付きになられた方もいるようですね。⋯⋯そう、この部屋は床、壁、天井まで含めて全てが一つの魔道具(・・・・・・)となっております」


「これ全部!?嘘だろ!?」



 クラスメイトが次々と驚きの声を出す。正直俺も同じ気持ちだ。こんな巨大な魔道具、存在を聞いた事すら無い。



「こちらは幻影魔法を応用した装置です。簡潔に纏めますと、過去に出現した魔物との模擬戦闘を可能にする魔道具でございます。あくまで模擬戦闘ですので、当然怪我等の心配はございません。勇者の皆様には、思う存分強敵と戦う訓練を積んで頂けます」



 基本的に勇者は自分と同レベル、つまりある程度余裕を持って討伐出来る程度の魔物しか普段相手にしない。近年の勇者システムが軌道に乗っていくに連れて、魔物との戦闘は格段に安全になった。

 それでも依然として怪我による引退や殉職率は高いのだが、これでも昔と比べれば雲泥の差なのだそう。


 魔物討伐が楽になった弊害として現在問題となっているのは、勇者の質の低下である。

 今や勇者はテレビやCM等にも起用され、中には歌ったり踊ったりもする最早(もはや)芸能人のような事をしている者もいる。それだけ魔物討伐以外にも気持ちを割く余裕が出来たのはもちろん喜ばしい事なのだが、そうなると勇者の人気投票の際に『純粋な強さ』以外の要素が多分に介入する事になる。


 七星勇クラスになると流石に話は変わるが、今のランキング100位以内に入るための最大の近道はテレビに出る事であるとまで言われている始末だ。

 一つ誤解しないで欲しいのだが、別にテレビやCMに出る事が悪いと言いたい訳じゃない。(むし)ろ人気を得るためのその努力自体はとても凄いものだと思う。


 俺が言いたいのは要するに、手段と目的が入れ替わっていないか?という話だ。知名度や人気を獲得するためにテレビ等に出るという手段から、テレビに出て芸能的活動をする事がそのまま目的になっているような印象を、最近の一部の勇者からは受けてしまうのだ。



 ⋯⋯とまあ俺の勇者オタク談義はさて置いて。つまりこの装置があれば、安全に強敵と戦える。リスク無しで自分の限界に挑戦出来るのだ。


 これは勇者の質の向上、更には死亡率の更なる低下にまで結び付くのではないか?恐らく、それ程価値のある代物だ。



「最新の技術を用いた特注品でして、ここを含めて日本にまだ4台しか存在しておりません。これを利用するために現在長期の予約待ちが発生しているのは、改善すべき点でございますね」



 つまり先程トレーニングルームで見た彼らの目的は、この模擬戦闘設備だったという訳だ。



「どうですか?使ってみたくなりましたか?」


「うん!でも予約待ちなんでしょ〜?」


「そうですね。今からですと、最も早いもので1ヶ月は先になります」


「じゃあダメじゃん〜!」



 ふふっ、と笑みを深める多紀さん。⋯⋯月島さんの反応が理想的過ぎて、まるで多紀さんの手のひらの上で転がされているように感じるのは多分気の所為(せい)ではないだろう。



「今回は試用という事で、特別にお一人様一回ずつの空きをご用意させて頂きました」


「「「マジで!?」」」



 クラスメイトの数人から歓声が上がる。あのダウナーな水倉さんでさえ、眼をキラキラと輝かせている。



(ただ)し時間の兼ね合いの都合上、申し訳ありませんが今回は皆様適正レベルでの実施となります」



 予約が詰まっている所を特別に空けてくれたと言うのだから流石に無理は言えない。それに、同じレベルでも戦った事の無い魔物は数え切れない程いるのだ。皆ワクワクした顔で専用のモニターを見つつ、自分の相手を吟味している。



「それでは、トップバッターは誰に致しますか?」



 「「「はい!」」」



 ⋯⋯まあそうなるよな。皆さっきから、早くやりたいってウズウズした様子だったし。

 結局、話し合っても中々決まらなさそうだったので公平にジャンケンで決める事となり、見事勝ち残ったのはなんと月島さんだった。



「マジ?あーしが一番乗り〜」


 皆は口々に羨ましがったり悔しがったりしているが、どうせ後で順番は来るのだからと特に不満は出なかった。


 月島さんが黒い部屋の中に入ると、多紀さんが何やら手元の機械を操作し始める。俺たちはアクリルっぽい壁(恐らくこれも魔法的処置が施されていると思われる)の向こう側から眺めている形だ。



「準備は宜しいですか?」


「うん!いつでもおっけ〜」



 多紀さんがモニターを操作する手を一旦止めて問い掛け、軽く準備運動をしていた月島さんが元気良く答えた。



「それでは訓練を開始します」


「よっしゃ、アゲてくよ〜!」



 月島さんが装束へと着替え、模擬演習がスタートした。




ここまで読んで頂いてありがとうございます。

もし宜しければ、ブックマークや下の☆から評価をして下さると作者が喜び、封印された右腕と左腕と右脚と左脚が揃った時デュエルに勝利します。

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