Ep2-9 校外学習①
「おはよ、しぃちゃん!」
「お、おはようございます」
学校や魔物退治に専念していれば二週間などあっという間に過ぎてしまう。という訳で、俺たちは魔法省特殊防衛局本部へとやって来ていた。
バスに乗って30分と少し。思っていたよりも近かったが、良く良く考えてみれば学校自体が政府直属の機関なのでさもありなんといったところか。
「見て見て、今日も付けて来たよ〜」
そう言って自分の前髪を指差す月島さん。そこには、この間俺があげたウサギ型のヘアピンが光っていた。
「可愛くてマジテンション上がる〜!」
「そ、それなら良かったです」
マジテンション上がってるらしい。そこまで喜んで貰えるとプレゼントした側のこちらとしても嬉しくなる。
「なになに、また坂富さんに絡んでんの?」
そう言って近付いて来たのは、月島さんとはまた別の女子だった。
彼女は水倉 凛。クラスメイトの女子の名前はなんとか全員覚えたので分かる。⋯⋯え、男子?んなもん後だよ後。
月島さんの友達で、休み時間によく一緒にいるのを見掛ける。姫カットって言うんだっけ?黒髪を俺よりも長く伸ばしており、月島さんよりも若干ダウナーな印象を受ける子だ。
「あ、リンちゃんおはよ!違うから!しぃちゃんにこないだのお礼言ってるだけ〜」
「お礼?てかいつの間にそんな仲良くなったん?」
ギ、ギャルが増えた。ギャルとは仲間を呼んで増える生き物だったのか⋯⋯?
「もう一緒にショッピングもしたもんね〜」
「マジ??」
「出掛けていたらたまたま会ったので⋯⋯」
⋯⋯ギャルの密度が高過ぎて窒息しそう。いや、空気が悪いとかではなくて、精神的に。
「これしぃちゃんに貰ったんだよ〜」
「は?羨ま」
「私の服を選んでもらったお礼に⋯⋯」
水倉さんにヘアピンを自慢する月島さん。そこまで羨ましがる程の物でもないと思うが⋯⋯。
「てかしぃちゃんって何?ウチも呼んでい?」
「アッ、ハ、ハイ」
あっ、また緊張した勢いで返事してしまった。⋯⋯まあ、呼び方くらい何でも良いか。彼女たちの距離感が近いのは今更だし。
「これでウチも友達だから。今度遊びに行こ?」
「ハ、ハイ⋯⋯」
「やった、皆で行こ行こ〜!」
なんと言うか、水倉さんは月島さんよりも押しが強いな。俺のコミュ力では返事をするのがやっとである。
「しぃちゃんごめんね?リンちゃんちょっと強引なとこあるから〜」
「い、いえ、大丈夫ですよ」
「⋯⋯ごめん。テンション上がってつい」
なんか皆テンション上がってない?校外学習だからか?
というか、それテンション上がってたんだ。表情とか声色からは感情が読み取り辛いタイプの人なのかも知れない。
「おーいお前ら、あんまりはしゃぐなよー」
「「は〜い」」
先生に注意されてしまったので一旦口を噤む二人。ソワソワしている所を見ると、二度目の注意もそう遠くない気がする。
引率の辻宮先生(今日もジャージ姿だけど本当に大丈夫?)に率いられ、どことなく近未来的な印象を受ける巨大な建物に足を踏み入れた。
「魔物対策学校本部勇者学科の皆様、ようこそお越し下さいました」
エントランスで出迎えてくれたのはスーツ姿の綺麗な女性。一分の隙も無くきっちりとしていて、これが大人の女性かと感心させられる。⋯⋯先生にも是非見習って欲しい。
「私本日の案内役を務めさせて頂きます、多紀と申します」
そう言ってぺこりとお辞儀をする多紀さん。⋯⋯この人、魔力を感じる。勇者ではなさそうだから多分魔道具かな。まあここは国の重要な施設だし、護身用とかそんなところだろう。
「引率の辻宮だ。今日は宜しく頼む」
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
「はい、お話は伺っております。こちらこそ宜しくお願い致します」
一斉に挨拶をする俺たち。多紀さんはニコリと笑うと、進行方向へと手を向けて案内の開始を示した。
「それでは早速参りますので、逸れないように着いてきて下さいね」
× × ×
「皆様、ここが特殊防衛局総司令部となります」
エントランスから程なくして、一際大きな扉の前で案内の列が止まった。どうやら最初の目的地に到着したらしい。
「現在も業務は稼働中ですので、極力私語は謹んでゆっくりとお入り下さい」
自動ドアがウィン、と小さく音を立てて開く。多紀さんが中へと入ると、俺たちもそれに続いて順番に進んだ。
「ここでは日本全国の魔物及び予兆の出現探知の情報の総括や、担当エリアの勇者への討伐依頼の手配を主に行っております」
中では沢山の職員が電話を掛けたりパソコンで次々に何かを入力したり、何やら分厚いファイルをあっちこっちへ持って行ったりなど、とにかく忙しなく仕事をしていた。
「そして正面に写っておりますのが、現在の魔物の出現状況になります」
多紀さんが指差す先には巨大なスクリーン。レーダーのようなものが幾つも写し出され、それらが日本列島を丸ごと覆うように展開されている。
そして画面上の日本では黄色い点が沢山光っており、それに混じって赤い点が少し見られる。恐らく黄色が予兆、赤が魔物の発生地点をそれぞれ示しているのだろう。
「魔物のランクによる勇者の選別に依頼予定の勇者の直近の職務履歴やバイタル情報の管理等、見て分かる通り常に仕事が絶えない部署になります」
野良勇者の俺が一件魔物討伐を取ったとすると、一体どれだけ彼らの仕事が増えるのだろうか。⋯⋯駄目だ、これは考えないようにしよう。
「因みに、レーダーは探索を得意とする勇者たちの能力を応用して魔道具化した物になります。この他にも魔道具による設備は幾つも存在し、技術部や研究部の方で日夜開発、改良が進められております」
勇者は魔物に対抗出来るが、一般人はそうではない。魔物関連の事故を防ぐためにも、魔道具の開発はどんどん促進されているのだと、多紀さんは話を締めた。
「それでは皆様、次へ参りましょうか」
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
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