Ep2-8 ホームルームにて
GWなので更新します
「校外学習を行う」
ある日のホームルームにて、左眼に眼帯を付けたボサボサ髪のジャージの女性、⋯⋯うちのクラスの担任である辻宮先生がそう告げた。
辻宮 霧江。魔物対策高等学校本部勇者学科の担当教員で、なんと元レベル4の勇者である。十年程前に怪我により引退してしまったが、次代の勇者を育成するためにこうして教壇に立っている。
引退によって勇者の加護を全て失っているのに、レベル2の勇者を軽く打ち負かせると言えばその凄さが分かるだろうか。レベル3以上となると流石に難しいが、スキル無しでの戦闘能力なら引けを取らないという。
勇者になる前の俺がどう足掻いても越えられなかった壁だ。引退したとは言え、これがレベル4勇者の力なのである。⋯⋯因みに年齢は教えてくれなかった。
「「校外学習?」」
数人のクラスメイトが反射的に応える。その中には月島さんも含まれていた。彼女はどうやら、こういう時真っ先に返事をしてしまうタイプらしい。
「そうだ。毎年一年生はこの時期に校外学習を行っている。行先は魔法省の特殊防衛局本部だ」
魔法省。この世界に魔物が現れてから設けられた行政機関であり、魔法、つまり魔物や勇者関連のほぼ全てをここが司っている。
特殊防衛局というのは魔法省の中の一部署で、名前の通り魔物から国を防衛する事を目的とした組織だ。本部は要するに日本全国にある支部を纏める司令塔のようなもので、他にも技術部署や研究部署など詳細は多岐に亘る。
基本的に政府に所属する勇者は、学校を卒業後は特殊防衛局に就職する事になる。
野良の場合はこの限りではないのだが、野良だったとしても大抵は学校卒業を機に政府に所属する者が殆どだ。
ぶっちゃけた話、勇者が野良で居るメリットはあんまり無い。精々が組織に囚われず自由に行動出来るという点だが、そんな物よりも享受出来る諸々のサポートの方が余程魅力的である。
俺はそんな組織の柵が嫌で現在野良な訳だが、マモ様の助言に従って学園を卒業したら政府に所属するつもりである。
⋯⋯問題はそれまでに実績を積まないといけない事だけど、まあそれは追々考えれば良い。
それでも野良を貫いている勇者は、勇者としての仕事の他にどうしてもやりたい事若しくは本業があるか、余程組織や集団で行動するのが嫌いな者の大抵二択である。
「簡単に言えば職場見学のような物だ。普段何気無く熟している魔物退治の裏側、ひいてはサポートの重要性を学ぶ事が主な目的となる」
因みに、もしも俺が勇者にならずに普通科に進学していた場合、卒業後はこう言ったサポート担当の場所に就職する事になっていたと思う。それらも十分社会のためになる大切な仕事である。
「そして、最後は『七星勇』の仕事振りを実際に見て貰う」
「えっ、七星勇!?」
教室内が一瞬にして騒めく。声は出していないが俺もその一人だ。
「お前ら運が良いな。なんと今年は『英雄』カナンが担当だ」
「マジかよ!?すげぇ!」
クラスメイトの男子(忘れがちだが共学なので当然男子も居る)が声に出して驚いた。それ以外の皆も凡そ似たような反応で、ミーハーな女子はキャッキャと色めき立っている。
七星勇、それは日本全国に存在する数多の勇者たちにとっての誉れである。毎年BraveTubeの人気投票によって選ばれ、全勇者の中からその年の頂点の7人が決まる。7人である理由は、原初の勇者たちの数に準えているかららしい。
勇者たちのモチベーション向上のために割と最近に導入されたシステムで、これによって勇者の偶像化が加速している節はある。アイドル勇者なんてその代表例だろう。
そして序列第一位、通称『英雄』カナン。正真正銘全勇者の頂点に座す女性であり、彼女がレベル4になった年からかれこれ三連覇という偉業を成し遂げている。
端正な顔に物腰柔らかな立ち振る舞い。数々の強大な魔物を打ち倒して来たその姿は、正に『英雄』と呼ぶに相応しい。
俺がスマホの画面に穴が開きそうなほど動画を視聴し、焦がれるほど憧れた人物の一人である。
担当の勇者が俺の想像した人物と違った事によって渦巻くこの感情は落胆かそれとも安堵か。⋯⋯今は会いたくないから安堵かな。
「分かっているとは思うが、呉々もサインを強請る、握手を求める等の仕事の邪魔になる行為はしないように」
一部の生徒から残念そうな声が挙がるが、当然だ。推しに迷惑を掛けた時点でそれはもはやファンではない。
「日程は今日から丁度二週間後だ。それまでは今まで通り、各々勉学や任務に励むように」
先生はそう言ってホームルームを締め括った。
(作者が)忘れがちだが共学なので、いずれ男の勇者も出てきます。多分
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
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